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Technology on the cutting edge : IBM z17で切り拓く基幹システムの未来

By IBM ProVision posted 11 hours ago

  
皆様は「メインフレーム」と聞いて、どのような印象を持たれるでしょうか。古臭そう、難しそう、デジタル変革の足かせになっている…。そんなイメージを抱かれる方も多いのではないでしょうか。 しかし実際には、そうではありません。令和の時代におけるIBMメインフレームは、最新のテクノロジーを搭載した最先端のマシンなのです。本記事では、IBMメインフレームに最新テクノロジーを実装する背景と、そのお客様にとっての価値についてご紹介します。

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竹吉 俊輔
Takeyoshi Shunsuke
日本アイ・ビー・エム株式会社
メインフレーム事業部 クライアント・テクニカル・セールス
アドバイザリーITスペシャリスト
20年近く金融の基幹システム構築・品質検証に従事。現在はIBM Zテクニカルセールスとして、メインフレームに関する最新技術の検証や啓蒙を担当。専門はIBM ZハードウェアとBusiness Continuity。
 

時代と共に進化するメインフレーム 

まず歴史を振り返ってみましょう。最初の現代的なメインフレームと呼ばれる IBM System/360 が登場したのは1964年のことです。当時もコンピューターは存在していましたが、マシンごとにソフトウェアを一から作り直す必要がありました。System/360は、ソフトウェアをハードウェアから切り離し、ライン内での互換性を実現した初のシステムでした。あるマシン向けに開発したソフトウェアを、そのシリーズ内の別のマシンでも利用できるというのは当時画期的でした[1] 。
企業の業務は急速にコンピューター化し、当時の顧客から特に強く求められたのは「大量データを処理できるキャパシティー 」と「安定稼働」でした。この要望に応えるため、IBMメインフレームは仮想化、信頼性、システムの連続稼働といった分野で数々の技術革新を生み出していきます。
2000年代に入ると、システムの分散化が進み、他システムとの相互接続ニーズが高まります。メインフレームではミドルウェア層でシステム間連携やデータ連携に関する技術が進化しました。また、将来を見据えてLinuxのサポートを開始したのもこの時期です。
そして2010年代にはクラウド化の波が押し寄せます。IBMメインフレームは、ハイブリッドクラウドの中核を担うオンプレミス基盤として存在感を高め、セキュアなサーバーとして、従来から強みを持つセキュリティー 機能を一層強化します。また、時代の変化に伴い、よりオープンな基盤として進化を続けます。Red Hat OpenShift Container Platformをサポートし、アプリケーションはインフラに依存しない柔軟な稼働が可能となり、またAnsibleやTerraform、VS Codeといったオープンスタンダードな技術に積極的に対応し、最新の開発・運用スタイルに適応しています。
移り変わる時代の中、メインフレームを語る上で欠かせないのが アプリケーションの互換性 です。お客様の大規模で重要な資産を守るため、IBMメインフレームは「アプリケーションの改修を極力することなく維持可能」という互換性を徹底してきました。そのため、多くのシステムは今もCOBOLやPL/Iといった歴史ある言語で稼働し、開発や運用のインターフェースも長年のものが使えます。これは決して悪いことではありませんが、一方で「古い」「レガシー」という印象につながっているのも事実でしょう。
しかし本質は異なります。この互換性を守りながらも、時代の要請に応じて進化を続けてきた、それこそがメインフレームの最大の特徴であり、真の強みであるといえます。
 

IBM Zの最新テクノロジー 

ここからは、そのような流れを汲むIBMメインフレームの、2025年に登場した最新機種IBM z17[2]が搭載する最新テクノロジーと、その背景にある狙いをご紹介していきます。
 

全てのトランザクションにAIの知見を 

AIの時代を迎え、あらゆるテクノロジーがAIを搭載することで大きな変革を遂げています。メインフレームも例外ではなく、AIを活用することで、これまで実現できなかった新しい価値をお客様に提供できるようになりました。その中心となる技術が、Telum IIプロセッサーに搭載されたAIアクセラレーターです。AIアクセラレーターはCPUやメモリと直接メインバスで接続されており、極めて低遅延で AI推論を実行することができます。世界中のトランザクションの約7割がメインフレームで処理されているというデータがありますが、この全てのトランザクションに対して、リアルタイムでAI推論を適用できるようになるのです。
その代表的な活用例が、クレジットカードの不正利用検知です。日本では2024年、不正利用による被害額が555億円に達し、過去最悪を更新しました[3] 。米国の大手銀行では、当初メインフレーム外のサーバーで不正検知の仕組みを構築しようとしましたが、外部の推論エンジンとの間のネットワーク遅延などにより十分な性能が得られず、約80%の取引が対象にできない結果となり非常に困っていられました。最新のメインフレームであれば、全てのカード決済トランザクションに対して、SLA (サービス品質基準)  を満たしながらAI推論を実行し、不正取引を検出することが可能です。
AIアクセラレーターは2022年に登場したIBM z16で初めて搭載されましたが、最新のIBM z17では性能がさらに向上し、CPCドロワー内の8つすべてのAIアクセラレーターが活用可能となり、基盤モデルのような比較的規模の大きいAIモデルも効率的に処理することが可能になっています。これにより、たとえば、まずは比較的軽量で効率的なAIモデルで全トランザクションの推論を行い、回答の信頼度が高くないものに対しては、追加でより大きな基盤モデルによる再推論を行うという仕組みが実現できます。これにより、レイテンシーと正確性という両立が難しい2つの要素のバランスをうまく取ったAI推論を基幹業務のトランザクションに対して行うことができるようになります(図1) 。 
 
図1. 複数AI推論モデルの組み合わせによる不正検出  
 
このように、IBM z17ではお客様のニーズをもとに、他のプラットフォームでは実現困難な新しい価値を提供しています。前述の大手銀行では、この仕組みにより年間2,000万ドル以上の詐欺リスク削減を見込まれているとのことです。
 

レガシーなメインフレームを生成AIで変革 

メインフレームにおけるAI活用は、ビジネス分野だけにとどまりません。いわゆる「メインフレーム課題」の解決にも大きな力を発揮します。「メインフレーム課題」とは、アプリケーションが長期間にわたり変更や追加を繰り返した結果、複雑化・肥大化し、メンテナンス性が低下していることや  設計情報が失われ、アプリケーションがブラックボックス化していることを指します。インフラ運用についても高度な専門性が求められ、若い世代へのノウハウ継承が困難になっていることも課題です。これらは、実際に多くの企業が抱えている共通の課題であり、10年、20年先を見据え、解決していかねばならない非常に重要な問題です。
これらの課題の本質は、長期間利用されてきたことに伴う「構造的劣化」にあります。その根本要因の一つが、情報の不足や欠落です。この状況を解決する上で、膨大なデータを基に推論を行い、欠けている情報を補完してくれる生成AIは、強力なサポーターとなります。
 
代表的な取り組みの一つが、アプリケーション開発の生産性向上を目的とした IBM watsonx Code Assistant for Z (以下、WCA4Z ) です[4]  。 WCA4Zは、既存コードの自動リファクタリングや、AIによるコードの要約・解説機能を備えています。さらに最近ではCOBOLやPL/Iのコード生成機能も追加され、活用範囲が広がっています。必要に応じて、メインフレーム内でのCOBOLからJavaへの変換や、自動検証テストの提供も可能です。海外の保険会社の事例では、開発者がアプリケーションを理解するための時間を80%削減できたという成果も報告されています[5] 。
また、生成AIを活用してメインフレームとの関わり方を変革するのが IBM watsonx Assistant for Z (以下、WXA4Z ) です[6] 。WXA4Zは、IBM Zおよびお客様システムに精通した生成AIアシスタントが、チャット形式でお客様のシステムに関する質問に正確な回答を提供することで、運用の効率化や経験の浅い人材のスキル習得を支援します。さらにWXA4Zと自動化ソリューションを連携させることも可能であり、運用における生産性向上に貢献します。これにより、インシデント解決時間の短縮、初期学習コストの削減、経験豊富な有識者の最適活用といった効果が期待できます。
こうした生成AI (大規模言語モデル ) を扱うためには、相応の規模を持つAI処理基盤が必要です。そのため、最新のIBM z17では、先述のTelum IIプロセッサー上のAIアクセラレーターに加え、PCIeアダプター経由でプロセッサーを拡張できる IBM Spyre が搭載されました。よく「なぜAI処理機構が2種類もあるのか」と質問されますが、それは世界中のお客様の多様なニーズに応えるための設計です。Telum II上のAIアクセラレーターは軽量かつ高速なAI推論を担い、Spyreは生成AIのような大規模モデルを効率的に処理するための仕組みとなっています[7]。 
 

量子コンピューターがもたらす脅威にいち早く対応 

IBM Zは、インターネットが普及する以前から、お客様の最も重要な資産を守る基盤としてセキュリティー に注力してきました。例えば、暗号鍵を保護・管理する専用ハードウェアであるHSM(Hardware Security Module)は、軍事レベルに求められる非常に高い基準である FIPS 140-2 レベル4 認証を取得しています。また、プロセッサー上には暗号化・復号処理を実行する専用の機構が搭載されており、大量の暗号処理を高効率に実行することができます。IBM Zは従来から極めて堅牢なセキュリティー を備えたプラットフォームであると言えます。
しかし、セキュリティー を取り巻く環境は急速に変化しています。その中でも特に注目されているのが量子コンピューターの登場による暗号技術への脅威です。現在広く利用されているRSAや楕円曲線暗号といった公開鍵暗号方式は、量子コンピューターのアーキテクチャー を用いれば、これらを現実的な時間で解読できる可能性が指摘されています。もしこれが実現すれば、通信の盗聴やデジタル署名の改ざんといった深刻なリスクが現実のものとなります。この脅威に備えるために研究・標準化が進められているのが「耐量子暗号(Post-Quantum Cryptography、PQC)」です。これは量子コンピューターをもってしても解読が不可能とされる新しい暗号アルゴリズム群を指します。
2022年に登場したIBM z16は、商用サーバーとして世界で初めて耐量子暗号アルゴリズムを搭載しました。そして最新のIBM z17では、2024年にNISTの標準化プロセスで採用された ML-KEM(鍵共有のための耐量子暗号方式)および ML-DSA (デジタル署名のための耐量子暗号方式)  [8] を搭載し、アプリケーションのアルゴリズムでいち早く利用できる環境を提供しています。さらに、自らのマイクロコードをデジタル二重署名で保護するなど、システムそのものを量子コンピューター時代に備えたセキュリティー 設計としています。
IBM Zはこのように、これから訪れる量子コンピューター時代を見据え、お客様の資産を未来にわたって守り続けるための取り組みを先行して進めています。
 

新しいビジネス領域への進出 

IBM Zは長年にわたり、お客様の基幹業務を支えるために極めて高いレベルのセキュリティー を備えてきました。そのセキュリティー の強さを軸に、近年では全く新しい分野でも活躍の場を広げています。それが「デジタル資産 」の領域です。
デジタル資産とは、暗号資産(仮想通貨)、セキュリティー・トークン 、NFT(非代替性トークン)など、ブロックチェーンを基盤に管理される新しい形の資産を指します。これらは従来の金融資産と同じように価値を持ちますが、システムの脆弱性やセキュリティー 侵害がそのまま資産価値の毀損に直結するという特徴があります。資産そのものを守るために極めて強固な基盤が不可欠となります。
IBMは、この領域で暗号資産の保管・管理を行う資産管理  事業者と連携し、セキュリティー を飛躍的に高めるための技術基盤を提供しています[9][10]。 その中核のひとつとなるのがIBM東京基礎研究所が開発したIBM Hyper Protect Offline Signing Orchestrator (OSO) です[11]。 これは図2のように、秘密鍵をフロントエンドのオンライン環境から切り離し、完全に隔離された安全な環境で人を介さず、より効率的にコールド署名処理を行うための仕組みです。そして、その実行基盤として採用されているのがIBM LinuxONE(IBM ZのLinux専用機)になります。IBM LinuxONEの堅牢性はデジタル資産 の管理基盤として理想的な環境であり、海外の複数の企業で既に実用稼働しています。 
 
図2.デジタル資産の強固な管理基盤  
 
このようにIBM Zは、唯一無二の強みであるセキュリティー を、従来の基幹業務だけでなく新しいビジネス領域にも拡大しています。メインフレームが単なる既存システムの維持基盤にとどまらず、未来の金融や価値流通の仕組みを支える存在へと進化していることを示しています。
 

まとめ 

以上、IBM Zの最新テクノロジーをご紹介しました。IBM Zは、圧倒的なセキュリティー や信頼性という非機能要件の強みを持ち 、アプリケーションの互換性を重視しながら、長年にわたり世界中のお客様の基幹業務を支え続けてきました。その一方で、時代ごとのニーズに応じて最新技術を積極的に取り込み進化してきたことが大きな特徴になります。重要なのは、単に流行の技術を闇雲に採用しているのではなく、常にお客様の将来を見据え、明確な設計思想のもとに新しいテクノロジーを取り入れている点です。その結果として、IBM Zはメインフレーム分野で圧倒的なシェアを誇り、多くのお客様に長期にわたりご利用いただいていると考えています。
これからもIBMメインフレームは、最新のテクノロジーを積極的に活用しながら、お客様の基幹システムを未来にわたって支え続けていきます。
 
 
参考文献
[1] IBM: メインフレームとは何ですか?, https://www.ibm.com/jp-ja/topics/mainframe
[3] 日本経済新聞: クレカ不正利用、過去最悪555億円 番号盗用止まらず,
[4] IBM: IBM watsonx Code Assistant for Z,  https://www.ibm.com/jp-ja/products/watsonx-code-assistant-z
[5]  Ric Lewis, Aparna Sharma, Ross Mauri, Robert Zabel: Mainframes as mainstays of digital transformation, IBM Institute for Business Value
[7] 間々田 隆介, 小川 愛理, 伊藤 愛, 野村 晶代:コンピューティングの未来(Neuron):半導体チップから見たAIの将来〜Future of AI Computing, IBM Provision,
[8] NIST: NIST Releases First 3 Finalized Post-Quantum Encryption Standards, https://www.nist.gov/news-events/news/2024/08/nist-releases-first-3-finalized-post-quantum-encryption-standards
[11] IBM: Digital Assets Infrastructure with IBM Hyper Protect Services,  https://www.ibm.com/digital-assets-platform

 

 

 

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