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AIの信頼性 :  生成AI時代に求められる技術者とは〜データサイエンスとAI倫理の専門家が語る

By IBM ProVision posted Wed July 31, 2024 03:12 AM

  

生成AIの登場によりデータとAIの活用が加速度的に進んでいます。一方でAIのリスクへの対応も求められています。本記事では、データサイエンティストであり、日本IBMのAI倫理チーム(*)のメンバーでもある山田敦と河津宏美の二人が、この生成AI時代を技術者はどのように生きていくべきかについて対談しました。IBMの技術リーダーとして、これまでのキャリアパスや日々の活動、自身の専門技術について、IBMの技術のユニークさ、そして技術者として今後世の中やビジネスをどう変えていきたいかについて語りました。

AI倫理チーム:2022 年に発足。多様な観点・経験から AI 倫理の問題を認識できるように、日本IBMの組織を横断したメンバーで構成されている。IBM 自身のAI倫理に関する経験に基づく知見・技術・サービスを用いて、日本市場における AI の信頼性を世界トップレベルに導き、日本企業の国際競争力を高める一助になることを目的としている。

Yamada
山田 敦
Atsushi Yamada
日本アイ・ビー・エム株式会社
コンサルティング事業本部 技術理事
Kawatsu
河津 宏美
Hiromi Kawatsu
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部 テクノロジー・エキスパート・ラボサービス マネージャー
日本IBMに入社し、東京基礎研究所にて、主に3次元形状処理の研究に従事。コンサルティング部門に異動後、2009年に新設された「先進的アナリティクスと最適化」チームのリーダーを務める。2017年よりIBM技術理事。日本IBMのAI倫理チームのリーダーと、データサイエンティスト職のリーダーを務める。博士(工学)。 日本 IBM に入社後、ハードウェア開発部門にて、ストレージのバックエンド・サポートに従事。2014 年にケニアの医療事情改善に向けたコンサルティング、データ分析のボランティアに参加。2015 年にソフトウェアサービス部門に異動し、データサイエンス・サービスのデリバリーに従事。特に運用まで考慮した AI モデルの開発・導入支援に注力。博士(工学)。
 

キャリアの転換期を乗り越えた座右の銘

 
-現在の役職と日々どのようにお仕事されているのか教えていただけますか?
 
山田: 役職はコンサルティング事業本部の技術理事です。1日の流れは、朝7時くらいに起きてゴミ出しに行き、近所の野良猫に遊んでもらいます。その後、メールをチェックしながら朝ごはんを食べます。毎日何件かお客様と打合せがあり、そのための準備をします。オフィスへの出社は週に1−2 度くらいで、毎日23時頃には就寝します。
河津:役職はテクノロジー事業本部のテクノロジー・エキスパート・ラボサービスのマネージャーをしております。お客様の課題を解決するために、IBMのテクノロジーやソリューションをお届けする仕事です。担当領域はデータサイエンスです。1日のタイムスケジュールは、朝5時頃に起きて、子供達が起きてくるまで技術のキャッチアップのために、セミナーを受けるなど勉強していることが多いです。その後はプロジェクトの提案などのミーティングをしています。複数案件を並列で提案しているため、9時から18時までびっしりミーティングで埋まる日もあります。出社は月に数回くらいです。
 
-子供の頃や学生時代の頃の専攻、そこから入社して今の役職に就くまでの経緯やキャリアパスを教えてください。
  
河津:子供の頃から理系科目のほうが好きで、高校は普通科ではなく、理数コースに進学、大学も情報系でした。その後、新卒でIBMに入社し、ハードウェア開発のチームに配属されました。ハードウェアのバックグラウンドは全くなく、どうしたものかと不安でしたが、先輩方にサポートいただき、ストレージ担当として重要障害などの対応を行っていました。その後、IBM Corporate Service Corpsという会社のボランティア・プログラムで、ケニアの医療事情を改善するプロジェクトに参加しました。事前にIBMメンバーと散々話しあってソリューションを作成したにも関わらず、現地の方がDXに全く興味がなく・・。この経験を通して、やはりお客様と会話し、お客様を理解することが大切だなと痛感しました。そこでお客様と接することができる仕事をしたいと考え、現在のテクノロジー事業本部のデータサイエンス・サービスのデリバリーの部署に異動しました。
山田:大学では、自分は何をしたいのか明確な目的が見つからず、ふらふらと日々を過ごすうち、大学院受験に失敗しどん底に堕ちてしまいました。このままではダメだと一念発起し、修士と博士時代は猛烈に勉強しました。その後、IBMの東京基礎研究所に入社し、12−13年研究に従事していましたが、研究所時代の後半にある社内講演をしたとき、「研究とはコミュニケーションだ!」という言葉が口から出てきました。つまり研究所が生み出したものをお客様に届けて喜んで頂けるところまでが仕事である、そういう想いが強くなり、コミュニケーションの経験を積めるコンサルティング部門に異動し、データサイエンティストとしてのキャリアをスタートしました。
河津:開発や研究などから、もっとお客様の近くで技術を伝えたくて今の部署に転身したという点が、私と似ていますね。
山田:フィードバックがダイレクトに得られるので、ご提案しているものが良いのか悪いのか、すぐに分かるところがいいですよね。
 
-現在のポジションに就くまでに苦労した点や、それを乗り越えたマインドセットを教えてください。
 
山田:研究所からコンサルティング部門に異動後3年くらいの駆け出しの頃は、大変苦労しました。研究所で経験を積んできたので、それなりに通用するはずだと考えていましたが、提案しても全くお客様に響きません。出口が見えない中、考え抜いてたどり着いた答えは、「私起点」と「あなた起点」という言葉です。研究所では、「私がこの発明をしました」、「私がこの技術を開発しました」など主語が「私」です。一方、コンサルティング部門では「このようにしたら、貴社・貴部門はこんなに成長できます」と主語が「あなた」なのです。ここに気付いた時が転換点でした。
もう1つキャリアでこだわっている言葉は「一点突破」です。研究所に入社した時、100年勉強してもこの人は越えられないと思う先輩が何人もいました。こんな厳しい組織でどうやって生きていけば良いのか悩み、そこで見いだした戦略が一点突破です。「この領域に一番詳しいのは山田だよね」と言ってもらえる領域だけに時間を使い、ひとまず他は後回しにします。これは博士号を取得した時の経験から来ていて、指導教官が「この点だけは山田が自分を超えていったな」と思った時、博士号をもらえるのだと感じたからです。一点突破してその領域でトップになったら、そこを足場にして他の領域にも手を広げていけばよいのです。コンサルティング部門に異動してからも、この1点突破戦略は続けています。結局「自分だけが持つユニークな点」が自身の市場価値となります。キャリアとは、そのユニークな点を探し求める旅なのです。
河津:私の座右の銘は「チャンスの神様には前髪しかない」です。チャンスは通り過ぎたら掴めないので、来たら多少不安があってもすぐに掴むようにしています。先に述べたように、私はデータサイエンス・サービスのデリバリー部門への異動を経験しています。ハードウェア領域からソフトウェア領域に、バックエンドからお客様と接するフロントエンドの仕事に転身したのは大きなチャレンジで、異動した最初の頃はやはり大変なこともありましたが、振り返ってみると苦労から得られたことは多くあります。2回目の大きなチャレンジは、育休から復職したタイミングでマネージャーに就任したことです。ならし保育はなしで、フルタイムで保育園に預けることにしましたが、慣れない環境で子供はしょっちゅう風邪をひいてしまいました。そんな時、チームメンバーに「僕にできることがあれば何でも言ってほしい」と言ってもらったり、隣のチームのマネージャーに色々教えてもらったり、周りのサポートにとても感謝しています。私はバリバリのキャリアウーマンタイプというわけではありません。来たチャンスは掴みチャレンジを続けたことと、周りのサポートのお陰で、今のポジションに就いたと考えています。
 
 
Yamada_san
日本アイ・ビー・エム株式会社 技術理事 山田 敦 
 
 

IBMの技術の強みは信頼性

 
-現在の専門技術や領域はなんでしょうか?
  
山田:AI倫理とデータサイエンスです。日本のAI倫理チームではリーダーを務めています。
河津:データサイエンスを専門にしていて、すべての業種のお客様を担当しています。山田さんと同じAI倫理チームにも所属しています。
 
-どのようなプロジェクトに取り組んでいますか?
 
河津:私はIBMのテクノロジーを用いて、お客様の課題を解決するプロジェクトに参画しています。直近では、IBMのAI構築向けツール群のwatsonx.aiを使用して大学生の方の成長を支援するプラットフォームの開発に携わりました。教育機関が課題や悩みを抱えた学生の兆候を把握することで、学生一人ひとりの状況に応じたカウンセリングなどを通じ、学生生活の質(QOL)の向上と安心感の醸成を支援することができます。ただ 、教育に関連した分野でのAIの利用はAI倫理上のリスクもありますので、ハイリスク・ユースケースとして、山田さんやIBMのグローバルのAI倫理チームのリスク・アセスメントを受け、情報の活用方法を説明した上で情報提供の同意を得た学生のデータのみを使用するようにするなど、学生の意思を尊重するように注意しました。
山田:お客様の経営層と信頼関係を構築し、提案差し上げ、プロジェクトを遂行します。生成AIを活用したいと考えるお客様は多いですが、それを安心して利用するために不安を感じる方も少なからずいらっしゃり、IBM自身のAI活用経験やAI倫理審査の仕組みなどについてご説明する機会が多いです。 
 
- IBMのAI技術やサービスの競合他社との違いについて教えてください。
 
河津:サービスを提供する前にAI倫理のリスク・アセスメントをしている点がユニークだと思います。お客様からもリスク・アセスメントのプロセスは重要と考えるけれど、どのように導入したらいいかわからないというお話をよく伺います。IBMでは、お客様が生成AIを導入する際に、そういったプロセスのレビュー担当者をお客様が自社で育てるご支援も行っています。
山田:「Trust is our license to operate.(信頼なくしてビジネスを遂行することはできない)」というIBM コーポレーションCEOのアービンド・クリシュナの言葉があります。これは、AIビジネスにおけるIBMの信念です。IBMは生成AIモデルを開発する時、学習に使うデータを入念に選別していますが、これもIBMの信念を実践するための取組みです。
 
 
Kawatsu_san
日本アイ・ビー・エム株式会社 テクノロジー・エキスパート・ラボサービス マネージャー 河津 宏美

生成AI時代になって変わること、変わらないこと

-お二人はデータサイエンティストですが、ご自身の専門領域はこの生成AI時代にどのように変化していくと思いますか?またどのようにあるべきだと思いますか?
 
河津:つい数か月前に、どうやったらうまくできるか頭を悩ませていたケースを、先日リリースされた生成AIを使って対応してみたらあっさりとできてしまいました。このスピード感で生成AIが進化し続ければ、今後、AIが組み込まれたサービスはもっともっと増えていくと考えています。分からないことは分からないという素直なAI、ハルシネーション(AIが事実に基づかない情報を生成する現象)の無い世界が実現したり、自動運転など人命に関わるような高い信頼が求められる領域でも使われるようになるものと思います。このような目まぐるしい生成AIの進化の中、私たちデータサイエンティストの仕事はどのように変化すると山田さんは考えますか?
山田:大きな意味では変わらないと思います。データサイエンティストの仕事は、ビジネスの問題を技術の問題に変換し、その問題を技術を駆使して解き、解いた結果をビジネスの成果に変換することです。技術の問題を解く部分は、ある程度生成AIに任せられるようになりますが、この仕事全体は、データサイエンティストが担うべき仕事です。
河津:そのような、ビジネスの課題を見極めるなどのコンサルティングの領域は、生成AIの活用だけでは対応できない ということでしょうか?
山田:そうですね。お客様の真の問題を見極め、それをテクノロジーの問題に置き換えてパーツを組みわせてソリューションの基本設計をするという総合的な課題解決において、人間が果たす役割はまだまだ多いと思います。
 
-お二人はIBMのAI倫理チームの一員でもありますが、生成AIの時代になり、ますますAI倫理の概念が重要になってくると思います。今後、IBMとしてこの分野でどのように活動を強化していく予定でしょうか?
 
河津:IBMは、リスクがあるからといってAIの利用にブレーキをかける方向には進んでいません。AIの信頼性や透明性を担保するために、適切にガードレールを敷くことで、AIの利用を促進していきたいと考えています。そのためにはAIのリスクにはどのようなものがあり、どのような対策がとれるのかを理解する必要があるのです。AI倫理チームでは昨年、「AIリスク教本」という本を出版しました[1]。多くの方に手に取っていただいており、良い評価をいただいています。   さらに多くの人にAI倫理についてお伝えするために、今年はこの本の内容をコンパクトな動画にまとめて公開する予定です。
山田:IBMがAIガバナンスに関して培った経験をお客様にご活用いただき、日本企業のAIが信頼性のあるものへとレベルアップするお手伝いをしたいと考えています。
 

IBMの技術で日本企業をさらに輝かせたい

 
-お二人の技術者としての目標や展望を教えてください。
 
河津:私は技術リーダーとして成長し、より高い視点を持って、社内外にAIの信頼性や生成AIを活用したデータサイエンスの技術をお伝えし、IBMの存在感を高めることが目標です。
山田:数年前になぜ自分は日本IBMで働いているのかという問いを自宅のホワイトボードに書いたのですが、答えを出すのに1年近く悩みました。ようやく見つけた答えは「日本企業を再び世界で輝かせる」です。日本IBMは、数多くの企業のお客様と仕事をさせていただいています。この顧客接点と技術を活用して、より多くのお客様が輝くお手伝いをする。その結果として再び日本を元気にし、次の世代にバトンを渡していけたらと考えています。
 
-技術系のキャリアで成長を目指す方へのアドバイスを一言お願いします。
 
山田:私はいつも自分の役割の2つほど上の視点で仕事に臨むと良いとアドバイスしています。全体があって、その中に自分の役割があります。自分の役割を果たすことはもちろん大切ですが、併せて「全体の成功」を常に意識することが、とても大切だと思います。
河津:私は社内外の様々な職種の人と幅広くコミュニケーションをとると良いと思います。そこから新しい視点を得られ、次にチャレンジしたい事が見つかると思います。
 
Standing
 
 
[参考文献]
[1] 日本IBM AI倫理チーム著 日経BP 2023年12月15日 「AIリスク教本 攻めのディフェンスで危機回避&ビジネス加速」, https://bookplus.nikkei.com/atcl/column/032900009/120100482/ 
 

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