:「ぱっと使ってみることが非常に容易になったことは素晴らしいことですが、正しい価値をAIから十分に生み出すためには、個人としても企業としても、やはり人がよく考える必要があると思っています。」
:「打合せ資料をドラフトさせるといったような、生成AIの出力を社内で自社社員が読む使い方が今は中心だと思いますが、そういう使い方でなくて、メールの生成やチャットボットなどに生成AIを使って、社外のお客様向けのサービスに利用できるレベルまで、生成AIのリスクを低減・制御できるかどうかも、今後の生成AI活用の1つのポイントです。」
「AI価値創造企業」になるということ髙橋:「IBM®の言う、AI価値創造企業になるというのはどういうことですか? 」
立花:「企業として、ありもののAIツールをユーザーとして利用するだけでなく、自社ならではの価値をAIで創造し優位性を獲得するのが、AI価値創造企業です。」
山田:「今、本屋さんに行くと、生成AIを使った新しい仕事術に関するビジネス本がずらりと並んでいます。これらでは主に、社内利用で、しかも個人レベルでの生産性向上について解説しています。個々の社員が生成AIを使いこなして生産性を向上するのは、企業にとって推奨すべきことではありますが、IBMの考えるAI価値創造企業になるための段階で言うと始まりにすぎません。個人レベルでの生成AIはどこの会社の社員にとっても同じように利用できるので、普及が進んでツールが使いやすくなれば徐々に誰でも使いこなせるようになって、企業を別の企業から差別化する競争力の源泉ではなくなることが予想されます。企業に大事なのは個人レベルの生産性向上の次を考えることです。」
髙橋:「個人レベルの生産性向上の次に来るのはなんですか? 」
山田:「AIを使った企業全体の構造改革に取り組むことが大切です。1例として考えているのは、社内の情報バケツリレーの超高速化です。どんな業種であろうと企業活動とは、お客様からの依頼や商品への要望、時には苦情を起点に、社内の各種専門家が情報をバケツリレーしてお客様にお返しする作業を繰り返しているだけだと言えます。バケツを渡す相手を見つけるのに苦労したり、バケツを渡す相手を間違えたために適切な回答をお客様に返せなかったり、リレーを止めてしまう人が途中にいたりと、1つ1つのバケツをきちんとお客様にお返しするために私達は物凄いエネルギーを使っているのです。もしこのバケツリレーを的確に3倍速で回せるようになったらどうでしょうか。お客様からの高い満足や信頼、リピートオーダーによる売上げ増、競争力のある価格設定など企業経営にとって嬉しいこと尽くめです。生成AIを使う事で、日々膨大な数発生するお客様からの依頼、要望、苦情を、バケツリレーをせずに直接一番適切な専門家に届くように分類してくれたり、多数のお客様からの情報を1つに要約して論点を抽出してくれたり、専門家の言葉をお客様がわかる言葉に翻訳する手助けをしてくれたりと可能性は広がります。この例は、個人レベルの生産性向上を部門をまたがって最適化する、つまりAIを使った企業全体の構造改革の取組みと言えます。そのような考え方をIBMではAIファーストと呼んでいます。このように複数の部門にまたがる構造改革を主導するのは、経営者の仕事です。」
髙橋:「これまでもAIで自社の価値を創造し優位性を獲得された企業はあったと思います。今改めての「AI価値創造企業」は何か違いがあるのでしょうか?AI価値創造企業になるための条件があるとするとなんでしょう?自社データでAIを学習すればAI価値創造企業と言えますか? 」
立花:「専門知識を含む自社データでAIを学習するのは多くの企業でまず必要なことと言えると思います。」
山田:「それは一度の学習についての話ですが、それに加えてもう一つ重要なポイントは、企業とAIの付き合いは今年で終わりではなく、これから続いていくということです。企業は来年も再来年もAIを使っていくはずですし、来年のAIは、今年ユーザーとAIの間のやりとりされた情報や生まれた知識も踏まえたAIであるべきです。自社のことを知ったAIを育てあげていけば、AIを学習しない企業や、AIをその都度で使い捨てしていた企業とは大きな開きが生じていくことが容易に予想されます。ただし、AIを育てると言っても、より正確にはAIモデル自体を成長させるというよりは、データを成長させるイメージです。なぜなら、データを引き継ぎ、新しいデータを継ぎ足して、来年はまたその時点で最新のAI技術で、最新の自社AIを学習するのが現実的な手続きになるからです。」
「IBM watsonx」の先にある未来髙橋:「IBM watsonxが発表されました。IBM Watsonとは何が違うのですか?」
立花:「従来のWatsonを基盤モデルと生成AIに拡張して、大幅にバージョンアップしたのが IBM watsonxになったイメージです。お客様が基盤モデルや生成AIを活用するための watsonxですが、Watsonあらためwatsonxの一部製品の機能強化にも基盤モデルや生成AIを利用しています。」
髙橋:「watsonx製品自体の機能拡張にもwatsonxのテクノロジーが活用されるのですね。IBM watsonxはどういう点でAI価値創造企業の役に立つのですか?」
立花:「企業がAIを継続的に育てていくために、分散しがちで異種混在なデータを適切かつ効率的に管理すること。基盤モデルや生成AIを含む最新のAI技術にキャッチアップし、繰り返しAIを実験・開発・運用すること。それらの作業をクイックに実行すること、また効率的に運用し続けること、こういったことは一般の企業にとって容易なことではありません。高度な専門知識を持つ複数のエンジニアがチームで取り組む必要があると言えます。watsonxはそれを容易にするプラットフォームです。」
山田:「また、AIをビジネスに実運用する際に、使い方によってはリスクがあることがあります。watsonxでは、IBMが世界中の様々な業界のお客様とともにビジネスにAIを実運用するなかで蓄積した知見をもとに、データの出自、公平性、説明性、透明性など、AIを安心して使うために考慮すべきことを考慮しやすくするような機能をご提供していきます。」
髙橋:「watsonxのさらに先に企業にはどんな未来が?」
立花:「watsonxはAI構築時の試行錯誤とその実運用を、効率良く行えることを意図して設計されたプラットフォームです。watsonxで運用するAIは従来型のITシステムとも結合し、業務に高度な自動化と高いROIをもたらします。」
山田:「AIファーストの構造変革の結果として、多くの社員は反復的で中間的な業務から解放され、個別の顧客へのきめ細かいサービスや新しく画期的な製品の設計など、今までにないものを生み出す仕事への注力を強めることができます。一方でwatsonx上には知識が蓄積され、自社のこれまでのデータはなんでも知っている自社独自AIが育っていきます。ただし、そうなったとしても、AIには自分が何をしたいのか決めることはできないだろうと思います。何をしたいのか、過去のデータではなく未来志向が、人間にこれまで以上に求められるようになるでしょう。テクノロジーの進化は従来の常識や様々な制限を開放する力を秘めています。私は、信頼できるテクノロジーでお客様とともにより良い未来を創造していきたいと考えています。」