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労働力不足の救世主 - ビジネス・シーンを変える画期的なインタラクティブ AI テクノロジー

By IBM ProVision posted Wed August 02, 2023 09:12 PM

  
生産年齢人口の減少に伴う急激な人手不足の深刻化。自然言語対話と指先ひとつで日常業務を自動化し、あらゆるビジネス・パーソンの生産性を飛躍的に向上させる、IBMの次世代デジタル・レイバー:IBM watsonx Orchestrate をご紹介します。

プロローグ
「貧しい靴職人のおじいさんが革を置いたまま寝ると、眠っている間に立派な靴が出来上がっていました。靴を作ってくれていたのは、なんと小人たち・・・」
これは、グリム童話の『小人の靴屋』のお話です。この仕事やる時間がない、そもそもやりたくない、でもやらなきゃ、なんていう時に、「小人が代わりにやってくれたらなぁ」と思ったことがある方は少なくないのではと思います。「そんなの童話の中の話だよ」いえいえ、IBMの次世代デジタル・レイバー IBM watsonx Orchestrate™ が叶えます。
 
次世代デジタル・レイバーとは
生産年齢人口の急速な減少は、各種業界に深刻な影響を与えています[1]。一方、ありとあらゆるデータがデジタル化され、一人一人の仕事量は日々増えています。減り続ける労働力で、増え続ける業務を効率よく処理することが必須となっています。 
このような変化に対応するために、デジタル・テクノロジーが人を補完し日々の業務の自動化を支援することを目的に、デジタル・レイバーという概念が提唱されています。AIを組み込んだデジタル・レイバーにより、標準化された繰返し作業から高度な知識を必要とする専門作業まで、ありとあらゆる業務の自動化を促進し、柔軟で効率的な働き方の実現を目指しています。
例えば、人事の業務現場を見てみましょう。採用担当者は、いかに優秀な人材を確保するか、その戦略の考察や候補者との面接など本質的な作業に集中したいと思っています。ところが、求人のために職務記述書を一から作成したり、求人情報を様々なソーシャルメディアに共有したり、複数の候補者とのメールのやり取りで日程を調整し面接をスケジュールする、など雑多な作業に時間や労力を奪われ疲弊してしまう、などということは多いのではないでしょうか。採用担当者が本質的な作業に集中できるよう、雑多な作業はそれらの動線を自ら判断して自動実行しお膳立てしてくれるような次世代デジタル・レイバーが望まれています。
 
自動化/AIテクノロジーの現状と次世代デジタル・レイバーのために必要な要素
業務を効率化し生産性を高めることを目的として、様々な自動化テクノロジーが提供され、AIテクノロジーの進化が急速に進んでいます。
自動化テクノロジーに関してIBMは、人を補完するコンセプトを提唱し、「手」作業のためのRobotic Process Automation(RPA)、情報を読み取る「眼」としてのOptical Character Recognition(OCR)、「口」と「耳」 としての対話、ロジカルな判断を行う「左脳」としてのビジネスルール、経験に基づく直感的で知的な判断を行う「右脳」としてのAI、判断のもとになる「知識・記憶」としてのコンテンツ管理、そして、それぞれを制御し適材適所で連動させる「中枢神経」としてのワークフロー、などを一つのプラットフォームで提供し[2]、自動化の市場を牽引しています。

図1:IBMの自動化ソリューション - コンセプト

次世代デジタル・レイバーにより、自動化テクノロジーのメリットをありとあらゆる人に届け、生産性の飛躍的な向上を目指しています(自動化の民主化)。そのためには、事前に(静的に)業務の動線(流れ)を定義し、指定された場面で自動化テクノロジーを活用する今のやり方から、対話を通してデジタル・レイバーが状況に応じた業務の動線を自ら判断し、ダイナミックに自動化テクノロジーを制御/管理することが必要と考えています。
一方、ChatGPTなどの生成AIが注目されていますが、自動化の民主化の促進において、現在のAIテクノロジーの現状と、ビジネスで使える次世代デジタル・レイバーに必要な要素を考えてみます。
現在のAIテクノロジーは、自然言語でユーザーと対話し、ユーザーの依頼を特定して情報の提供や自動化テクノロジーによるアクションを実行することが可能です。ただし、対話の方向はユーザーが起点となる一方向で、限られた情報から依頼を推測し、ブラックボックスで不透明なAIモデルをベースに判断を行います。つまり、その判断の正確性は、問いかけの仕方(プロンプト)やAIモデルの精度に依存します。アクションも、依頼に対する直接的な単発のアクションに留まっています。
ビジネスで利用するデジタル・レイバーには正確性が重要です。ユーザーの依頼を正確に理解するために、曖昧な部分の確認や判断に必要な情報を追加で要求するなど、双方向の対話が必要になります。また、信頼性/透明性の高いAIモデルを利用し[3]、正確な情報やアクションを特定することも重要です。更に、正確に依頼を実現するには、単発なアクションではなく複数のアクションを組み合わせることが必要になり、それを依頼に合わせて動的に判断することも鍵となります。

現在のAIテクノロジー 次世代デジタル・レイバー
主な機能 依頼に対し言語モデルに基づいた回答を生成 依頼に対し必要なアクションを自律的に組み合わせた作業結果を生成
インターフェース 自然言語対話
初期の訓練後、個々のユーザーとの対話を学習し適応する機能がないため、欲しい答えを得るにはAI側の癖に合わせたプロンプト作成が必要
自然言語対話
パーソナルな言い回しの癖をAI側に登録して欲しい答えを得ることが可能で、更にユーザーとの対話から学び、利用経験とともに性能改善が可能
動作信頼性
特定の企業に合わせて設計されているわけではないブラックボックスのアルゴリズムと不透明なモデルから結果を出力するため、真偽の検証が必要

企業の独自のデータとドメイン知識に合わせて絞り込まれた情報を用いて検証済みの結果を出力とするため、信義の検証は不要
依頼に対するアクション 動的に判断 事前定義または動的に判断
アクションの実行 特定した単発のアクションを実行するシンプルな関数呼び出しに限定され、管理機能はない 複数のアクションを動的に組み合わせて実行し、複数のプラットフォームにわたるビジネスプロセスを自動化
表1:現在のAIテクノロジーと次世代デジタル・レイバーに必要な要素

IBM Watson Orchestrateの概要
Watson Orchestrateは2023年にリリースされたIBMの次世代デジタル・レイバー・ソリューションで、ユーザーが言葉を使って話しかけるだけで作業を完了に導くことができる製品です。Watson Orchestrateはエンタープライズ向けの製品であり、仕事をこなすためにユーザーとの対話を通して必要と判断した自動化テクノロジーによるアクション(スキル)を自律的に組み合わせて、作業の自動実行を可能とします。スキルの導入方法も様々用意しているため、ユーザー自身で新たなスキルを定義し、今の業務で利用しているワークフローなどに影響を与えることなく、柔軟に適用領域を拡張することが可能です。
Watson Orchestrateは以下の機能で構成されています。

・考える(自律的な判断)
ユーザーの依頼を実行する業務の動線を判断し、その場で必要なスキルを組み合わせて自動実行します。また、環境設定する過程がAIによりサポートされているため、複雑なユースケースに対応する際も容易に導入可能となります。
 
・相互作用する(自然言語による対話)
ユーザーとのやり取りは、自然言語を介して実施します。ビジネス利用で重要となる間違いのない判断を行うために、ユーザーの依頼を正確に理解する機能を備えています。
 
・実行する(スキルの利用)
Watson Orchestrateはスキルと言われるAPIで接続された自動化サービスを利用します。自動化サービスには、前章で紹介したような自動化テクノロジーをベースに実装されたものなどがあります。AI機能によりユーザーに依頼された自然言語を正確に理解し目的を把握した上で、必要なスキルを自ら判断しタスクの自動実行を可能としています。自身の実行環境で利用できるスキルは、全スキルが一覧化されたスキルカタログから選定することで登録されます。実行環境としては個人用の「パーソナルスキル」と組織毎に設定される「チームスキル」があります。それぞれの環境で利用用途や使用すべきアカウント情報に応じてスキル登録を行い利便性を高めることが可能です。
図2:Watson Orchestrateの構造

Watson Orchestrateの特徴
Watson Orchestrateは、信頼性/透明性の高いAIモデルを利用した以下のAI機能を提供することで、エンタープライズビジネスでの利用を実現します。
 
・自然言語に基づいた学習と対話性
一般的なAIでパーソナライズした命令と結果を得るためには、多くの学習期間またはベースとなるデータが必要となります。Watson Orchestrateでは、スキルのオプションとしてフレーズと呼ばれる自然言語を登録することが可能で、登録されたフレーズに類似する依頼文を利用すると優先的にその該当スキルが起動します。フレーズについては登録されたスキルのオプションによるAI自動生成が可能です。
更に依頼文言に不足や曖昧な部分がある場合、それらを明確にするために、ユーザーに対する会話での確認を行なってくれます。また、言語理解の精度を高めるために以前の会話内容に関する短期記憶の保持や複雑な処理を行うための非同期処理なども備えています。
 
・スキルの生成
Watson Orchestrateを利用するにあたってはスキルカタログにどのようなスキルを登録するかが大変重要になります。いかに有用なスキルを持ち、使いこなすことができるかが鍵となります。スキルは、以下の2種類に大別されます。

プリビルド・スキル
Watson Orchestrateで事前に準備されているスキルで、サービスのアカウント情報を登録し、スキルカタログに追加するだけで利用可能となります。メール送信やカレンダー調整など、幅広く利用できるプリミティブなスキルや、業務シナリオに特化したスキルが数多く提供されています。業務シナリオに特化したものとしては人事業務のスキルが提供されています。今後、様々な業務シナリオに対応する予定になっています。
 
カスタム・スキル
ユーザーにて定義するスキルになります。AI機能やGUIにより定義したり、OpenAPIに準拠した設定ファイルをインポートすることで定義を行うことが可能となります。既存業務で利用していた自動化サービスをそのまま利用したい場合、プリビルドスキルとして存在していないものでもOpenAPIに準拠した接続が可能であれば、Watson Orchestrateに接続してスキルとして活用することができます。
図3:スキルセットの種類

・AI信頼性について
現在 世に出回っているAIがなかなかエンタープライズビジネスで活用できない大きな障壁として、信頼性に関する懸念があると思います。でたらめな回答やアクションをする可能性を踏まえて、その正しさを検証するか正しく動くまで同じ動作を繰り返し実行するという考え方は、誤りが許されないビジネスとの相性が悪いと言えるでしょう。Watson OrchestrateはAIによるタスクの生成を行った際に検証を行い、ビジネスユースで使って良いものをスキル登録して自然対話で呼び出せるようにするというコンセプトです。つまり管理機能が充実していることから、利用して良いものしか実行されない、AIが選択する対象もビジネスで許可されたサービスに限られるという制御の中で業務を行います。このような考え方でAI機能の信頼性を保ちつつ作業効率の最大化が行えると考えています。
図4:Watson Orchestrate利用におけるAI信頼性の考え方

Watson Orchestrate:実プロジェクトから見えた導入のポイント
クライアント環境にWatson Orchestrateを導入するにあたって多くの場合で業務分析と利用対象のスキル特定が必要となります(プリビルドスキルを活用した業務シナリオの場合を除く)。
その際に必要なプロセスとしてのベストプラクティスを共有します。
 
・IBM Value Engineering Method[4] の活用
アジャイル手法により、ビジネス課題の特定からWatson Orchestrateのスキル生成を行い、ユーザビリティーを逐次確認しながら環境を最適化することは有効な手段と考えられます。なぜならWatson Orchestrateは人事領域から徐々にユースケースを増やしていますが、ユーザーの環境に合わせたオーダーメイドでのスキル設定は多くの場合で必要になると考えているためです。特に、価値創出と早期の技術価値検証を行う専任組織(クライアント・エンジニアリング)の多様なロールのメンバーが支えるアジャイルメソッドは、細かいユーザー要件を吸収しながら一つずつMVP(Minimum Viable Product: 実用最小限の製品)を作成することが可能です。その積み上げによって有効なユースケースの作成とスキル特定を行うことは有効な手段になります。
 
・ユーザーが既存で利用している有償サービスをスキルとして利用
昨今のERPは非常に多機能で高性能なものが多いため、利用しきれていない機能が多いという話をよく聞きます。ユーザーはWatson Orchestrateに話しかけるだけで複雑な機能でも利用ができ、他のサービスと組み合わせた結果の出力が行えるため、ユーザーがそれまで触れることのできなかった情報にアプローチ可能となります。結果として既存有償サービスのポテンシャルを最大限に活かした価値を提供できます。

Watson Orchestrate:今後の発展
AIテクノロジーはものすごい勢いで進化しています。IBMは、ビジネスのために構築されたAIおよびデータ・プラットフォームとしてwatsonx[5]を発表しました。このプラットフォームにより、企業横断の独自データとドメイン知識をベースに、企業のガバナンスを効かせ、真にビジネスのあらゆる領域で利用できる、競争力と差別化を持った信頼性/透明性の高いAIモデルを構築できます。Watson Orchestrateはwatsonxと密に連携し、構築したAIモデルを活用することで、更にその価値を高めます。以下のようなポイントで進化し、更なる自動化の民主化を実現していきます。
・スキルの発見/定義
ユーザー自身が、必要とするスキルを実現できる既存の自動化サービスを発見し、AIモデルですぐに業務利用できるようトレーニングして簡単に定義する能力の進化
・スキルの動的組み合せ
業務の動線をAIで判断し、必要なスキルをダイナミックに組み合わせて求められた業務を実行する能力の進化
スキルの生成
未だ実装されていない自動化サービスを、そのテクノロジー(例:RPA, OCR, ビジネスルール, ワークフロー, など) に合わせて実装し、必要なスキルを自動生成する能力の進化
図5:Watson Orchestrateの今後の進化のポイント

エピローグ
一日が終わる時、「明日はこれとあれとそれをやんなきゃ」とひとり言。聞いているのは、小人・・・ではなく、Watson Orchestrate。これとあれとそれを実行するための下調べ、段取り、情報収集、などなど雑多な作業を、私たちに代わって自ら判断し実行します。私たちは、本来やるべきこと、やりたいことなど本質的な作業に集中でき、能率的で充実した毎日が過ごせるのです。
生成AIの利用が加速する中で、AIのビジネスユースにおける一つの解が次世代デジタル・レイバーの導入になり得ると考えています。日本は特に人口の減少が他の先進国と比べても激しく、結果として起こる労働力低下が様々な社会問題の要因となっているためAI導入による生産性の向上は将来の働き方として必須となります。ビジネスシーンを劇的に変える次世代デジタル・レイバーと共に、皆様と新たな働き方、新たな生活を作りたいと思います。

著者
Nakamura.jpg 中村 航一
Koichi Nakamura
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部

プリンシパル・オートメーション・テクニカル・スペシャリスト
Hongo 本郷 元
Hajime Hongo
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部 パートナーソリューションラボ・アーキテクト
1991年日本IBM入社。ソフトウェア開発研究所にて各種製品の開発及びサービス・コンサルタントに従事。2011年ソフトウェア事業に移り、業務改革に関する製品の技術営業に従事。研究/開発からプリ/ポストセールスまで、幅広くソフトウェアビジネスをリード。 NTTグループにて通信サービス技術企画・エンタープライズシステム構築におけるプロジェクトマネージャー・リードアーキテクトとして従事。2022年に日本IBM入社し先進AI / Automation分野における研究開発及び市場展開を行っている。


参考文献
[1] 総務省:情報通信白書令和4年版 生産年齢人口の減少, https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nd121110.html
[2] IBM Cloud Pak for Business Automation, https://www.ibm.com/jp-ja/products/cloud-pak-for-business-automation
[3] 田中 孝, Trustworthy AI(信頼できるAI)の実現に向けて, ProVision, https://community.ibm.com/community/user/japan/blogs/provision-ibm1/2022/06/13/vol98-0003-ai
[4] 村澤 賢一, 日本経済と社会の景色を変えるために- 共創実践からの学びシェア, ProVision, https://community.ibm.com/community/user/japan/blogs/provision-ibm1/2023/06/06/vol99-0007-ibm
[5] watsonx, https://www.ibm.com/jp-ja/watsonx


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(記事番号:vol99-0011-ai)




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