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論文のすすめ –変化の激しい今こそ取り組む技術者としての自己研鑽(vol99-0004-ibm)

By IBM ProVision posted Sat April 15, 2023 11:06 AM

  
論文執筆がエンジニアにもたらす価値とは。IBM Distinguished Engineerであり数々の論文の審査を担当する久波 健二が解説します。
世の中のスピードが加速し、社会やビジネスが急速に変化しています。企業・業界・世代の枠を超えた多様な人々がチームを組み、異なる視点でアイデアや知見を交換し、成果の集合体として「論文」を世の中に発信していく共創活動(*1)を日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)では推進しています。手軽に知見を共有できる様々なツールが一般的に浸透するなか、規定に沿って推敲を重ね、学術的なイメージもある「論文」を執筆することは、エンジニアにとってどのような価値をもたらすのでしょうか。IBM Distinguished Engineerであり数々の論文の審査を担当する久波 健二が、昨今の論文の傾向や自身の執筆経験も交えて解説します。

プロジェクトにおける試行錯誤こそ論文の入口
私の論文人生は現在の「ナレッジモール論文(*2)」の前身であり、まだ社内のみで展開していた「IBMプロフェッショナル論文」と呼ばれていた時代に遡ります。最初は入社3年目に先輩社員の勧めもあって、参画したプロジェクトで採用した技術に関して試行錯誤した結果と技術動向を追加調査した結果をもとに、将来の方向性の提案や想定される課題について解決案と将来要件を提示しました。具体的にはディレクトリ(登録簿)サービスについて、当時単体システムで実装していた商用製品比較をもとに、将来的に企業内の分散システム間や企業間のエコシステム全体に対象を広げた場合に必要となる分散カタログ、ライフサイクル管理、セキュリティ等の要件を定義し、どのような技術で対応できるか、そしてどのような手順で実現すべきかを論じています。最初は単なる製品比較と経験事例だったものを、どうすれば論文にできるか悩んだ記憶があります。技術的にもクラウド前(無い)時代に企業を跨るディレクトリを妄想するために世界中の住所録であるDNS(Domain Name System)の仕組みを参考にしました。
数々の論文の審査に携わり、最近の傾向として感じることは以前より論文テーマの専門性が高くなっていることです。また論文を立証するための参考文献数も増加しています。応募者の論文執筆慣れもあるかもしれませんが、論文自体の品質が向上に寄与して素晴らしいです。
一方で、テーマがアカデミックに傾斜している感覚もあります。プロジェクト現場や自己研鑽で得られた成果は論文として十分有用ですので、先入観にとらわれず様々な技術者の方がチャレンジする価値は非常に高いと考えています。


第一線の専門家によるアドバイスが拓く道
私が最初に論文を執筆した際に感じたことは、想像以上に丁寧なフィードバックが得られ、部門を超えたアピールになったということです。論文審査員は対象領域における専門家であり、どんな内容であっても動向や実例をもとに的確なアドバイスが得られます。これは一方通行の自己満足で終わらず、気づきや次の取り組みに向けての指針になります。また通常業務以外の情報発信として評価も受け、自身のブランディングができますので、他部門の先輩や関連コミュニティーからお声がけいただくこともありました。執筆作業自体は、限られた文字数で情報を整理し、論理的に記述する勉強になります。アドバイスをもとに論文内容を更に精錬することで、イベントでの講演や社内外アワードへの応募と受賞など、様々な可能性が拓けるというのも論文がもつ大きな価値のひとつです。

変化の激しい時代における論文の価値 - 変わるものと変わらないもの
近年、SNSでも論文形式で提供している記事もあります。一般的にSNSは情報鮮度を重視し、論文は広辞苑に「研究の業績や結果を書き記した文」とあるように、収集した情報をもとに自らが課題設定し考察した結果を整理しますので有用性や信頼性が重視された発信と私は考えています。SNSはビュー数が評価軸ですが、論文は他の論文による参照や引用数といった著作としてのより具体的な貢献度が評価されます。
また最近では、AIによる論文執筆がニュースになりました。私自身は、従来の情報収集手段の延長線上にあるものとして、または文章の体裁や文字校正、更にシミュレーションといった用途としてAIを補助的に有効活用して良いと考えています。AIのなかでも自然言語を用いた対話を有効的に処理するための「プロンプトエンジニアリング」と呼ばれる最適な情報の導出や、論文課題の設定、仮説検証プロセスは、有用性を重視する論文の本質であり、これらは執筆者の独自性が展開されますのでAIではなく人が注力するポイントになります。


良い論文とは読み手の視点と起承転結
前述の通り、プロジェクトや研究を通した知見を論文という形で世の中に発信していくことは技術者として非常に価値のある活動です。近年の技術研究テーマの動向としては、現在注目されているAIが多く、今後も「先進 IT で描く2025年の世界(*3)」でご紹介している10+1のテクノロジーが論述されると考えています。
さて、良い論文に必要な要素について、私の経験をもとにご紹介します。まずは対象論文の応募要項を確認し、採択基準を満足しているか、忘れずに検証しましょう。一般に「新規性」「有用性」「信頼性」が重要ですが、成果が適切に評価されるためにも評価項目を確認ください。
また審査員の立場からは読み易さ、つまり論理展開が筋道立てて段階的に進めていることが重要です。特に技術論文の場合は、分析データの説明や調査結果を深く説明するあまり、結果的に何が言いたいのか、不明瞭な場合があります。まずは起承転結に当てはめると良いでしょう。良い論文、つまり多くの人に参照や引用されるには、読み手の視点が欠かせず、自分以外の他者に推敲をお願いするのが一番です。
コロナ禍で業務以外の場面で会話する機会が激減していると思います。その意味でも論文執筆タスクを立ち上げて、各自手分けすることでモチベーションを維持できますし、高品質で効率的に成果を出すことが可能です。
最後に「2022年ナレッジモール論文」「2023年ナレッジモール論文」のなかでも特に優秀な成果をあげられた活動をご紹介します。2024年も日本IBMではこの共創活動を強力に推進します。たくさんの方の参加を楽しみにしています。ぜひご応募ください(*2)。

→ 2022年ナレッジモール論文:入賞論文はこちら

→ 2023年ナレッジモール論文:入賞論文はこちら


参考文献
*1. 「IBM Community Japan」, https://www.ibm.com/community/japan/jp-ja/
*2  「ナレッジモール論文」, https://community.ibm.com/community/user/japan/blogs/ibm-ibm-community-japan-office1/2022/08/04/knowledge-mall-paper#content
*3 「先進 IT で描く2025年の世界」, https://www.ibm.com/resources/consulting/jp-ja/industry-pov/#1

著者
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久波 健二  Kuba Kenji
日本アイ・ビー・エム株式会社
技術理事(IBM Distinguished Engineer), Hybrid Cloud Service CTO, 保険インダストリーCTO, TEC-J 2022プレジデント
大規模で複雑な開発プロジェクトにて、ITアーキテクチャ策定から本番稼働まで幅広く参画し、お客様の成功を支援。最近はマルチクラウド環境での基幹システム・アーキテクチャ策定活動を中心に従事。アーキテクトCoC(Center of Competency)リーダーとしてアーキテクト人材育成、TEC-Jプレジデントとして日本IBMの技術コミュニティ活動を推進。


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