2025年のProVision101号では、劇的な変化の中で新技術にどう向き合い、それをどう世の中やビジネスの変革に活かしていくのか、その中で考えるべきポイントについて発信していきます。今回の記事では、テーマ・リーダーが各々のテーマを紹介します。
ProVisionは昨年、創刊30周年、通巻100号を迎えました。IBMが発信する技術機関誌としてそれぞれの時代を先駆する技術の研究や応用を伝え続けてきました。改めて読み返すとまさにIT技術の歴史そのものを垣間見ることができます。
その中でもここ数年の技術進化のスピードと質には驚くべきものがあります。生成AI技術は世の中をがらりと変え、IT技術はいまエンジニアが扱うものから一般消費者がいつでも使えるものに広がってきています。量子コンピューターの登場によってこれまでとはまた全く違う景色が見えてくるかもしれません。
このような劇的な変化の中で私たち技術者は何を考えるべきなのでしょうか。新技術の登場にどう向き合い、それをどう世の中やビジネスの変革に活かしていくのか、その中で考えるべきポイントは何なのか、こうしたことを今年のProVisionでは示していきます。
技術進化そのものの理解を深めていくことは全てのベースになります。「Technology on the cutting edge」としてAI、半導体、量子コンピューター、メインフレームなど様々なコア技術の最先端情報をお届けします。
こうした技術を活用する上で、「技術の信頼性」は何より重要です。AIを扱う上で考慮すべきガバナンスや量子コンピューター時代の対量子暗号技術への変革などに触れ、技術を適用する上で信頼性の高いシステム化対応を展望します。
AIの活用はさらに本格的に業務に浸透していきます。「デジタル変革のためのAI」の中で実際のビジネス変革事例やIT業務における本格活用、さらにこれから注目されるAIエージェントの技術とその活用について解説します。
それぞれの技術は関連し合い連携しあってこそより良いシステムが構築できます。個々の技術をバラバラに成り行きで当てはめていては品質・効率の良いシステムはできません。「Hybrid by Design」ではそうした観点と検討ポイントを示し、“By Design”で(=目的を持って)設計されたソリューションやその適用事例を探求していきます。
そして、こうした技術を扱う技術者の育成とそれを支える制度・仕組みも重要です。IBMでの取り組みもご紹介しながら「技術者を支える文化」のあり方を考えます。
これからもProVisionは技術を伝導し続け、次の100号・次の30年に向けて発進・発信していきます。
1. Technology on the cutting edge
2025年に入り、さまざまな変化の度合いが一段と高まっています。このような状況の中で本質を見落とさないためにも、テクノロジーに対する理解がより重要になっています。
最新のテクノロジーを理解し、その位置付けや方向性、そしてテクノロジーがもたらす効果や価値を知ることは、知的好奇心を満たすだけでなく、ご自身の課題解決力を高め、さらには、これからのビジネスの構想や立案にも有用です。
今年ProVision 101号では、新たに「Technology on the cutting edge」というテーマを設け、AI、クラウド、メインフレーム、量子コンピューティング、半導体などの多岐にわたる分野での最先端テクノロジーの話題を取り上げ、直接携わっている専門家から読者の皆様にお届けします。
最新の製品やソリューションとして組み込まれたテクノロジーだけでなく、まだ研究段階の最新の取り組みなどもご紹介する予定です。
この新しいテーマにご期待ください。
高橋志津 日本アイ・ビー・エム株式会社 理事
2. 技術の信頼性
技術者は皆、社会をより良くするために、新しい技術の開発に励みます。一方で過去の技術の歴史を振りかえると、開発した技術者の意図に反し、技術が悪に使われてしまうということも事実です。そのため、技術はその信頼性を担保するための技術や仕組みとセットではじめて、社会で安心して利用することができます。多くの技術者の努力により、AIの技術は急速に進化し社会での利用も進んでおり、また量子コンピューターが社会で使われる未来も視野に入ってきました。これらの技術を社会で安心して利用できるようにするために、まさに今が、これら進化する技術の信頼性を高めるための技術や仕組みを急ぐ時です。今年のProVisionでは、「技術の信頼性」をテーマに、量子コンピューター、AIの信頼性を高める取組みを複数の記事として発行していきます。
山田 敦 日本アイ・ビー・エム株式会社 技術理事
3. デジタル変革のためのAI
2024年までに生成AIの大規模な基盤モデルやRAGなどの周辺技術が登場し、多くの企業が生成AIの利用を開始しました。しかし、実際に企業のビジネスや業務で大きな成果を上げたという事例はまだ多くはありません。それは、まだ企業内に保有されるデータの99%がAIによって活用されていないためです。
2025年はこの企業が保有するエンタープライズ・データを効果的にAIで活用する事で、実際の企業でビジネスや業務で効果をあげるその企業に最適化されたエンタープライズAIを創る事が重要となります。そのエンタープライズAIが実際にその企業のデジタル変革に寄与するという結果が求められているのです。
そのために必要となるのは、企業ごとに保有するデータを効果的にAIで活用するためのデータ・プラットフォームや、AIを効率よく実行するためのAIプラットフォームと基盤モデル、さらには2025年から発展著しいAIエージェントによる自律的な意思決定の自動実行があげられます。これらのテクノロジーを活用し、企業活動に実効性のあるビジネス変革のためのAIやIT変革のためのAIを実現する事が必要となります。
2025年の「デジタル変革のためのAI」のテーマでは、このような実効性のあるAIの事例やそれを支えるテクノロジーについてご紹介します。
二上 哲也 日本アイ・ビー・エム株式会社 コンサルティング事業本部 CTO 執行役員・ IBMフェロー
4. Hybrid by Design
技術は目まぐるしく進化し、これまでにない速さで高度化・複雑化しています。AIやクラウド・コンピューティングは身近なものになり気軽に試して使えるような環境になってきました。ニーズに合わせて様々な技術をハイブリッドで活用しすぐ作れるというメリットの一方で、いわゆる野良クラウド、野良AIが企業システムの中で広がりやすくなっています。個別最適となりシステムの安全性や品質、効率性の観点でリスクが(これも同じく速いスピードで)増大しています。このような状況の中、システム全体で整合性を確保するアーキテクチャーを策定・構築していくことが今まで以上に求められています。この考え方をハイブリッド・バイ・デザインと呼びます。バイ・デザイン(By Design)とは「意図・目的を持って」という意味で、多様な技術要素をハイブリッドで組み合わせたシステム構築を進める時代に特に必要となる考え方です。「Hybrid by Design」のテーマでは、バイ・デザインで考える重要性、適用のアプローチ、バイ・デザインで考えるソリューションの姿を深掘りし、ビジネスと業務に本格活用する技術適用のあり方を考えていきます。
野波 衆太郎 日本アイ・ビー・エム株式会社 執行役員・技術理事
5. 技術者を支える文化
これまで社会や技術のさまざまな変革が起きましたが、最近の社会情勢やAI技術の普及によるさらなる大変化のなか、技術者には自らの専門性をより一層深め、時には分野をシフトしながら、常に学び続ける姿勢が求められています。企業組織においても、従来のOJTや階層別研修といった枠組みに留まらない、より柔軟なしくみが必要になってきています。
そういったしくみの例として、IBMでは職務に応じた技術認定制度も拡充してきており、選択肢をひろげつつより高度な専門性をも追求しています。また、技術者が自発的に立ち上げた社内勉強会やコミュニティーなど、経験年数に関係なく相互に刺激し合いながら成長する環境づくりに長年取り組んでいます。
今年のProVisionでは「技術者を支える文化」というテーマで、自ら成長する環境や試みなど実施例を中心に紹介していきます。個人の意欲と組織の支援の相乗効果により、いかに企業全体の技術力が底上げされていくのか。現場の声とともに、その可能性を探っていければと考えております。
西海聡子 日本アイ・ビー・エム株式会社 CTOオフィス
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