5月6日に、IBMは次世代のLinuxプラットフォームとして「IBM LinuxONE Emperor 5」(以下「LinuxONE5」)を発表しました。セキュリティ、AI、コスト効率、そして環境負荷低減を重視して設計された、エンタープライズ向けの最先端Linuxサーバープラットフォームです。これまでのLinuxONEシリーズの進化を踏まえ、LinuxONE5では特に「量子時代のセキュリティ対応」「AIとの融合」「サステナビリティへの貢献」に重点が置かれています。
1. 安全性とプライバシー:End to Endでのセキュリティ設計
LinuxONE5は、データ保護を最重要視し、ハードウェアから仮想化環境、ソフトウェアに至るまで、一貫したセキュリティを実装しています。エンタープライズ環境におけるAI活用では、企業の機密データを扱うことになるため、パフォーマンスのみならずセキュリティの実装が極めて重要です。LinuxONE5 では、耐量子暗号(NIST*標準準拠)、FIPS 140-2 Level 4**認証取得済みのハードウェアセキュリティモジュール、コンフィデンシャルコンテナを通じて、AIモデルや顧客データを機密性の高い環境で処理することができます。
また、IBM Vault、Hyper Protect Virtual Servers、Unified Key Orchestratorなどのツールにより、暗号鍵や機密情報の一元管理とゼロトラストセキュリティの実現が可能です。これにより、金融機関や医療機関など、特に高いセキュリティ要件を求める業界での導入実績が増えています。
2. AI対応:ビジネス成果を導く組み込み型AI
LinuxONE5はAIの実行性能を飛躍的に向上させる「IBM Telum IIプロセッサ」と「Spyre AI Accelerator(2025年Q4提供予定)」を搭載可能です。最大24兆回/秒(TOPS)のAI演算性能を誇り、複数のAIモデルを同時に実行できるアーキテクチャを採用しています。Spyreカードは1枚あたり32個のGenAI対応コアを搭載し、LinuxONE Emperor 5に最大で48枚のカードを搭載可能です。これによって、LLM(大規模言語モデル)向けの推論高速化と、非常に優れたスケーラビリティを提供しますので、医療画像診断、保険請求の自動処理、不正取引検知、税務文書の要約など、さまざまな業務プロセスにAIを組み込み、ビジネスインサイトを迅速に引き出すことができます。また、あるシナリオにおいて、x86/GPUと比較して最大5倍の省電力性を発揮します。
また、前述の通り、AIワークロードに高度なセキュリティを適用することが可能ですので、より広い用途で安全に活用することができます。
主なユースケース:
業界
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活用例
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医療
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医用画像(X線、MRI)における異常検知+文脈理解(CNN+LLM組合せ)インファレンス速度75%向上、スキャン分析の自動レポート生成
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金融
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不正検出(低スコアでも高度な詐欺を検出)AMLスクリーニング精度向上(偽陽性30%減)
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保険
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保険金請求の優先順位付けと処理の高速化(手動作業60%削減)
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税務/監査
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税務文書の自動要約や異常検知(年$5B相当の損失抑止)
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サプライチェーン
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契約書リスクの自動検知、価格差異や抜け漏れの特定
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差別化ポイント:
特徴
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他社との違い
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セキュアなAI処理
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通常のGPUでは実現しにくい「実行中のAIモデルの保護」が可能
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省電力×高密度
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同等のx86/GPU構成に比べ、最大5倍のエネルギー効率
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AIを既存業務へ統合
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リアルタイムスコアリングや取引処理に組み込みやすい
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オンプレAI
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データを外に出さず、AIと機密データの一体化処理が可能
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3. コスト効率とサステナビリティ:IT運用を根本から効率化
LinuxONE5は、従来のx86サーバーと比べ、ITコスト・電力・スペースを大幅に削減できる設計が特徴です。最大65%の電力削減、最大94%のソフトウェアコスト削減、21:1というサーバー統合比率を達成した事例も報告されています。
例えば、ある保険会社では、55台のx86サーバーを1台のLinuxONEに集約し、電力を70%、ソフトウェアコストを90%、床面積を75%削減しました。また、欧州の金融機関では、x86の149コア分のワークロードを、LinuxONEのわずか10コアで処理することで、CO₂排出量を70%、ライセンス数を60%削減するなど、環境負荷とTCO(総保有コスト)の両面で大きな成果を上げています。
4. 事例:セキュアで持続可能なビジネス変革の加速
実際にLinuxONEを導入した事例として、南アフリカのBank Zeroは、IBM LinuxONEを採用してゼロからシステムを構築しました。これにより、堅牢なセキュリティと低コストを両立させ、スマートフォンアプリと連携する柔軟な金融サービスを提供しています。
また、Phoenix Systems社では、IBM Hyper Protect Virtual Serversを活用してデジタル資産取引を行い、セキュリティとスケーラビリティの両立を実現。コンプライアンス対応やデリバリーの迅速化にもつながっています。
IBM LinuxONE5は、企業ITの未来像を先取りする戦略的プラットフォーム
IBM LinuxONE5は、堅牢なセキュリティ、優れたAI統合機能、圧倒的なコスト・エネルギー効率を備え、企業が直面する多くの課題(デジタル変革、規制対応、コスト最適化、持続可能性など)に対し、包括的かつ実践的な解決策をご提示します。
*National Institute of Standards and Technology / 米国立標準技術研究所
**暗号モジュール(ハードウェアやソフトウェア)に関するセキュリティ要件を定めた米国政府の標準規格で、Level4は耐タンパー機能を有する最高レベルに該当する