日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)には様々な社員が自発的に実施、参加しているコミュニティー活動が多くあります。自分たちの手で会社を進化させていくという活動です。
今回は、介護と仕事との両立をテーマに2020年より介護コミュニティーを実施している、槇あずささん、倉島菜つ美さん、大久保そのみさんに、活動の内容や思いをお聞きしました。
(左から槇さん、倉島さん、大久保さん)
介護コミュニティーはJWC(Japan Women's Council:女性のキャリアのための諮問委員会。以下、JWC)とcosmos(日本IBM/キンドリルジャパン株式会社(以下、キンドリル)/レッドハット株式会社の女性技術者・研究者の全社コミュニティー。以下、cosmos)コアメンバーが共同で立ち上げたと聞いておりますが、成り立ちやその後の変遷を教えて下さい。
(槇さん)もともとJWC8期のメンバーだった私がcosmosの皆様に相談して一緒に始めた活動です。2020年ごろコロナ禍で、介護をしながら仕事している方を職場でお見かけし、仕事と介護の両立は大変だと危機感を持ちました。会社全体としてもこれから考えた方がいいなと思ったのがこのコミュニティーを立ち上げたきっかけです。どうしてもまだ女性が介護を担うことが当時多かったので、JWCとcosmosで始めました。
(倉島さん)コミュニティーが始まったのは2020年後半でしたね。初期メンバーは日本IBMだけではなくキンドリルの方も入っています。現在は槇さんがリーダーとなって活動しています。
(大久保さん)その後は口コミなどで興味を持った方が徐々に加わってメンバーが増えてます。みなさんそれぞれの思い、きっかけがあります。例えば、すでに介護を終えた方が「介護中の方やこれから介護をする方のために、自分の学んだことを共有したい」、と言ってくれることもあれば、「今まさに介護中なので、会話したいです!」という方もいらっしゃいます。
(倉島さん)どんな思いで参加してくださってもいいんですよ。私も2020年当初は介護はまだ少し先と思っていましたが、今はまさに介護の真っただ中です。介護コミュニティーで一通り聞いているので、次はこれをやればいいんだな、というのが分かり落ち着いていられます。
介護はみんなの問題であって女性だけの問題ではないので、男性の介護経験者にも話をしてもらったりしました。そうすると年代も性別も様々な参加者が集まるようになっていきました。
(大久保さん)ここにいるよ! と"旗"を立てておくことって結構重要なんです。そこに行ったら情報を共有できる、発信できる、仲間ができる場所の目印。
(槇さん)介護だけでなく、お子様の介助をされているような場合も介護コミュニティーの対象として考えています。
(倉島さん)配偶者の方の介護というケースもあります。つまり、だれでも介護の当事者となる可能性があるわけです。
介護コミュニティーでは普段はどのような活動をされていますか?
(倉島さん)普段の活動では、隔週でリモートで集まって情報発信の内容を考えたり、社内勉強会の運営をしたりしています。
(大久保さん)"便利介護グッズ"の紹介の会なんかもありましたよね。
(倉島さん)制度だけではなく、経験談、ノウハウが役立つと好評です。例えばお風呂用の椅子一つとっても、背もたれがあって手すりもあるものが良い、といった話がありましたね。
(大久保さん)いつもなんとなく介護のアンテナを張っておけるようになりましたね。何かニュースで聞いたら、これを皆に共有しようとか。
(倉島さん)子育ては皆日常で、子供が中学に入学してね、とか話しますよね。でも親が老人ホームに入ってね、とかそういう話はあまりしないじゃないですか。
(槇さん)今日幼稚園に子供送っていった、という話もよく耳にします。親をデイケアに送っていったというのも同じ日常なのですが、なぜかそういう話はなかなかしないですね。介護の話はなかなか踏み込みづらいのですが、少しでも介護の日常を共有できたら楽になる人は沢山いるはずです。そういう文化を作りたいと思って介護コミュニティーを運営しています。今年は介護に興味のある方々との座談会を開きたいと思っています。
介護に関心があっても、自分からなにか提供することもできないし、とコミュニティーの参加に気が引けてしまうところがあります。
(倉島さん)何かこれをやらなければいけない、ということはなく、楽しくできれば良いと思っています。私も最初は聞いているばかりでしたが、いざ介護をすることになったときに、コミュニティーで聞いたことが役立ち、実践に活かせています。
(大久保さん)誰でも知っておくと良い介護の知識って意外と行き渡っていないんですよね。色々な制度があり、また状況が人によって違うので、難しいです。
(槇さん)介護の当事者になっても、自分が食べていくために働かなくてはいけない。そのためにサポートがあるわけですが、そのサポートを受けるためにまず介護認定を受ける必要がある。でもそのことがあまり知られていないのです。
(大久保さん)国にも会社にも色々制度やサポートの仕組みってあるのですが、意外と知らない。私も自分が介護するまで何にも知りませんでした。
(槇さん)例えばお父様が躓いて骨折して、そこから寝たきりとなり介護が始まる。そこで5年たつと次はお母様が、というケースもあります。働き盛りの人が10年、15年介護をしながら仕事をしなければいけない。会社としても働き盛りの世代を失わないようにする必要があります。そのために制度をうまく活用して生活が回るようにしていけばいいのです。
(倉島さん)そうそう、その情報発信があるといいですね。例えば親の住んでいる地域の「地域包括支援センター」がまず大事です。
(大久保さん)地域包括支援センターが重要ということも、このコミュニティーで初めて知りました。
今日まず覚えるべき言葉は「地域包括支援センター」ですね。日本IBMには、介護へのサポートはどの程度あるのでしょうか。
(槇さん)日本IBMにはかなり充実した制度、サポートはあるのですが、知らない人も多いです。
(槇さん)ハード面は整っているのですがソフト面がまだまだですよね。ここをコミュニティーでフォローしたいと考えています。
会社としては、例えばどの部署にどのぐらい介護予備軍の人がいるのか、把握しておく必要があると思います。部署全員が介護に突入して仕事が回らなくなってしまうのでは大変です。
(倉島さん)結局、特定の年代や性別などに大きく偏らない、ダイバーシティーが大事ということですよね。
コミュニティーではセミナー以外にチャットやメールといったコミュニケーションツールも運用されていますが、やはり活動の中心は話し合いでしょうか。
(大久保さん )門戸は開けておきたいですが、やはりチャット上では個人の事情は書き込みづらい方もいらっしゃるので、文面でのコミュニケーションより会話が主体になります。チャットやメールはコミュニティーにコンタクトするきっかけとしてご利用いただいています。あと私達は介護のプロではないので、助ける側、助けられる側という関係ではないです。コミュニティーというフラットな横の関係であって、共有したい、自分の経験を次に活かしたい、自分たちの環境を自分たちでよりよくしたい、そんな場にしたいです。
(倉島さん)こういうつらいことがあった、という投稿に対して、直接解決に繋がらなくても共感を示す返信がいくつか付くと、皆さんに聞いてもらえて気持ちが軽くなりました、という方もいらっしゃいました。
介護をする上で、負担を軽減するために出来ることはありますか?
(大久保さん)プロに頼ることかなあ。全部自分でやろうとせずに、素直にプロの力を借りることはこのコミュニティーで学んだことの一つです。
(倉島さん)親に近所づきあいがあることも大事ですね。近所の方と会話したり連れ出してもらったり、そういうネットワークは重要です。
(大久保さん)手続き関係のことはやはり家族が行わなければいけませんが、それ以外のことは家族でない人の力も借りたほうがうまく出来ることもあると思います。
介護に備えてどのようなことをしておけば良いでしょうか。
(倉島さん)親と何気なく会話することから始めると良いと思います。保険証の場所、お墓のこと、地域包括支援センターの電話番号知ってる?とか、介護認定は早めに取った方がいいらしいよ、とかそういうことを気楽に話せるといいですね。
(大久保さん)普段の何気ない会話の中で確認しておいた方がよいことが色々あるんだな、と私もこの活動で学びました。でもそれをリスト化して問い正してしまうと親も反発して話してくれなかったりする。
(倉島さん)日常の話に紛れ込ませて、今日はこれ1つだけ確認しよう、とかそういう感じで会話すると良いです。一度に頑張りすぎないのが大事です。
(槇さん)会社の所属長へのサポートも必要ですよね。この介護コミュニティーで所属長向けの介護研修コースを昨年作りました。
最後に皆様へのメッセージをお願いします。
(槇さん)介護は突然始まるという印象をお持ちの方もいらっしゃると思いますが、実は備えておくことができます。特に、仕事と両立していくためには準備が肝要です。介護予備軍(いつ介護が始まってもおかしくないと想定される就労者)の間に何をしておくか、介護が始まった初動の時に何をするべきか、介護休暇は何の目的で取得すると効果的か、要介護認定はどうやって受けるのか、プロジェクトメンバーが仕事と介護を両立している場合どういうサポートができるのかなどの疑問や不安はつきません。
介護コミュニティーではみんなの知識や知恵を共有しあい、仕事と介護が両立できる企業文化をつくっていきたいと考えています。
槇さん、倉島さん、大久保さん、貴重なお時間をいただきありがとうございました。
インタビュー日:2024/4/1
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説田 陽子
cosmos コアメンバー
日本アイ・ビー・エム株式会社 テクノロジー事業本部 アカウント・テクニカル・リーダー
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鈴木 祥子
cosmos コアメンバー
日本アイ・ビー・エム株式会社 東京基礎研究所 スタッフ・リサーチ・サイエンティスト
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桑田 智子
cosmos コアメンバー
日本アイ・ビー・エムデジタル サービス株式会社
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