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Technology on the cutting edge : AI時代に対応した自律型ITインフラを実現するPower11サーバー

By IBM ProVision posted yesterday

  
2025年7月に発表されたPower11サーバーは、計画停止ゼロ、効率化された障害対応、高度なセキュリティー 、量子耐性暗号、低消費電力オフチップAIアクセラレーターなどを備え、業務の継続性と効率性を大幅に向上します。これらは自律型ITインフラを可能にし、オンプレミスやクラウド環境での柔軟なAI活用を強力に推進します。本稿では、インフラ運用やエンタープライズAI活用が、Power 11サーバーによってどのように変わっていくか、またその可能性をどう広げるのかについて、解説していきます。
田中 宏幸
Tanaka Hiroyuki

日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMテクノロジー・エキスパート・ラボ
エグゼクティブ・テクニカル・スペシャリスト

三ッ木 雅紀
Mitsugi Masanori

日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMテクノロジー・エキスパート・ラボ
シニア・テクニカル・スペシャリスト

長井 真吾
Nagai Shingo

日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMテクノロジー・エキスパート・ラボ
シニア・データサイエンティスト

入社以来製品開発に従事し、2012年からIBM Powerサービスを担当。2024年よりデリバリーチームのマネージャーとして奮闘中。

入社後、ストレージ・組み込みシステム・サーバーの製品開発を経て、現在IBM Powerのお客様向け製品特化型サービスデリバリーに従事。15年以上に渡りIBM Powerの製品に関わる業務を行っている。

入社以来、主に組み込みシステムの開発経験を経て、2013年よりPower関連のデリバリー業務に従事。現在は、Powerのお客様向けに、AIやOpenShiftなどの最新技術の検証からシステム開発・運用まで幅広い技術支援を提供している。

はじめに

今回発表されたPower11サーバー(図1、[1])は、企業の事業継続性を支えるために設計されています。現代のビジネス環境では、システム停止が収益や信頼に直結するリスクとなっており、Power11サーバーはそのリスクを多面的に低減します。
まず、Power11サーバーは、非常に高い堅牢性を備えています。これは、信頼性の高いコンポーネント設計、インフラの冗長性とスペア構成、革新的なエラー検出・隔離技術、そして迅速な自律回復機能によって実現されています。たとえば、最上位のPower E1180(図2)の場合、スタンドアロン構成でも「6-9’s」(99.9999%)の可用性を実現しており、年間のダウンタイムはわずか約31.5秒にとどまります[2]。これは、メインフレームであるIBM Zを除くと世界最小で、IBM Powerは過去16年間この地位を誇っています[3][4]。
この堅牢性に加えて、計画停止に対してはメンテナンス中でも業務を止めずに継続できる柔軟性を実現しました。さらに、サイバーインシデントへの対応では、サイバー攻撃のリアルタイム検知や復旧により、影響の最小化を実現します。そして、障害による予期せぬ停止に対しても、自律的な復旧支援機能の導入により、障害からの早期復旧が可能になりました。
近年では、生成AIを活用した新たなサービスやアプリケーションの登場により、ITによるビジネスへのさらなる貢献が期待されています。AI技術の急速な進化に伴い、新しいアプリケーションの開発スピードも加速しており、2028年までには10億種類もの新たなアプリケーションが登場すると予測されています[5]。Power11サーバーには管理の自動化やAIを低消費電力で稼働するための技術が組み込まれており、将来にわたって「AI時代の自律的なIT」を提供することができます。
本稿ではPower11サーバーがどのように自律的にITインフラを支えているかに焦点を当てて解説します。

図1.   Power11サーバーラック

図2.  Power11サーバー最上級のIBM Power E1180

計画停止ゼロを実現

多くのエンタープライズ向けサーバーは、構成するハードウェア・コンポーネントが冗長化されており、一部に異常が発生してもワークロードの稼働に影響が及ばない様に設計されています。ただ、障害の発生時や脆弱性対応などのアップデート時には、ワークロードを一旦停止せざるを得ない場合があります。こうした計画停止を最小化、またはゼロにするため、Power11サーバーは、自律的エラー対応とゼロ・ダウンタイムの2つの機能を実装しました。
「自律的エラー対応」機能は、障害発生時に自動で素早く問題を特定・解決するものです。これまで障害が起きたときは、運用担当者が手動でサポートケースを作成し、自分でログを集めてIBMサポートに送る必要がありました。しかしPower11サーバーでは、ケースのオープンからログの送信までの一連の作業が自動化されます。さらに、IBMサポートではAIを活用してログを分析することで、原因の特定と解決策の提示を迅速に行うことができる様になりました。
加えて、「ゼロ・ダウンタイム」機能はファームウェアやハイパーバイザーの更新によるPower11サーバーの計画停止をゼロとすることが可能になる機能です。Powerサーバーの管理コンソール(HMC)が自動的に以下の手順を実行し、計画停止によるワークロード停止をゼロとすることができます。

  1. サーバー停止の影響を受けるワークロードを安全なサーバーへ移動
  2. 修正の適用を実行
  3. ワークロードを元のサーバーへ復帰

なお、OSとしてAIXを利用している場合には、AIXカーネルに対するアップデート適用時にもOS再起動が不要となるライブ・アップデート機能も利用できます。この機能によって、OS部分も含めた計画停止ゼロを実現することができます。こうした機能は、OS、ハイパーバイザー、さらにサーバーやプロセッサーまで一貫して開発しているIBM Powerだからこそ実現可能な技術です。
また、Powerで稼働するOSの1つであるIBM iには、オペレーターによる管理作業を最小限とする自律機能が備わっており、パフォーマンスも自動調整されます。そのため、専任の運用担当者なしで運用している企業も多く、さらに高い安定性により障害による業務停止も最小限に抑えられます。
計画メンテナンスの自動化により、作業時間が短縮され、専門スキルへの依存を減らすことができます。これによって運用チームは、より戦略的な業務に集中できるようになります。メンテナンスは、業務を妨げる負担の大きい作業から、効率的で支障のないプロセスへと進化しています。また、計画メンテナンスによる業務への影響が最小化されることにより、更新の頻度を上げることが可能になります。結果として、システムの安全性と安定性が向上し、パフォーマンス低下やセキュリティーリスク、予期せぬダウンタイムのリスクを軽減することにつながります。

セキュリティー面から無停止を支える

計画外の停止を回避するという観点では、情報セキュリティー対策が急務となってきています。2024年の調査によると、データ侵害の平均被害額は過去最高の488万ドルに達しています[6]。特にランサムウェアの被害は深刻で、株式会社アイ・ティ・アールの調査によればシステムを完全復旧できない企業が7割、復旧に1週間以上を要した企業が7割に上ると報告されています[7]。Power11サーバーではこのように高度化された脅威に対して、IBM Power Cyber Vaultという新しいソリューションを提供します[8]。このソリューションは、(1)お客様のセキュリティー・リスクや課題の特定、(2)改変不能なバックアップの自動取得によるデータの保護、(3)サイバー攻撃のリアルタイム検知、(4)サイバー攻撃からの自動復旧、をエンドツーエンドでサポートする包括的なソリューションです。これは単に製品の機能を利用したものではなく、Power11サーバー、IBM FlashSystem、PowerSCなどのIBMソフトウェア、Ansible Playbook、及びIBM Technology Expert Labsによるサービスを組み合わせることにより、お客様要件に合わせたサイバー・レジリエントなシステムを実現します。サイバー攻撃の検知においては、実行許可リストによる制御、シグネチャ・ベースのマルウェアスキャン、及び実行ファイルのハッシュ値ベースの検証、という異なる3つの手法を補完的に組み合わせることにより、従来のツールでは検知できない攻撃にも対応可能な多層的で高度な防御を実現している点が大きな特長となっています。このような包括的ソリューションであるIBM Power Cyber Vaultを導入することにより、ランサムウェア攻撃を1分以内に検知し、安全なクリーンルーム環境でテストしたバックアップを用いて、確実かつ迅速な業務再開が可能となります。
また、将来大きな脅威となることが予想されるのが、量子コンピュータによる暗号解読です。CRYPTRECの定めた基準によると、現在主流となっている暗号化方式RSA-2048は2031年以降に解読される可能性が高まるため非推奨とされていることからも[9]、暗号解読に対する備えの重要性が年々高まってきています。特に、暗号解読可能な量子コンピュータが実現されることを見越して、先にデータを盗んでおくHNDL攻撃(Harvest Now, Decrypt Later)は大きな脅威と考えられており、できる限り早期に耐量子暗号へ取り組むことが求められています。Powerでは耐量子暗号化の対応に早くから取り組んでおり、NIST標準[10]に準拠した耐量子暗号化への対応に加え、セキュア・ブートやLPM(Live Partition Mobility)も耐量子暗号化対応するなど、ハードウェアとソフトウェアの両面で暗号解読の脅威への対策を拡充しています。Power11プラットフォームの最新機能を活用することにより、来るべき大規模量子コンピュータ時代においても、重要なデータを確実に保護するだけでなく、システム全体を量子コンピュータによる高度な攻撃からも防ぎ、長期視点で停止時間ゼロを実現する強固なインフラの構築が可能となります。

自律型ITインフラ上で実現されるエンタープライズAI

AI技術の急速な進化により、多くの企業が業務効率の向上や意思決定の高度化、顧客体験の改善などを目的に、エンタープライズAIの試験導入を進めています。また、AIの活用は業務そのものだけでなく、それを支えるITインフラにも広がっており、システムの構築・テスト・運用といったプロセスを自動化するためのAIの導入も検討が進んでいます。一方で、AIを本格的に業務へ組み込んでいる企業はまだ少数です。AIを企業環境に統合するには、単に優れたアルゴリズムやモデルを選ぶだけでは不十分であり、多様なAIワークロードに対応できる、堅牢で安全かつスケーラブルなインフラが不可欠です。IBM Power11サーバーは、こうした課題に対して独自のアプローチを提供します。AIモデルの複雑さに応じて、オンチップおよびオフチップのアクセラレーション機能を柔軟に活用できる設計となっており、企業のAI導入を強力に支援します。
Power11プロセッサーに内蔵されたMMA(Matrix Multiply Assist)によるオンチップAIアクセラレーションは、従来型の機械学習モデルやデータウェアハウス分析、ベクトル・データベース操作(RAGスタイルのクエリーなど)のAIに最適です。追加のハードウェアを必要とせず、データソースに近い場所でレイテンシーを最小限に抑えたAI推論実行が可能となります。
一方、企業のAIユースケースが進化し、画像分類、動画処理、時系列予測、パラメータ数の多い生成AIなど、より複雑なディープ・ラーニング・モデルが求められるようになると、計算性能やメモリ帯域幅への要求が急増します。こうしたニーズに対応するため、Power11サーバーではIBM SpyreカードをオフチップAIアクセラレーターとして搭載可能です。このカードは32個のアクセラレーター・コアを搭載します。また、一般的な推論用のGPUの消費電力が数百Wであるのに対してSpyreは75Wという低消費電力で動作します[11]。最大8枚のSpyreカードを搭載可能なI/OドロワーをPower11サーバーに組み込むことで、より高効率なAI推論環境を構築できます。
Power11サーバーの大きな強みは、AIワークロードに対するオンチップとオフチップのアクセラレーション配置を、統合されたエンタープライズ・グレードのプラットフォーム上でユーザーが柔軟に組み合わせられる点です。初期のAIワークロードは、追加ハードウェアなしでオンチップ・アクセラレーターを活用してコスト効率よく開始でき、ニーズの拡大に応じてオフチップAIアクセラレーターをシームレスに統合することで、性能を段階的に向上させることが可能です。両アクセラレーターはPyTorchなど主要なオープンソースAIフレームワークに対応しており、オンチップ・オフチップ間の移行も柔軟に行えます。これにより、既存の投資を保護しつつ、将来的なスケーリングにも対応可能です。今後はRed Hat OpenShift AIにも対応予定で、コンテナベースのエンタープライズ向けAI環境の構築が可能になります。
このように、用途に応じてオンチップとオフチップのアクセラレーターを使い分けることで、省電力かつリソースの最適配置を実現したAI推論システムの構築が可能です。さらに、IBM Powerに対応済みのTurbonomicおよびInstanaを導入することで、アクセラレーターを含むシステム全体の最適配置を支援することができます。Turnbonomicによるリソース配置のAIによる自動調整やInstanaの機械学習をベースとした監視機能に代表されるようなAIOpsにより、パフォーマンスとリソースの自律的な最適化を実現できます。IBM Powerが提供する事業継続に不可欠なデータ基盤に、AI環境を統合することで、データを安全かつ効率的に活用できるようになります。その結果、業務処理の自動化と自律化が加速し、AIを活用した自律型ITインフラとアプリケーションの構築が可能になります。

おわりに

このように、AI時代に求められる自律的なITインフラを実現するために設計されたのが最新のIBM Power11サーバーです。ゼロ・ダウンタイムによる計画停止ゼロ、Power Cyber Vaultによる高度なセキュリティー、そしてAIアクセラレーターによる効率的なAI活用など、ハードウェアとソフトウェアの両面から自律的なITを支えます。
こうしたPower11サーバーの卓越したビジネス継続性は、IBMによるフルスタックの統合とイノベーションによって実現されています。つまり、Powerプロセッサーの基盤となるシリコン技術から、ハードウェア、オペレーティング・システムとファームウェア、そしてハイブリッド・クラウド・プラットフォームに至るまで、すべてのコンポーネントを一体として設計・最適化されているのです。このエンドツーエンドの統合こそが最大の強みであり、複数社が提供する断片的な技術によるアプローチでは不可能な領域への到達を実現しています。
さらに、プロセッサー内蔵のMMAやオフチップAIアクセラレーターSpyreを活用することで、AI処理能力を飛躍的に向上させています。これにより、業務へのAI統合が本格化し、リアルタイム推論、異常検知、予測分析などを基幹業務に直接組み込むことが可能になります。さらに、Power11サーバーはクラウド環境でも利用できるため、オンプレミスとクラウドをまたいだ柔軟なAIワークロード展開が可能です。
Power11サーバーは、まさに次世代のITインフラの中核を担う存在といえるのではないでしょうか。


参考文献

[1] “Introduction to IBM Power Reliability, Availability, and Serviceability for Power10 and Power11 Processor-Based Systems Using IBM PowerVM” July 2025, https://www.ibm.com/downloads/documents/us-en/10a99803d9afd776
[2] IBM z16 and Power10 Deliver Highest Reliability Among Mainstream Servers for 15th Consecutive Year
https://techchannel.com/backup-and-recovery/ibm-z16-and-power10-deliver-highest-reliability-among-mainstream-servers-for-15th-consecutive-year/
[3] “IBM、エンタープライズITの水準を引き上げるIBM Power11を発表”, 2025/7/9, https://jp.newsroom.ibm.com/2025-07-09-ibm-power11-raises-the-bar-for-enterprise-it
[4] "ITIC 2024 Global Server Hardware, Server OS Reliability Report", Nov. 2024, Information Technology Intelligence Consulting Corp.
[5] IDC “1 Billion New Logical Applications: More Background” April 2024, https://my.idc.com/getdoc.jsp?containerId=US51953724
[6] 2024年データ侵害のコストに関する調査, https://www.ibm.com/jp-ja/reports/data-breach
[7] ITRが「企業のサイバーリカバリ実態調査」の結果を発表, https://www.itr.co.jp/topics/pr-20250604-1
[8] IBM Power E1180: Introduction and Overview, https://www.redbooks.ibm.com/redpieces/pdfs/sg248587.pdf
[9] 暗号強度要件(アルゴリズム及び鍵長選択)に関する設定基準, https://www.cryptrec.go.jp/list/cryptrec-ls-0003-2022r1.pdf
[10] NIST Releases First 3 Finalized Post-Quantum Encryption Standards, https://www.nist.gov/news-events/news/2024/08/nist-releases-first-3-finalized-post-quantum-encryption-standards
[11] IBM Next Generation Processor and AI Accelerator, Hot Chips 2024
https://hc2024.hotchips.org/assets/program/conference/day1/04_HC2024.IBM.CBerry.final.pdf

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