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ITのフロンティア:次の30年を担う若手が読み解くProVisionの歴史 - 私たちの描く未来に向けて

By IBM ProVision posted Tue November 12, 2024 12:05 AM

  
創刊30周年を迎えるProVision。若手として、ProVisionの過去30年分に向き合うことで知ったのは、IBMの技術や精神の歴史と現在への繋がりでした。本稿では、IBMにおいて変わったこと、変わらずに守り続けてきたことをProvisionの歩みを通して振り返り、次の30年を見据えていま私たちが取り組むべきことをご紹介します。

飯原 絵美
Iihara Emi

日本アイ・ビー・エム株式会社
コンサルティング事業本部
ITスペシャリスト

小嶋 諒樹
Kojima Ryoki

日本アイ・ビー・エム株式会社
コンサルティング事業本部
デジタルビジネスコンサルタント

三上 結以
Mikami Yui

日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
コンサルタント

2022年入社。パッケージ製品導入支援およびカスタマイズ開発に従事。弊社主催の天城会議に参加し、未来をデザインする力についての議論に刺激を受ける。それぞれの社員が働きやすい環境づくりを若手なりに日々模索中。

2023年10月入社。DX推進やシステム開発に従事。京都出身。英国在住歴が長く、バーミンガムが第二の故郷。学生時代は自然言語処理研究とソーラーカー製作に注力。自作したソーラーカーでオーストラリア縦断。

2021年に日本アイ・ビー・エムに入社し、戦略コンサルティング部門のIT戦略チームに所属。大規模システム開発プロジェクトのPMOIT戦略、システム構想プロジェクト等幅広く参画。

山本 克
Yamamoto Katsumi

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社
金融事業部 西日本事業部
ITスペシャリスト

山下 実穂
Yamashita Miho

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社
エンタープライズエコシステム事業部
ITスペシャリスト

2024年4月に日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社入社。西日本金融事業部に所属し、大手銀行向けのシステム開発を担当。埼玉出身。学生時代は、学園祭の広報活動の経験や執筆の経験をした。その経験から、社員の様子を外部に伝える事に楽しさを感じ、今回執筆に手を上げた。

2024年に日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社に入社。Salesforceを専門とする部署に所属し、Salesforceを用いたCRMシステムの開発プロジェクトに参画。

 

はじめに

日本IBMの社内の有志コミュニティー「あいたび!」では、IBMの歴史について学び、社内向けに発信する活動に取り組んできました。記念すべきProVision100号に際し、30年にわたってIBMの技術を発信し続けてきたProVisionと「あいたび!」とがタッグを組み、本企画が発足しました。
企業が誇りとする技術や製品は、特長的な機能に注目が集まりやすい一方で、現在の性能を実現するまでの経緯が見落とされがちです。企業の歴史の中で脈々と受け継がれてきた精神も、忘れることなく常に意識することはなかなか難しいでしょう。企画内容を検討する中で、IBM の技術と精神に対する洞察を深められるような記事を通して、読者であるお客様やパートナー企業の方や社員が、IBMの歴史の一部となる「今」を作っていることに意義や誇りを感じるきっかけを提供したいと考えました。そこで、最新技術の中でも特に注目度が高く、私たちの業務でも取り扱うことが増えた「IBM watsonxのルーツ」と、「IBMの精神」の2つの観点からProVisionを読み進めることにしました。企画に参加した「あいたび!」メンバーはみな20代の若手で、ProVisionの100号をたどることは、自分たちが生まれ育ってきた30年の社会と技術の変化を振り返るような体験でもありました。本記事では、2つの観点それぞれからProVisionを読んで得られた示唆と、これからの30年を担うIBM社員としての私たちの展望をお伝えします。
 

ProVisionから見るwatsonxのルーツ

AIはすでに1950年代から存在していた 

IBMにおけるAIのルーツは1950年代まで遡ります。AIが黎明期であった1950年代においても、IBMは音声認識や機械翻訳など、AIの可能性を広げる先駆的な研究を行ってきました。ハードウェア領域では、1960年代にIBM System/360シリーズでコンピューターの標準化を推進し、半導体技術の進化にも大きく貢献しました。エネルギー効率を維持しながら、膨大なデータを高い演算能力で処理するためのAIハードウェアの研究は現在も続いています。また、IBMは組織のナレッジマネジメントを重視し、社員が持つ知識やノウハウを共有・活用して新たな価値を創造する取り組みを推進してきました。
ハードウェアやソフトウェア、関連するナレッジなど様々な環境が整っていく中で、IBMはAIとハードウェアの進化を組み合わせ、新たな挑戦を続けてきました。その一例が1997年にチェスの世界チャンピオンに勝利したIBM Deep Blueです。高度な並列計算能力を持つ専用ハードウェアと高度なアルゴリズムを組み合わせることで、AIが人間の知的能力に迫る可能性を示しました。
2000年代に入ると、インターネットの普及と機械学習の進化により、AIは実用に近いものとなりました。企業によるAI導入への関心が急速に高まる中で登場したのがWatsonです。Watsonは人間の言葉を理解し、自然な対話を通じて学習し成長する「コグニティブ・システム」の概念を具現化したもので[1]、クイズ番組「Jeopardy!」で正答率でも賞金でも人間のチャンピオンより優れた結果を出して大きな話題を呼びました。その後、Watsonは進化を続け、現在のIBM watsonx(以下、watsonx)へと発展しました。watsonxはより高度な機能と信頼性を備え、コンサルタントやデザイナー、弁護士、医師など多岐にわたる専門家の生産性を向上させています。
 

IBM watsonxの活用とIBMのリーダーシップ

私たち若手にとって、IBMが長年にわたりAIの研究開発に取り組んできたことは驚きでした。日々の業務でもwatsonxを活用したツールを使う機会が増え、有用性を実感しています。例えば、社内のコミュニケーションツールであるSlack上で、watsonxと連携したチャットボットを起動させることで、IBMに関する質問に即座に答えてくれるなど、AIが身近な存在となっています。また、社内だけでなく、お客様の活用事例も増えており、AIによる業務変革が加速しています。AI導入により、ビジネスプロセスの効率化や新しい価値の創出が実現されているのです。
AIの進化に伴い、リスクや倫理観についても深く考える必要があります。若手の中には、AIが業務を効率化する一方で、自分たちの仕事が奪われるのではないかと不安を抱く者もいます。しかし、ProVisionを通じて、IBMが常に技術と人間の共存を追求し、責任あるAIの実現に取り組んできたことを知りました。IBMは、AIの倫理性や信頼性を重視し、実現するためのフレームワークやガイドラインを策定・提供し続けています。
近年IBMでは、新しい半導体やAIの処理を加速するテクノロジーだけでなく、AIの利活用を促進する革新的なソフトウェアも数多く生み出しています。ハードウェアとソフトウェアの技術の進化により、AIの周辺技術もさらに発展していくでしょう。しかし、IBMは技術の追求だけでなく、使う「人」のことも大切にしています。技術は人間の仕事を奪うのではなく、新たな価値を創造するパートナーであると私たちは確信しています。技術を正しく理解し、責任を持って積極的に活用し、自身の成長やビジネスの発展につなげていきたいです。
 

ProVisionから見えたIBMの精神

世界をより良く変えていく"カタリスト(触媒)"になる

「“お客様志向”で“変革をリード”する会社として“豊かな社会の実現に貢献”する」ことを目指していた創刊号から30年が経った今も、IBMとして目指す姿は変わらないように思います。各年代の巻頭言に注目して読み進めていく中で、IBMが世の中の変化を迅速にとらえ、すぐに経営戦略に落とし込んで社内外に向けて発信してきていることがわかり、変化の速いIT業界を牽引する一企業としてのIBMらしさが見えました。お客様志向であることは変わらない一方で、お客様のビジネスの成長に寄与する価値「創造」から、社会課題の解決に向けてお客様とともに貢献していくための価値「共創」へと、IBMにとっての「価値」に対するあり方が大きく変化していることにも気がつきました。パンデミックのような社会の変化を、企業としての変革の機会と受け止め、持続可能な社会の実現に向けて多様なステークホルダーを巻き込む精神は、「世界をより良く変えていく"カタリスト(触媒)"になる」というIBMの存在目的の定義を色濃く反映しているように思います。
 

教育に飽和点はない

社会によりよい変化を与えていくため、IBMは社員に対して高い技術力と豊富な知識を持ち、アップデートし続けることを常に求めていると感じます[2][3]。プロフェッショナルな人材を育成するため、1998年にはウェブ上での学習コンテンツを展開し、2001年にはEラーニングでのコラボレーションを企画するなど、多様かつ最新の学習機会を提供していることがProVisionから読み取れます[4][5]。現在でも、“学びウィーク”をはじめとする大規模な社内向け学習イベントが定期的に開催され、多くの社員が積極的に参加しています。IBMの創業者トーマス・ワトソン・シニアが残した「教育に飽和点はない」という言葉は、100年以上経ったいまもなお受け継がれ、折に触れて取り上げられます。社員が日々研鑽に努めお互いを高め合う精神はいつの時代も変わらないと、今まさに成長の最中にいる者として強く感じます。
 

若手が考える将来に向けての道のり

ここまで、30年分のProVisionを読んで得られた示唆を中心にお伝えしてきました。ここからはその示唆を踏まえて考えた、将来に向けて取り組むべき重要なポイントを3つご紹介します。
 

1. 歴史に学び、現在を捉え、将来を構想する

解釈によって変わることはありますが、変わらない事実を歴史は伝えてくれます。先の見えない時代において、確固たる指針となるものは歴史ではないでしょうか。ProVisionからはIBMの沿革を多く学べました。学びの精神や考え続ける力、研究に投資し続ける姿勢、変革を恐れない在り方は、30年どころか創業当初からぶれていません。これらのIBM「らしさ」は、変化しないでしょう。一方、技術や社会、お客様との向き合い方は時代に合わせて変化しています。IBMらしさといえる揺るぎない軸を常に心に留め、歴史から学びを得てさらなる変革へ挑戦を続けられれば、複雑な時代においても私たちは進化を続け、お客様へ価値を届けられる存在になれると考えます。
若手の多くは歴史を遠い存在と捉えがちです。IT技術は常に更新されるため、知識のアップデートに忙殺され、歴史を学ぶ時間が取れない人も多いでしょう。そのような状況下だからこそ、すでに知っている人に「頼る力」が必要だと考えます。AIにまとめを頼ったり、経験豊富な先輩社員の話を聞いたりすることも良いでしょう。私たちが今の状況を話し、先輩方にアドバイスをいただくこともできます。ただし、お互いの背景を理解し、尊重することが前提です。IBMでは、若手の声が形になることが多いです。それは、経営層の方々が若手を貴重な存在と認識し、若手の言葉を大切にしているからです。私たちも自分や会社、さらには日本や世界の過去を学び続け、大切にした上で、意見を伝えられるよう努力するべきです。まずは若手とベテランの交流機会を増やすことで、お互いを「頼る」ことができるフラットな関係を築き、意見を交わしながらともに将来を構想していきたいです。
 

2. 情報の発信・蓄積・検索・活用の良いサイクルを作る

IBMの強みは、長い会社の歴史に加えて最新技術の基礎研究からお客様の各業界に精通したビジネスの変革まで担っていることです。しかし、ProVisionのような過去の優れたコンテンツや、部門や業種を跨いで提供される高品質のナレッジに簡単にはたどり着けないことがしばしばあり、自社独自の資産が活用できていないように思います。アクセシビリティの課題を解決するため、情報の受け取り手と発信者の両者からのアプローチが必要だと考えます。
情報の受け取り手は、まずAIへの頼り方を知る必要があります。情報社会においては、人の力だけでは情報を追い切れなくなってきています。特に生成AIはインプットまたはコマンド次第で、得られる情報の質が大きく変わります。情報の受け取り手として得たい情報を整理するスキルを最低限身につけるとともに、AIをいかに活用して情報へのアクセス時間を短縮するかが鍵になると考えます。
情報を発信する立場として重要なのは、適切なチャネル選択と情報の位置づけの明確化です。日々流れてくる情報群には、質が高くとも受け取り手にとって内容が難しすぎたり、抽象的だったり、異なる粒度や質の情報が混在しています。受け取り手は情報飽和状態に陥り、自分の興味や専門性に基づいて情報を選別することが難しくなっています。まずは、どのチャネルでどの粒度の情報をやり取りするのか社内で共通の認識を持ち、整理することが必要です。その上で、発信側は情報の受け取り手が「自分ではない人」であることを意識し、相手にとって適切な難易度の情報か、求めている情報かを考慮に入れて発信していくべきだと考えます。
ProVisionでは、テクノロジーの領域に足を踏み入れてまだ間もない若手の私たちにはなじみのない技術も理解できるくらい分かりやすい言葉を用いて解説されていました。正しく対象が定められた解説や文章は、同じ時間を生きる人にはもちろんのこと、違う時間を生きる人にも伝わります。AI活用スキルを身につけると、目的に合った優れたコンテンツに素早くアクセスでき、リサーチ時間の短縮につながります。生成AIの力を借りることで、短時間で高精度の資料を作成することも可能です。AIを活用して過去の優れたコンテンツを参照し、新たなコンテンツを生み出していくサイクルを作れるよう、一社員として努めていきます。また、私たちは新たなコンテンツを活かして、お客様やパートナー様など、社外のコミュニティーとのコラボレーションも加速させ、未来のさらなる可能性を広げていきたいと考えています。
 

3. より良い未来、幸せという理想の追求

多くの若者がなんとなく現状は変えられないと思っています。重い腰を上げてまで行動を起こしたくない言い訳でもあるかもしれません。「いつか」「誰か」が変えてくれると潜在的に思っているのでしょう。しかし、「今」「私たち」が行動をしなければ、「いつか」も「誰か」もありません。
AIは、「人間の知能を模倣するチューリングマシンを作りたい」という願望から始まったとProVisionを通して知りました[6]。理想を追求することは、必ずしもその理想にたどり着くというわけではありませんが、その過程で多くのものが生まれます。ProVisionでは、決して流行りでない技術であっても、研究を続ける技術者の取り組みが多数掲載されていました。その時代にビジネスに直結する研究は少なかったと思いますが、AIに関連した技術研究が昔からあるように、確実に今のIBMを支える基盤となっています。未来につながる研究であると信じて、常に挑戦し続けてきたIBMの姿がそこにはありました。
夢は強制されるものではなく、個々に夢を持ち、夢につながると信じて目の前のことに取り組み続けることで、より良い社会を作ることに繋がるのではないかと思います。
 

終わりに

本記事では、30年分のProVisionから得た気づきと将来に向けた取り組みのアイデアをお伝えしました。過去に学びながら新しい価値を創造するサイクルは、これからも続いていきます。お客様やパートナーの皆さまとともに理想の社会を実現できるよう、「カタリスト(触媒)」としての役割を果たしていきたいです。
技術の価値は使い方次第で大きく変わります。人類の幸福を実現するため、日進月歩で発展する技術を巧みに取り入れながら、多様なお客様や経験豊富な諸先輩方と手を取り合って一歩一歩進んでいけるよう、変革を起こす行動力のある若手として、これからも日々研鑽していきます。
 
 
執筆協力
玉塚 映里加 : 日本アイ・ビー・エム株式会社 公共共済システム事業部 ITスペシャリスト
髙村 壮 : 日本アイ・ビー・エム株式会社 テクノロジー事業本部クラウドプラットフォーム テクニカルセールス
 
参考文献
[1] IBM: コグニティブって知ってる?AIとは違うIBMの目指す世界とは, Smarter Business, https://www.ibm.com/blogs/smarter-business/business/what-ibm-sees/
[2] 日本IBM:PROfessional VISION, No.11, pp.8(1996)
[4] 日本IBM:ProVISION, No.19, pp.13-15(1998)
[5] 日本IBM:ProVISION, No.29, pp.8-11(2001)
[6] 日本IBM:ProVISION コグニティブ・コンピューティングが拓く未来, No.83, pp.4-7(2014 Fall), https://community.ibm.com/community/user/japan/viewdocument/no-83?CommunityKey=3b96b011-ce63-4591-96d3-e94a4861a3bf&tab=librarydocuments
 
 

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