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ビジネス変革のためのAI:AIプラットフォームを支えるテクノロジー(前編)

By IBM ProVision posted Wed May 14, 2025 10:30 PM

  
本シリーズでは「ビジネス変革のためのAI」をテーマに、企業で導入が進む生成AIの活用事例、そして業務の一部をAIで効率化する「+AI(プラスAI)」からAIを前提にビジネス全体を再設計し変革させる「AI+(AIファースト)」への進化について解説してきました。IBMではAIを速やかにビジネス価値に転換していくことが重要と考えています。最終回の今回は、お客様がAIを活用できる領域を体系的に整理した「デジタル変革のためのAIソリューション」と、それらAIソリューションを実行するための「AIプラットフォーム・サービス」についてご紹介し、その中でIBMの注力するテクノロジーについて解説します。今回は、前編と後編に分けてご紹介します。

野村 幸平
Nomura Kohhei

日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部 クライアントエンジニアリング
プリンシパルソリューションアーキテクト

中山 章弘
Nakayama Akihiro

日本アイ・ビー・エム株式会社
東京ラボラトリー 開発ユニット
シニアソフトウェアデベロッパー

大見 充俊
Omi Mitsutoshi

日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部 ビジネストランスフォーメーションサービス データサービス担当
シニアマネージングコンサルタント

1999年日本IBM入社。以来、製造業、金融業のお客様を中心に大規模Webシステムの設計および構築を幅広く経験。現在は、クラウド、マイクロサービス、AIなどの先進テクノロジーを中心に、講演活動、企業での活用におけるプロジェクトに多く携わる。

2001年、日本IBM入社。ソフトウェア開発チームで多言語をサポートする自然言語処理技術の開発とそのエンタープライズ領域での活用に従事。現在は開発チームのテックリードを務める。

2010年日本IBM入社。コンサルタントとして、データ戦略の立案、データ利活用支援、データマネジメントの推進に従事。現在は生成AIとデータ分析基盤を組みあわせたビジネス価値創出を支援するプロジェクトに多く携わる。

亀山 裕樹
Kameyama Hiroki

日本アイ・ビー・エム デジタルサービス株式会社 
デジタル事業部 クラウドデベロップメント本部
シニアアドバイザリーアプリケーションアーキテクト

石井 旬
Ishii Jun

日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部 金融サービス事業部
技術理事 エンタープライズAI CTO

2001年入社。流通業、製造業のお客様を中心としたアプリケーション開発に従事。現在はクラウド技術とモバイル技術に強みをもつフルスタックエンジニア集団組織のリードを努めている。

エンジニアとしてIBMに入社し、多数の開発プロジェクトでの経験を経てアーキテクトとなる。近年は先進技術分野の技術者として、AIを中心とする先進テクノロジー活用に関わる。エバンジェリストとして、講演・執筆活動、大学非常勤講師なども務める。2023年4月 技術理事(Distinguished Engineer)に就任。

ビジネス変革のためのフレームワークを鳥瞰的に見る

IBMでは企業におけるAIの活用について2つのフレームワークを提唱しています。一つは「ビジネス変革のためのAI」を含むAIの活用領域を体系的に整理した、「デジタル変革のためのAIソリューション」[1]です。もう一つはそれらのソリューションをより迅速に、より生産的に、より安全に実行するための「AIプラットフォーム・サービス」[2]です。本稿ではまず、これら鳥瞰的なフレームワークの視野から個々のテクノロジーの位置づけを確認し、解説するテクノロジーを選定します。

 

デジタル変革のためのAIソリューション

まず、IBMではお客様のAI実用化を支援する包括的なソリューション・フレームワークとして「デジタル変革のためのAIソリューション」を提供しています。 このフレームワークは「AI戦略策定とガバナンス」、「ビジネス変革のためのAI」、「IT変革のためのAI」、「AI活用プラットフォーム」の4つのコンポーネントから構成され、お客様にそれぞれのニーズに応じてどのコンポーネントからでもAIの本格導入を始めていただけます(図1)。
「AI戦略策定とガバナンス」は、IBMでグローバルに蓄積された各業界・業務のAI知見を活用し、部門横断的な事業価値創出に繋がる重点領域の特定、技術進化を見据えたAI活用方針策定、本格活用におけるリスクを統制するためのガバナンス体制の確立など、「攻め」と「守り」の両面における全社の戦略・組織・プロセス・人材を共創します。
「ビジネス変革のためのAI」は、前2回の記事でご紹介したような、製品・サービス、顧客接点、ビジネス・プロセス最適化、人材管理、サプライチェーン、日常業務など、業界固有のプロセスやユースケースに最適化されたAIソリューションを提供します。
「IT変革のためのAI」は、システム開発や運用などにAIを活用することで、システム構築やモダナイゼーションと、IT運用の自動化における生産性向上を実現します。
「AI活用プラットフォーム」は、これら「ビジネス変革のためのAI」、「IT変革のためのAI」といったAIソリューションを構築、実行する基盤となるオープンなプラットフォームを提供します。
 

図1. デジタル変革のためのAIソリューション
この図の中の「AI活用プラットフォーム」は、AIソリューションをエンドツーエンドで実行でき、かつスケーラブルで透明性の高いプラットフォームであることが求められます。

  

AIプラットフォーム・サービス

次に、図1のデジタル変革のためのAIソリューション中の「AI活用プラットフォーム」を詳細化すると「AIプラットフォーム・サービス」となります(図2)。この「AIプラットフォーム・サービス」は、「AIアプリケーション基盤」、「AIエージェント共通基盤」、「AIゲートウェイ」、「AIモデル管理(LLM: Large Language Model)基盤」、「AIデータ管理」、「AIセキュリティ/AIガバナンス基盤」の6つのレイヤーから構成されるアーキテクチャーです 。

「AIアプリケーション基盤」は、業務用途に応じたAIアプリの開発・実行を支援する環境を提供します。Chat UIを活用した業務支援アプリの開発や、文書Q&A、定型文書作成、コードアシストなどの機能が統合されています。プロンプト・アセットの管理機能により、開発の効率化と品質向上を実現できます。
「AIエージェント共通基盤」は、特定業務向けのAIエージェントの開発・運用を支援する基盤です。人事や営業支援などの業務に特化したエージェントを構築でき、Voice Agent KitやIntelligent Agent Kitを活用することで、音声対話型AIの開発も可能です。エージェント・オーケストレーターを備えており、異なるエージェントの統合管理を実現します。
「AIゲートウェイ」は、生成AIサービス(特にLLM) へのアクセス管理や利用状況の記録、APIの統合管理を行うレイヤーです。統合ダッシュボードを活用し、各AIアプリからの利用状況を可視化しながら、リソース配分を最適化できます。トレーサビリティー機能や統合モデレーション機能を備え、LLMの適切な運用とコンプライアンス管理を支援します。
「AIモデル管理(LLM)基盤」は、大規模言語モデルの実行、管理、チューニングを行う基盤です。OpenAIやAWS Bedrockなどの汎用LLMに加え、特化型SLM(Small Language Model)の運用も可能であり、業務に最適化されたモデルを選択し、利用することができます。またチューニング環境を活用し、継続的な改善と精度向上を実現します。
「AIデータ管理」は、AIの学習・推論に必要なデータを統合管理する基盤です。RAG用データをベクトル・データベースなどに保存し、高品質な情報検索を可能にします。ナレッジサービスやエージェント・リポジトリーを通じて業務知識を一元管理し、AIの精度向上を支援します。
「AIセキュリティ/AIガバナンス基盤」は、AIのセキュリティ対策とコンプライアンス管理を担うレイヤーです。トレーサビリティー機能により不正アクセスを防ぎ、AIアプリケーションの脅威検知を実施します。データ・プライバシー保護やAI倫理のポリシー適用を自動化し、安全なAI運用を実現します。
 

 

図2. AIプラットフォーム・サービス(AI活用プラットフォームの詳細化)

 

本稿では、このうち特にAIに関連するテクノロジーとして、「AIモデル管理基盤」からIBM Granite [3] (以下、Granite)とInstructLab [4]、「AIアプリケーション基盤」からIBM Consulting Advantage [5] (以下、ICA)、「AIエージェント共通基盤」からAIエージェント、「AIデータ管理」からデータ・プラットフォーム、「AIゲートウェイ」からAIゲートウェイ、「AIセキュリティ/AIガバナンス基盤」からAIガバナンスの7つを取り上げます。それぞれ、どのようなものか、IBMがどのような製品やソリューションとして提供しているか、またどこに注力しているか、という3点から解説します。テクノロジーについてご理解を深めていただくと共に、AIの実用化と本格展開を支援するIBMの特徴と優位性を知っていただきたいと考えます。

 

AIプラットフォーム・サービスを支えるテクノロジー

IBM Granite

IBMが開発したGraniteは、ビジネス用途に特化したエンタープライズ向けの大規模言語モデル(LLM)シリーズです。このモデルは、Apache 2.0ライセンスの下で提供されており、企業は独自の改良を加えて製品化したり、社内システムに統合したりする際に、ライセンス上の制約を気にすることなく開発を進めることが可能です。 
Granite 3.0シリーズ[6]には、8B(80億)や2B(20億)といったパラメータ数のモデルが含まれています。これらのモデルはコンパクトでありながら、高いパフォーマンスを発揮し、同等のサイズの他のLLMと比較しても優れた精度と高速な処理能力を備えています。このため、企業はリソース効率を高めつつ、AIソリューションを効果的に導入できます。 
さらに、IBMはGraniteモデルの学習に使用したデータソースやフィルタリング手順、性能評価結果などを詳細に公開しています。これにより、ユーザーはモデルの構築過程を検証でき、信頼性の高いAIアプリケーションを開発する際の透明性が確保されています。 
また、IBMは顧客がGraniteモデルを使用する際、万が一著作権侵害などの法的リスクが生じた場合でも、一定の条件下で補償を提供しています。これにより、企業は安心してビジネスにAIを活用することができます。 
これらの特徴から、Graniteはビジネス利用を前提に設計されており、企業が自社のニーズに合わせたAIソリューションを柔軟かつ安全に構築・展開するための強力な基盤を提供しています。なお、このGraniteは、IBMが提供するIBM watsonxプラットフォーム[7]上で活用することが可能です。watsonxプラットフォームは、AIの開発・運用を支える3つの製品で構成されています。

  •  watsonx.ai[8]: Graniteを含む大規模言語モデルや機械学習モデルの開発・調整・展開を行うAI開発スタジオです。ファイン・チューニングやプロンプト・チューニングを通じて、特定の業務ニーズに最適化されたAIモデルを構築し、API経由で活用できるようにします。
  • watsonx.data[9]: ハイブリッドクラウド環境でのデータ管理・分析を支援する、オープンで拡張性の高いデータストアになります。データの仮想化・統合により、異なるデータソースからの迅速な検索やクエリ実行が可能で、モデルの学習データの格納も含む高性能かつコスト効率に優れたデータ活用を実現します。
  • watsonx.governance[10]: AIの透明性・説明性を確保し、バイアスの管理や規制対応を支援するガバナンス製品です。AIモデルのリスク評価・監査・ポリシー適用を一元管理し、企業が責任あるAIの活用を推進できるようします、

Graniteを、これらの製品と組み合わせることで、企業のAI活用を加速し、より安全かつ高精度なAIソリューションの構築を可能にします。

 

InstructLab

InstructLabは、IBMリサーチの研究成果を基に、Red Hatと共同で開発・オープンソース化した技術です。名称にあるLabの由来は、もとになった論文 LAB: Large-Scale Alignment for ChatBots [11]の頭文字からきています。ここでの「アライメント」とは、事前学習済みのモデルをさらに調整し、特定の用途に最適化することを指します。その名の通り、InstructLabは基盤モデルに追加学習を施す機能を提供します。
従来のファイン・チューニングには、大量の学習データの準備や膨大な計算コストが必要でしたが、InstructLabはこのプロセスを大幅に効率化し、より手軽にモデルをカスタマイズできるようにします。
InstructLabの特長は、最小限のデータ準備で高品質なモデル調整が可能な点です。ユーザーは、特定の質問とその回答を少数用意するだけで、AIがそれをもとに類似データを自動生成します。生成されたデータは品質チェックを経て、安全で信頼できる情報のみが学習に使用されます。そして、承認されたデータを用いてモデルを再学習させることで、新たな知識を獲得させる仕組みです。
この技術を活用することで、企業は自社のデータを活かし、業務特化型のAIを迅速かつ低コストで構築できます。従来のファイン・チューニングと比較して、必要なデータ量や計算リソースを大幅に削減しながら、より効率的にAIのパフォーマンスを向上させることが可能になります。

 

IBM Consulting Advantage

 IBM Consulting Advantageは、IBMがお客様とAIソリューションを共創するためのプロジェクト・デリバリー・プラットフォームです。エージェントやアプリケーションを含む最先端のソフトウェア・アセットと手法を有し、企業がビジネス価値を実現するまでの時間を短縮します。IBM Consulting Advantage で利用可能なAIモデルはIBM watsonx.aiからアクセス可能なGraniteを始めとする幅広いLLMだけでなく、3rdパーティー製LLMを含め、業務に応じ最適なモデルが選択可能です。
IBM Consulting Advantage上で稼働する生成AIアシスタントとしてチャット形式のインターフェースを備えたIBM Consulting Assistantsがあり、誰もが日常的に生成AIを利用することを可能にしています。またIBM Consulting Advantageはドキュメントコレクションと呼ばれるRAG (検索拡張生成) テクノロジーを備えており、IBM Consulting Assistantsのチャットベースのインターフェースと組み合わせることで、簡単に文書をアップロードして追加学習をさせ、LLMでカバーできない範囲の情報も含めて回答できるようになります。
企業でAIを用いた業務効率化を推進する際に助けとなる機能としてAssistants Libraryがあります。Assistants Libraryは作成したプロンプトをライブラリ管理でき、チームや企業全体でプロンプトを共有することが可能になります。例えばチームでプロンプトを作成し、一定の効果が見込める場合、企業全体にプロンプトの公開範囲を拡大し、全社員がプロンプトを活用できます。
日本IBMでの活用例としては、ドキュメント作成やメール作成の日常の業務の加え、テストデータの生成や単体テストプログラムの生成等のシステム開発に関わるプロンプトをAssistants Libraryに登録し、チーム及び企業全体で共有することで生産性及び品質の向上に取り組んでいます。
また、IBM Consulting AssistantsはIBM Consultingのサービスをご契約頂くことでお客様にご提供可能となっています。

 

前編では、ビジネス変革を実現するためのテクノロジーについて、IBMが提供するフレームワークと主要な技術コンポーネントの一部である、IBM Granite、InstructLab、IBM Consulting Advantageの3つのテクノロジーについて解説しました。後編では、主要な技術コンポーネントの解説の続きである、AIエージェント、データプラット・フォーム、AIゲートウェイ、AIガバナンスの4つのテクノロジーについて解説し、最後に「IBMが描くビジネス変革に向けたAIの展望」について論じます。

 

*「ビジネス変革のためのAI」テーマの他の記事はこちら↓
ビジネス変革のためのAI : 生成AI活用のユースケース

ビジネス変革のためのAI : プラスAIからAIファーストへ

参考文献
[1]IBM:企業の全社的なAIの本格活用を支援するフレームワーク「デジタル変革のためのAIソリューション」を発表,https://jp.newsroom.ibm.com/2024-08-08-IBM-AI-Solutions-for-Digital-Transformation
[2] IBM:日本IBMが2025年のAI戦略を発表、エージェントの開発向けに基盤サービス強化,https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/news/24/02278/
[3] IBM:IBM Granite ,https://www.ibm.com/jp-ja/granite
[4] Red Hat:InstructLab とは,https://www.redhat.com/ja/topics/ai/what-is-instructlab
[5] IBM:IBM Consulting Advantage ,https://www.ibm.com/jp-ja/consulting/advantage
[6] IBM:Granite 3.0を発表:ビジネスのために構築された高性能なAIモデル,
https://jp.newsroom.ibm.com/2024-10-24-ibm-introduces-granite-3-0-high-performing-ai-models-built-for-business?utm_source=chatgpt.com
[7] IBM:IBM watsonx ,https://www.ibm.com/jp-ja/watsonx
[8] IBM:Step into the watsonx.ai developer studio ,https://www.ibm.com/products/watsonx-ai
[9] IBM:watsonx.dataでAIをあらゆる分野にスケール,https://www.ibm.com/jp-ja/products/watsonx-data
[10] IBM:watsonx.governanceで信頼できるAIを拡張,https://www.ibm.com/jp-ja/products/watsonx-governance
[11] Sudalairaj, Shivchander, et al. "Lab: Large-scale alignment for chatbots." arXiv preprint arXiv:2403.01081 (2024),
https://arxiv.org/pdf/2403.01081

 

 

 

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