前編では主に二人のキャリアパスや本業以外の外部活動に積極的に参加した経験について語りました。後編では、IBMの技術・サービスのユニークな点や、自分の言葉で発信しセルフプロデュースすることの重要性についてお話しします。
IBMの強みは包括的なソリューションを提供できること、“感謝経済” という仕組みを作りたい
-IBMの技術やサービスの競合他社との違いについて教えてください。
藤田:アーキテクトの観点で言うと、IBMも競合他社も、各社に多様な製品を出しており、優劣を必ずしもつけられない部分があります。よって、単発の技術でランキングをつける事に意味はないと考えています。他社は主に製品ベンダーやクラウド・ベンダーが多いですが、IBMの最大の強みは製品を動くシステムにしてトータル・ソリューションとしてご提供している所だと思います。製品を作るだけでなく、それを起動して、設定を変更し、プログラムを作成し、アプリケーションを作成して、システム化し最終ソリューションとしてお届けしています。製品からデリバリーまで行っているのはIBMのみで、そこが絶対的な差別化要素です。先日、新入社員研修を行ったのですが、他社の製品と比較してお客様にアピールするのではなく、製品を作るだけなくシステム化してトータル・ソリューションにしてお客様に提供するという事を付加価値としていることを社員に対しても教育しています。
戸倉:カスタマーサクセスの部署にいても同じように感じます。外から転職してきて感じる事は、IBMは製品、ハードウェア、実行する環境、クラウド、コンサルティングなどあらゆる機能を持っていて、様々な観点からお客様のニーズに応えられるような素晴らしい環境が用意されています。お客様に製品を届けるだけでなく、テクニカル・パートナーとして包括的なソリューションをお届けしている点がユニークです。
もう一つ、現在、生成AIが社会に大きなインパクトを与えている中、オープンなAIが重要なテーマとなってくると考えます。そういった意味で、IBMとMetaが発起人として発足したAI Allianceは重要な役割を果たしてくると思います。
藤田:現在のAIは翻訳や要約をするなど、生産性向上目的で作られているものばかりです。今後は、お客様の自社製品やサービスにAIを組み見込んでレベルアップさせて、ビジネスを成長させるAIが必要です。AI自体のファイン・チューニング(公開されている学習済のモデルに、独自のデータを追加で学習させ、新たな知識を蓄えたモデルを作り出す技術)をできるようにし、お客様が自社AIを持てるようにするべきです。IBMはお客様が自社AIを作る為のプラットフォームを用意しています。
-ご自身の技術で世界やビジネスをどう変えていきたいですか?
藤田:先ほど、お伝えしたようにIBMにしか提供できない包括的なソリューションでお客様のビジネス成長に貢献したいです。
戸倉:この間、“TIDE” という女性技術者を応援する団体があるのですが、その団体が開催したスピーチコンテストで優勝しました。そこで、自分のキャリアについて紹介したのですが、その最後のスライドに今後実現したいこととして、“感謝経済の構築” を掲げました。IBMにはBlue Pointという社員同士で感謝の気持ちを伝える仕組みがあります。そのポイントを使って、アマゾンギフト券をもらえたり、カタログから商品を選べたりします。それが社員のモチベーションになっています。そのように、世の中でも感謝の気持ちをマネタイズして、モチベーションとするような仕組みがあるといいなと考えています。社会のインフラの仕組みを変えるための社会実装の手法を学ぶ為にIBMに入社しましたので、その経験を活かして、今後そのような社会を実現していきたいと考えています。更にそこにAIを組み合わせていけるとよりいいなと思います。IBMのBlue Pointのような仕組みがあっても、感謝の気持ちを伝え忘れてしまったり、伝えたくても相手の名前がわからなかったりすると思います。そういう時にAIがデジタル・コミュニケーションの中から感謝の気持ちを認知して、自分のクローンAIとしてお互いに感謝の気持ちをメッセージと共に自動で送る、またはそのような選択肢が取れるような仕組みを作りたいです。また、究極的にはそれだけで生活できるような社会を目指したいです。
藤田:現在の社会はお金のやり取りが生活の糧になっているが、それを感謝のポイントのやり取りにして、それだけで生活できるような社会という事ですね。IBMでもチーム・セントリック・カルチャーといって、感謝の気持ちを伝えてそれを人事評価に繋げようという動きがあります。社員はそれぞれ、ミッションや職責がありますが、自分の枠の分だけ達成しても会社は成立しません。自分の目標を達成するだけでなく、みんなで助け合えば、全員が目標を達成できます。戸倉さんの考えが自分の枠を超えた連携や感謝の気持ちをブロックチェーンのような技術にのせて、社会で実装しようという事ですね。
戸倉:はい、その為にもプラットフォームについてもっと勉強したいです。まずは色々な企業様にご理解いただき、エンタープライズ・レベルから展開していきたいですね。
自分の言葉で発信し、セルフプロデュースすることの重要性
-技術者として外部での認知度を高める方法について教えていただけますでしょうか?
藤田:私も戸倉さんも昔から自主的に外部発信をするモチベーションが高いと思います。今ではQiitaなどのプラットフォームがありますが、昔はそのようなものがなかったので、IBMのホームページを間借りしてブログを書いたり、外部のイベントやメディアにも出てきました。そのような活動が出版社の目にとまり、本を出さないかと言われ、先ほども申し上げましたようにJavaの本を書き、その後数冊出しております。本を書いたり、研修コースを自分で作って人に教えるとなると、あらゆる質問に対応するために教える内容の数倍勉強をしなければなりません。そのため、技術者として、早く技術を身につける一つの方法として、アウトプットを自らに課すということは一つの効果的な手法だと思います。
会社に言われて発信するのではなく、自分の意思で自分の言葉で発信することが重要ですね。社外で知名度を上げる方法と言えば、昔なら論文を書いたり、学会で発表することだったと思いますが、今は色々な場があります。そのような場所に自ら出向いて、プロジェクトでやった技術を発表するといいと思います。そうするとプロジェクトでやった以上のものすごい量の勉強することになり、早く技術を習得できます。ただ、まだ若くて無名な技術者が外部で露出しようとしても、なかなか声がかかりにくい事もあるかと思います。そういう場合は一人で何をしようとするのではなく、社内外の技術コミュニティーに参加して、仲間と一緒に勉強して発信していくといいでしょう。
戸倉:前職のMicrosoft時代に初めは営業をやっていたので、いきなり技術的なブログが書けるというわけではありませんでした。そのため、初めは文字制限のあるXで、何かの製品や技術のプレスリリースがあると、そこに自分の気持ちや期待を添えて発信していました。そうやって自分が伝えたいことを日々言語化していくうちに、少しずつ発信力が身についていったと思います。
Microsoft Azureのテクニカル・エバンジェリストとしてマイクロソフト公認キャラクターのクラウディア・窓辺の中の人として発信していた時は、ツンデレキャラクターでありながら絶対に炎上させてはいけないというプレッシャーの元にやっていました。何かをインターネット上で発信するとデジタルとして残るので、本名で発信するのは怖いという方もいらっしゃると思います。そういう場合は、ニックネームを使ったり、私のようなキャラクターの中の人として発信していく事から始めると良いと思います。初めは専門的なことでなくても簡単なことから発信していき、それを毎日続けているとそれを見た人からの“いいね” やリポストなどのリアクションがもらえるようになり、仲間も増えていきます。そのような事を続けていくと技術系のイベントの実況中継などもできるようになります。登壇者が言っている事を正しく理解して発信していく必要があるので、イベント前にそのイベントで取り上げられる技術について事前に勉強することにもなります。慣れてくるとQiitaで記事を書いたりできるようにもなりますし、そうやって発信し続けることが重要だと思います。
Microsoft時代はエバンジェリストしてブログを書いていましたが、IBMに入社してからはVisual Studio Code(マイクロソフト社が出しているソースコード・エディター)の解説記事をSoftware Design(技術評論社)というパソコン月刊雑誌で3年半連載していました。Visual Studio Code は毎月バグの修正だけなく新しいプログラミング言語が追加されるなど仕様が変わるのですが、この連載をもったお陰で様々な言語を学ぶことができました。またコード・エディターというものはコードを書かない人にとっても役立つものなので、一緒にVisual Studio Code を盛り上げたいという仲間も増えてきて、関連コミュニティーも立ち上がりました。
このような発信活動はクラウディア・窓辺としてスタートしましたが、徐々に本名に切り替えました。理由は、自分のキャリアを考えた時に自分はきちんとした技術であるということを認知してもらうことが大切だと考えたからです。また自分の人生は一つの壮大なプロジェクトだと思っているので、所属先に依存することなく“職業・戸倉彩” として発信していることもこだわりの一つです。発信する際に万人受けする必要はないと思います。私のXのフォロワーは1万人くらいで、インフルエンサーの中ではそれほど多い方ではないのですが、半分以上がエンジニアの方々です。そういう人達が必要な情報を発信したいし、そのような方達に情報発信をしていただきたいと思います。
-最後にビジュアルについてのこだわりなど、セルフプロデュースの重要性について教えてください。
藤田:コロナ禍の時期に髪と髭を伸ばし始めました。伸ばした理由は、当時はみんな閉じこもっていてウェブ会議が中心だったのですが、そういう時に髭と髪を伸ばしているとメンバーが笑ってくれて場が和むからです。今では腰くらいまで伸びていて、ちゃんとシャンプーやトリーメントもいいものを買ってケアをしています。コロナが明けてからも伸ばし続けている理由は、お客様を訪問した時もこの風貌をネタに話題が生まれるからです。親しいお客様には、何か担当している案件でトラブルが起これば、お詫びの印としてその場で断髪して捧げますとお伝えしております。ただ、そろそろ伸びすぎたので、ヘアドネーションなどをしてボブカットくらいにしようかなと考えております。
戸倉:私の場合は、先ほど申し上げましたように、Microsoft時代にクラウディア・窓辺の中の人をやっていたので、彼女に寄せるために金髪しました。初めはウィッグを着用していたのですが、暑くて不快だったので、途中から地毛を金髪にしました。ただ、娘に「私も大きくなったら金髪になるの?」と聞かれて何と答えていいかわからなかったり、IBMに入社後は金髪のままだとクラウディア・窓辺を引退したのにまだ引きずっているのかと思われたらどうしようなどと葛藤はありました。しかし一度、娘が小学校に上がるときに母親が金髪だといじめられるのではないかと思い黒髪にしたところ、周りの方に「何かあったの…?」と逆に心配されてしまいました。それで、やはり金髪の方が私らしいのだと再確認し、このままのスタイルでいくことを決意しました。金髪だと、どこへ行っても目立つので、たくさんいる技術者の中ですぐに見つけてもらえたり、覚えてもらえるので、そういう意味ではメリットがありますね。一方、まだ金髪である事で人に偏見を持たれることにあるので、そのようなバイアスが残っているのであれば、私がちゃんと技術者として結果を残して世の中に貢献することで払拭していこうと思います。ただ、この色を維持するために毎月美容院に通うなど大変なことも多いのですが、そこは覚悟ですね。
藤田:IBMもそこは最近はかなり変わってきましたね。私が若い頃はダークスーツにネクタイが普通でしたが、最近IBMのグローバルの人でタトゥーを露わにしている人もいますし。
戸倉:特にエンジニアはこだわりが強い人が多いですし、そうやって自分のキャラクターを確立してセルフプロデュースすることも世の中に自分を認知してもらうために重要だと考えます。
本記事では、IBMの中でも本業以外の外部活動に積極的にチャレンジしてユニークなキャリアを築いてきた藤田と戸倉が、主にキャリアをセルフプロデュースすることに重要性に語りました。また、彼らの視点で、IBMの技術・サービスのユニークさや、自信の技術で今後ビジネスや世の中をどう変えたいかについてもお話しさせていただきました。皆様のキャリアやビジネスへ何か新たな気づきとなれば幸いです。(前編はこちら)
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