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ITのフロンティア :  ProVision 30年の歩みを振り返る

By IBM ProVision posted Tue September 24, 2024 01:06 AM

  
本稿ではProVision 30年の歩みを振り返り、どのような時代やITの変化が起き、その中でProVisionの伝えてきたことを概括して、根底に流れる変化の軸を掘り起こしてみたいと思います。
佐貫 俊幸
Toshiyuki Sanuki
日本アイ・ビー・エム株式会社
研究開発
名誉技術理事
日本IBMに入社し、東京基礎研究所および製品開発部門にてマルチメディア関係の研究・開発に従事。米国IBMで先進ソリューション開発のアーキテクトを務めた後、テクノロジー関連のビジネス開発および戦略策定をリードする。現在は、技術戦略のアドバイザーとして研究開発活動を支援する。

はじめに ― この30年間の大変化

ProVisionは、今から30年前の1994年4月にPROfessional VISIONという名前のお客様と日本IBMを繋ぐ技術情報交換誌として創刊されました [1]。1996年 No.12でProVISIONに名前を変え、さらに、2021年には媒体も紙からデジタルに、その翌年には現在のProVisionに変えながら、多くの皆様に支えられ今日まで続いてきました。
ProVisionが創刊された1994年という年は、歴史的に見ても大きな変化が生まれています。例えば、Web ブラウザーの Netscape Navigatorの初版がリリースされ、米国ではYahoo社やAmazon社が誕生し、今まで限られた研究者のツールであったインターネットが、人々に受け入れられるようになった大きな転換点であると言えます 。この間の主な変化を振り返ると、情報技術(IT) の進化がビジネスや社会活動に多大な影響をもたらした30年でした。この間の特徴的な変化としては以下の点が見らます。
• インターネットの爆発的普及と進化
• クラウド・コンピューティングの普及
• 人工知能(AI)の高度化による自動化や新しい利活用の広まり
• スマートフォンなどのモバイルの浸透による人のつながりやコミュニケーションの変化
• オープンソース・ソフトウェアの広まりによる枠を超えたイノベーションの加速
• これらを支える半導体やテクノロジーの継続的な進化
 
コンピューターの処理能力に注目すると、例えば毎年公開されるTop 500  と呼ばれるスーパーコンピューターのランキングを見ると、この30年間に約840万倍というムーアの法則を遥かに超える性能向上が実現されたことが分かります[2]。
このようなテクノロジーの進化に支えられ、ビジネスにも根本的な変化がもたらされた30年だと言えます。
• オンデマンドやサブスクリプションなどの新しいビジネスモデルの創出
• 顧客や個人との繋がりの拡大とビジネスへの影響力の増大
• ERP、SCMやAIによる業務の効率化と迅速化
• 市場変化への柔軟な対応力の向上
 
振り返って見ると、この30年でITとビジネスの距離が急速に縮まり、ITがないビジネスは考えられなくなりました。
その一方、2000年のITバブル崩壊、2008年のリーマンショック、2020年の新型コロナによるパンデミックなど世界規模の急激な経済的変化が起きたのもこの時期の大きな特徴だと言えます。日本では、1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災など、社会活動の根幹を揺るがす変化が起きました。今までにない急激な変化が世界規模で起きる傾向は、この30年の大きな特徴であり、このような変化の中でも如何にビジネスの成長に繋げていくかが企業活動の大きな課題となっています。
 

30 年を貫くProVisionの想い

この変化の激しい時代において、ProVisionが一貫して変わらなかったのは、お客様やパートナーの皆様が未来を考える上での信頼おける羅針盤になることを目指してきたことです。ProVision創刊号には、当時の日本GUIDE/SHAREの中田実幹事長から「3年後5年後のビジョンを見せてほしい」というご期待のメッセージが示されています [1] 。
技術の解説は多くありますが、ProVisionではITがお客様のビジネスをどのように変え、どのように価値をもたらしたのか、その裏でどのような工夫や努力がなされてきたのかをお伝えすることで、お客様が将来を考える上でお役に立てる内容を提供してきました。特に、各号には「マネジメント最前線」という経営者視点でのメッセージが盛り込まれ、経営や戦略的な意味を分かりやすく伝えてきました。また、ソフトウェア、エンタープライズ・アーキテクチャー、データ活用とAI、イノベーションの創出などのテーマは具体例を盛り込みながら多面的に取り上げて、お客様の将来像を描くヒントになることを目指してきました。
加えて、技術的なテーマに留まらず、プロジェクトマネジメント、セキュリティやガバナンス、さらにはスキルや人材育成などの普遍的なテーマにも焦点を当てて掘り下げてきました。
そして最も重要な点は、IBMからの最新情報の提供だけでなく、お客様の経験や実践を共有することで、より多くのお客様と私どもが成長する「場」として歩んでききたことにあります。
 

 30 年の歩みから見えてくること

では、具体的にProVisionの歩みを振り返ってみましょう。
過去30年分のProVisionの特集テーマや記事のタイトルの頻度を分析すると図1のようになりました。出現頻度の一番高かったのは「トランスフォーメーション」と「サステナブル」でした。言うなれば一過性の変革ではなく、「持続可能性のある変革」を追い求めてきたことが伺えます。現在、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の言葉を聞かない日がない程に、トランスフォーメーションは決してBuzz Wordではなく、普遍的な課題であります。時代や環境の変化に対応しながら成長し続けることはどの企業でも望むことですが、その実現は容易なことではありません。ProVisionでは変革の歩みを継続的に取り上げてきました。
次に出現頻度が高かったのは、「ソフトウェア・エンジリアリング」と「プロジェクトマネジメント」でした。この両者ともシステム構築の上で重要な項目ですが、ProVisionとして重点的に扱っている点は興味深いものがあります。従来のウォーターフォール型からアジャイルやDevOpsなどのソフトウェア技術や手法が広まるにつれプロジェクトの進め方も大きく変わったのがこの30年だと言えます。最近では、AIを用いて、より効率化や自動化が図られるようになり、この分野の重要性はさらに増していくと思われます。
 


図1.ProVisionの特集テーマと記事タイトルの出現頻度の可視化  
 
以下に、ビジネスを支えるIT、ソフトウェア、そして人材とスキルの観点でProVisionからどのような変化が読み取れるか述べていきます。

 

(1)  企業  ITシステムの変化

90年代初めまで企業のITシステムは、開発部門の設計支援、工場での生産プロセス管理、経理部門の予算管理・資金管理、人材部門のリソース管理、など企業内の各部門で生じている課題解決のためにITが導入され、各部門の生産性向上などに大きく寄与してきました。その一方でこのような部門最適、機能最適による垂直統合のアプローチはサイロ化を招きました。
90年代後半からインターネットの爆発的な広まりは、企業活動にも大きな影響をもらしました。企業活動の複雑さが急激に高まり、顧客や市場の変化へより迅速に対応するために、顧客や利用者視点で部門を超えたインテグレーションの必要性が高まったのです。その課題に対応するため、Service Oriented Architecture (SOA)をはじめとするさまざまな技術が開発されました。これによって、企業内のプロセスをエンド・ツー・エンド(End-to-End) で統合することが可能になり、サービス主体のより柔軟なシステムが実現できるようになりました [3][4]。
その一方、2000年後半から、全てのIT資源を自社内に確保するのではなく必要な資源を外部から調達・消費するオンデマンド型のモデルである、クラウド・コンピューティングが広まりました。これにより、サーバーやストレージなどのITインフラだけでなく、ソフトウェアやサービスもオンデマンドで利用可能になり現在に至っています[5] [6]。このような流れに支えられ、企業のパートナーやサプライヤー、さらには顧客とも統合されたモデルが実現され、企業の枠を超えたエコシステムが形成されるようになりました。このような進化の方向性を眺めると、ハイブリッド・クラウドによるビジネスの統合は自然な流れのように捉えられるのではないでしょうか? このような変化を図式化したものを図2に示しました。
 
図2.企業ITシステムの成長段階 
 
このような変化は、ITによるビジネス変革の視点をも大きく変えることになりました。ビジネスプロセスのリエンジニアリング(BPR)をベースにした改革の時代と、ハイブリッドによる改革の時代では根本的な違いがあります。すなわち前者は現行プロセスのより良い改善を求めるアプローチに比べ、後者は従来のやり方に拘らずイノベーションによるブレークスルーを求めるアプローチの違いです。表1にその主な違いをまとめました。この30年の間に変革の観点が劇的に変わったことに気付かされます[5][7][8][9]。
 
表1.ビジネス変革の観点の変化 

BPRの時代

ハイブリッドの時代

 目的

 欠陥ゼロ

 遅延時間ゼロ (即応性)

 優先順位

 企業内の効率

 バリューネット全体の生産性

 成果

 継続的な優位性

 継続的に進化する戦略的優位性

 フォーカス

 継続的な改良

 継続的なイノベーション

 

(2) ソフトウェア  の変化

この30年の変化を象徴するのはソフトウェアの進化です。MosaicなどのWebブラウザーを開発したMarc Andreessen氏が2011年に語った”Software is eating the world”  [10] が端的に表しています。70年代から80年代はハードウェアの付属物的な存在だったソフトウェアがインターネットの広まりとともに、その重要性を増し、このような言葉に繋がったと思います。
実際ProVisionにおいて、ソフトウェアおよびそれによって加速するビジネスの変革を取り上げる割合は年を追うに連れて高まっており、分散コンピューティングを支えるミドルウェアやグループウェアに始まり、SOAによるサービス化の加速、そしてクラウド・コンピューティングによる企業ITの変革などを取り上げてきました。
また、ProVisionでは、ソフトウェア・エンジニアリングに関しても重点的に掘り下げてきました。これはITシステム構築において、ウォーターフォールに代表される従来型のシステム開発手法から、より迅速にかつ柔軟に構築が可能になるアジャイルやDevOpsなどの手法に変化していく中での大きな転換点を示していると言えます。加えて、企業の枠を超えたコミュニティ主体のオープンソース・ソフトウェアの広まりによるソフトウェア開発の根本的な変革についても焦点を当てています [11] 。
このようなソフトウェアの進化は、近年目覚ましい進化を遂げるAIによって更に加速されると思われます。特に、今までの労働集約的な開発・構築・運用がAIを用いてより自動的にかつ効率よく変わることが伺えます [12][24]。
これからもソフトウェア技術の進化に支えられ、企業のあり方が大きく変わり、さらには新たなビジネス・モデルの創出につながっていく流れが読み取れます。

 

(3)  人材 とスキル

人材の育成は、どの企業や機関を問わず共通の課題です。そのため、今まで ProVisionでは人材育成やスキルなど人にまつわるテーマを重点的に取り上げてきました[13][14][15][16][17]。
従来、人材育成といえば業務に必要な知識やスキルを身につけることに目が行きがちでした。しかしながら、仕事や役割をうまく成功裡に導く行動化能力、いわゆるコンピテンシーが重要になっています。 技術者の役割も大きく変わり、技術的な能力とともに高いコンピテンシーを備える技術者が求められるようになりました。ProVisionでは早い段階からコンピテンシーを高める取り組みを紹介し、新しい時代の人材育成のあり方を示しています[15] 。
また、企業に雇用される社員としての人材(ヒューマンリソース)からより高い付加価値を生み出す経営財産である人財(ヒューマンキャピタル)に変化する中、社員が市場価値の高いプロフェッショナルとして活躍し、企業と個人の成長に繋げていくための取り組みについて取り上げています[16] 。
ProVisionとしてユニークな内容の一つに論文があります。論文は、堅苦しい印象を受けることもありますが、技術内容を客観的かつ明瞭に伝える上で非常に重要なフォーマットであり、その執筆活動を通じて技術者としてのスキルを高める効果があります。ProVisionは、お客様やIBM社員の論文を通じて双方の知見を共有し、かつスキルの向上を図る場としての役割も担っています[18][19][20]。
 
 
 

おわりに

限られたページ数の中でProVision 30年分に記された内容を全て網羅することは不可能です。しかし、本稿で述べた変化や方向性はこれからのITの姿を考える水脈として生きており、未来につながるヒントを多く見つけることができます。
1994年に発行された創刊号[1]では「適材適所のコンピューティング」という特集テーマを掲げ、分散コンピューティングがこれから大きなインパクトをもたらすことが示唆されていました。この流れは、今では当たり前と思われていますが、ネットワークを介して多種多様な資源を有効活用する方向性はクライアント/サーバー [21]、オンデマンド [5]、クラウド・コンピューティング [22][23] などと繋がり、本年の特集である「コンピューティングの未来」[12] で示したBit  (古典コンピューター) 、Neuron  (AI システム) 、Qubit  (量子コンピューター)の三位一体のコンピューティングのビジョンに生きています。これはコンピューターが柔軟にインターネットに接続可能になっただけでなく、仮想化技術の進化やプログラミング・モデルの大きな進展により異なるタイプのコンピューターを柔軟に利用可能になったからだと言えます。この技術の進化に伴って、ITのビジネスモデルも大きく変わってきました。
現在IBMが注力しているハイブリッド・クラウドとAIによるビジネスの変革の方向性はProVision 30年の歴史を見ても自然な流れであることを感じ取れると思います。
変化の激しい情報処理技術も大局的に捉えることにより、その変化の根底に何があるのか知ることができると思います。読者の皆さんもProVisionのバックナンバーを時々振り返っていただき、未来の姿を描く羅針盤として活用いただければ幸いです。
  
 
[参考文献]
[1]  IBM: “適材適所コンピューティング”  PROfessional VISION No.1 (1994/4) 
[2] TOP500 “Performance Development”,https://top500.org/statistics/perfdevel/
[7] IBM: “リエンジニアリング”  PROfessional VISION No.11 (1996/Fall)
[10] Marc Andreessen: “Why Software Is Eating the World”  The Wall Street Journal (2011/8/20) https://www.wsj.com/articles/SB10001424053111903480904576512250915629460
[13] IBM: “情報リテラシーとスキルの向上” ProVISION No.24 (2000/Winter)
[14] IBM: “e-business推進基盤としてのITと技術者” ProVISION No.31 (2001/Fall)
[15] IBM: “コンピテンシーと人材育成”  ProVISION No.33 (2002/Spring)
[21] IBM:   “オープン・クライアント/サーバー”  PROfessional VISION No.6  (1996/6)
 

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