サステナビリティーは ソリューション選択における優先基準に。ビジネス成長とグリーンITの両立に向けたIBM zSystemsとIBM Powerのサステナビリティーへの取り組みついてご紹介します。
はじめに本稿ではIBM®インフラストラクチャーにおけるサステナビリティーへの取り組みについて取り上げます。サステナビリティー実現に向けたIBMの取り組みについて述べた後、その経験を元にどのようにお客様へ価値をお届けすべく製品に取り入れているか、また、取り組みに関する個々の製品例として、IBMインフラストラクチャーからIBM zSystemsおよびIBM Power®の具体例を記述していきます。
サステナビリティー実現に向けたIBMの取り組み世の中がサステナビリティーへ注目するきっかけとして「持続可能な開発のための2030アジェンダ」[
1]や「気候変動に関する国際枠組み(国連気候変動枠組条約、京都議定書、パリ協定)」[
2]といった国際的な取り決め等があり、近年再生可能エネルギーの利用促進や各国の対応を加速させています。こうした背景で企業や組織にとってサステナビリティーは単なる掛け声ではなく、法令などに基づいて実現の必要な優先度の高い目標として位置づけられています。その一方で、2022年に発行されたIBM Institute for Business Value(IBV)のレポートでは86%の企業がサステナビリティーに対する戦略を持っているものの、35%の企業しか有用な活動を取れていないという研究が出ています[
3]。
IBM自身も長年サステナビリティーに積極的に取り組んできた企業です。IBMでは1971年に環境ポリシーを初めて発表[
4]し、以来50年以上にわたり、開発、製造、販売における目標を設定し継続的に取り組んでいます。2021年には、2030年までに温室効果ガス排出量ネット・ゼロの達成を目指すことを発表しました[
5]。加えて2022年環境保護のための社会貢献プログラム「IBMサステナビリティー・アクセラレーター」として、クリーンエネルギーをテーマとしたプロジェクトとして支援しました。例えば宮古島市でのマイクロ・グリッドをはじめとする再生可能エネルギー自給率向上への寄与を目指し共創プロジェクトを行っています[
6]。
ハイブリッドクラウドで実現ビジネス成長とグリーンITの両立多くのお客様はビジネスの継続的な成長と、サステナビリティーを実現するためのグリーンITによるエネルギー/コストの削減、その2つの両立に取り組まれています。ここではIBMインフラストラクチャーがどのようにこの2つを両立することに貢献できるかについてご紹介します。企業価値の向上、さらにはテクノロジーを活用したDXの取り組みと持続可能な社会の実現に対してIBMがお手伝いできる取り組みは下記の2点です。
まず1つ目が、未来を見据えた設計・開発への取り組みです。IBMでは将来に向けて、より高性能、より高いエネルギー効率のコンピューターのチップ開発を継続しています。すでに2nmのチップの開発に成功しており発表[
7]させていただいていますが、現在の最新チップの7nmのものと比較して2nmのチップは45%高性能であるにも関わらず、エネルギー消費量は75%少なくて済むと言われています。半導体の消費電力は面積に比例し、速度は距離に反比例します。線幅が半分になれば同じ規模の回路を構成するのに面積は1/4となり距離が半分になります。つまり線幅が小さくなるということは、より速く低消費電力になるということに繋がります。この実装が実現されると、より高性能かつ低消費電力なサーバーや容量密度の高いFlashドライブ、ストレージの開発が可能になり、よりグリーンITにおける貢献度を高めることができます。
2つ目は、最新テクノロジーを活用することで、ビジネスの成長とグリーンITの実現に貢献するという点です。先ほど述べたコア性能の高いサーバーだけでなく、アプリケーションのレイヤーにおいても、OpenShift®に代表されるようなコンテナ技術の活用により、あらゆるリソースの消費削減を実現するというものです。1つの例として、仮想マシンとコンテナを活用した環境の比較においては、インフラストラクチャーの年間コストを最大75%削減できたという事例もあります。
このように、IBMの最新テクノロジーを搭載した製品と、Openshiftを代表とするコンテナ技術をフル活用することによって、お客様のビジネスの継続的な成長グリーンITの実現による持続可能な社会の実現の両方に貢献することができると考えています。
IBM zSystemsにおけるサステナビリティーの実現ここではIBMインフラストラクチャーのうち、IBM zSystemsにおけるサステナビリティーの実現を取り上げます。
少しIBM zSystemsの歴史を紐解けば、1990年代にそれまでより圧倒的に省電力・低発熱量のCMOSプロセッサーを採用したことに始まり、2018年に従来のシリーズより設置面積を大幅に縮小し標準19インチ・ラックに搭載されたIBM z14 ZR1の出荷といったデータセンターの消費電力削減や設置スペースの削減および空調の最適化に寄与する進化を続けていました。
IBM zSystemsのもつアーキテクチャーとしても、x86のアーキテクチャーよりもコアあたりの高性能、高可用性のデザインを取り入れることでサーバーの集約率を高め、高いCPU使用率を実現することで無駄な電力や無駄な設置面積といった資源を最小化することができます。
最新のIBM z16ではセキュアなAPIを通じて稼働環境の温度、湿度、排気温度、システムレベル及び論理区画レベルの電力消費などを監視することができます。稼働環境情報、電力消費情報はWebサービス向けのソフトウェア設計アーキテクチャーであるRESTベースのWebサービスAPIとしてセキュアに公開することが可能でPythonプログラミングの他、IBM InstanaTMでIBM zSystemsのハードウエア管理コンソールであるHMCモニタリングとしてシステムの稼働環境、電力消費をキー・メトリックスとして観測することができます。
消費電力あたりのシステム能力もモデルの発表毎に向上し、最大構成時において最新z16では前モデルz15と比較して18%、前々モデルz14と比較して54%向上しています。同規模構成のz16とz14を比較した場合、18%の電力消費量低
減、31%の重量削減、50%以上の設置面積削減が可能でデータセンターのサステナビリティー向上に直接的に貢献します(
図1)。
図1 IBM zSystems歴代モデルとの消費電力の比較
このような製品デザイン、製造、パッケージングのエネルギー効率化を認められ、IBM z15が2021年に、Linux®専用モデルであるLinuxONE Emperor 4が2022年にThe Sustainability, Environmental Achievement, and Leadership(SEAL)Awardsを受賞しています[
8]。
IBM LinuxONEを用いたお客様の事例をご紹介します。温室効果ガス排出削減に関するEUの目標に対応するためヨーロッパのお客様でデータセンターの更新を行いました。Oracleデータベースの処理を16のサーバーにまたがる149コアのx86環境から1台の10コアのLinuxONEサーバーに移行されました。サーバーの統合により使用率を上げLinuxONEの持つエネルギー効率を最大限に発揮することで、CO2e(温室効果ガスのCO2換算量)で70%の削減を実現しました。さらには企業の社会的責任としての温室効果ガス排出削減の取り組みも、採算がなければ継続的な活動とはなりません。この事例では統合によりDBソフトウェアのライセンスコストを60%削減し継続的な取り組みを可能としています。
2023年4月に発表されたz16新モデルにおいてはラック・マウント・モデルが追加され、お客様のデータセンター環境の選択に柔軟性を追加することができ、環境に配慮したデータセンターやラックへの導入・設置などを通じてサステナビリティーに対する更なる貢献を可能としています。
IBM Powerにおけるサステナビリティーの実現Powerプロセッサーが搭載されたIBM Power製品では、30年以上の長い歴史の中でパフォーマンスとエネルギー効率を向上し続けています。1990年発表の初代Power1から2023年時点で最新のPower10に至るまで、常にプロセッサー・レベルでのイノベーションを実現しています。2015年に試作に成功した7nmチップはIBM Power10プロセッサーで初めて量産化し、それをサーバーとして製品化したIBM PowerE1080を2021年に発表しました。7nmチップの採用により、前モデルである14nmチップのPower9プロセッサーと比較して1.3倍の処理能力向上と50%の省電力を実現しています。
図2に示すように、同じ仕事量でのエネルギー消費削減率は2世代前のIBM Power8プロセッサーと比べて52%減、前モデルのIBM Power9プロセッサーと比べて33%削減することができます。これはサーバーの規模を相対的
に小さくすることができ、コア数課金のソフトウェア・ライセンスやデータセンター・コストの削減にも繋がります。
図2 IBM Power歴代モデルとの消費電力の比較
また、IBM PowerプロセッサーではEnergyScale[
9]と呼ばれる負荷や環境に応じて動的にクロック周波数を変化させる機能が実装されており、IBM Power10プロセッサーでもこの機能を利用することが可能です。例えばオンライン業務のサーバーにおいて、負荷の少ない夜間の時間帯に自動的にクロック周波数を定格よりも下げることで消費電力をより抑えるというようなことも可能となっています。
Powerユーザーのあるお客様のケースに基づいた試算では、Power10とOpenshiftを組み合わせることで、既存の125台のx86サーバーを1台のPowerサーバーに集約することができるとの結果が得られています。このケースにおいては必要なエネルギーを79%、ソフトウェア・コストに至っては92%削減できると試算しております。これによって3年間のTCOを75%削減できるという試算結果も得られており、よりサステナビリティーに貢献できる画期的なサーバーとしてお客様からもご評価いただいております。
おわりに本稿では、サステナビリティー実現に向けたIBMの取り組みを、IBM zSystemsならびにIBM Powerを用いた具体例で見て参りました。冒頭で記載した通り、サステナビリティーがお客様にとってソリューション選択の優先基準となってきています。今回のこの記事がお客様にとってITを通じてサステナビリティーを実現する一助となることを願います。
当記事の印刷用pdfはこちらからダウンロードいただけます。著者
|
加倉井 宏一 Kakurai Hirokazu 日本アイ・ビー・エム株式会社 テクノロジー事業本部 メインフレーム事業部 クライアント・テクニカル・セールス 部長 |
|
釘井 睦和 Kugii Yoshikazu 日本アイ・ビー・エム株式会社 テクノロジー事業本部 IBM Power テクニカル・セールス 部長 |
日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング株式会社(ISE) に入社しIBM zSystemsの技術支援に従事。大手生命保険会社様の 災害対策プロジェクトやLinux on IBM zSystemsでのマイナンバーシ ステム構築プロジェクトなどに参画。2023年から現職に着任し、IBM zSystemsの持つ高いテクノロジー・バリューをビジネス・バリュー に昇華してお客様へご提案する活動を行っている。 |
IBM Powerのプリセールス・エンジニアとして15年以上にわたり活 動。業種や地域を問わず、AIXから、IBM i、主要なLinuxディストリ ビューションまで数多くのOSに対応。IBM Powerに先進テクノロジー を取り入れる際に先陣を切ってチャレンジし、その知見でお客様で の活用をリードしていく水先案内人としての役割を担っている。 |
参考文献
1 国連広報センター, 持続可能な開発のための2030アジェンダ, https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/
2 外務省, 気候変動に関する国際枠組み, https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page22_003283.html
3 IBM Institute of Business Value, サステナビリティーは変革を引き起こす「カタリスト」である, https://www.ibm.com/thought-leadership/institute-business-value/jp-ja/report/sustainability-transformation
4 IBM, IBMの環境リーダーシップ, https://www.ibm.com/ibm/environment/jp-ja/
5 IBMニュースルーム, IBM、2030年までに温室効果ガス排出量をネット・ゼロとすることを宣言, https://jp.newsroom.ibm.com/2021-02-17-IBM-to-increase-greenhouse-gas-emissions-by-2030-Declared-to-be-net-zero
6 IBMニュースルーム, IBM、環境問題を抱える人々のためのクリーンエネルギーへの転換の加速に協力, https://jp.newsroom.ibm.com/2022-11-11-IBM-Teams-Up-to-Help-Accelerate-Clean-Energy-Transition-for-Vulnerable-Populations
7 IBMニュースルーム, IBM、世界初の2nmのチップ・テクノロジーを発表し、半導体における未知の領域を開拓, https://jp.newsroom.ibm.com/2021-05-07-IBM-unveils-worlds-first-2-nm-chip-technology-pioneering-unknown-territory-in-semiconductors
8 SEAL AWARDS, https://sealawards.com
9 IBM, IBM EnergyScale for Power10 Processor-BasedSystems, https://www.ibm.com/downloads/cas/E7RL9N4E
IBM、IBM ロゴ、IBM Power、IBM Instanaは、米国やその他の国におけるInternational Business Machines Corporationの商標または登録商標です。他の製品名およびサービス名等は、それぞれIBMまたは各社の商標である場合があります。現時点でのIBMの商標リストについては、www.ibm.com/legal/copytrade.shtmlをご覧ください。OpenShiftは、Red Hat Inc.または子会社の米国およびその他の国における商標または登録商標です。Linuxは、Linus Torvaldsの米国およびその他の国における登 録商標です。
ProVision一覧はこちらから
#Highlights
#Highlights-home
#ProVision-mainframe
#ProVision