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企業にとってのメタバースとは (vol98-0005-cloud)

By IBM ProVision posted Mon August 15, 2022 07:17 AM

  
デジタル変革の次の一手としても期待される メタバース、その価値はどこにあるのか。
メタバース活用に向け企業はどう備えるのか。
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倉島 菜つ美
Kurashima Natsumi
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部、インタラクティブ・エクスペリエンス事業部CTO
IBM Distinguished Engineer

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韓 愛利
Han Aeli
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部、インタラクティブ・エクスペリエンス事業部
Senior Managing Consultant & Product Designer

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北島 夏実
Kitajima Natsumi
日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング株式会社
Innovation Lab.
Senior IT Specialist

入社以来一貫してお客様プロジェクトを担当、金融、流通、航空、自動車業界など様々な業界の大規模プロジェクトでアーキテクトとして活動、現在はIBMコンサルティング事業本部iX事業部CTOとして技術者チームを統括。

B2CサービスのIT企業やスタートアップにて、企画~デザイン~開発~ビジネス立上げまでをエンドツーエンドでリード。IBM入社以お客様プロジェクト開発担当しながらデジタル戦略をデジタル・ストラテジー・コンサルタントとして支援中。

2009年入社以来、製品サポートを経て2018年よりGarageおよび先進技術活用のプロジェクトに従事。2022年よりInnovation Lab.のマネージャーとしてXRやメタバース領域の推進、事例開発に力を入れている。


昨今、話題にのぼることが多くなった「メタバース」も現時点では突き詰めればデジタル改革(=DX)の一つの可能性であり方向性であると言えます。企業はメタバースで何ができるのか、どう備えるべきか、DXの延長線上で考えるとわかりやすいでしょう。とはいえ、企業がメタバースの利点を活かすためには、これまでのDX視点に加え、新たな視点が必要となります。本稿では企業がメタバースを有効活用するための視点やこれまでのDXとの違いについて解説します。IBM®では、お客様のDXを加速させるために、業界別の特性を盛り込んであらかじめ作りこんだデジタルサービス・プラットフォーム(DSP) 、つまり業界別のインダストリー・クラウドの提供を開始しています[1]。

企業にとってのメタバースとは


最近、メタバースに関するニュースを目にしない日はないのでは、というほど、日々の話題にのぼるようになったメタバースですが、メタバースとは一体何なのでしょうか。
メタバース(Metaverse)の語源や意味についてはあちこちで語られているのでここでは省略します。2021年にFacebook社が社名を「Meta(メタ)」に変更すると発表、メタバース実現に向けて本格的に動き出したことで、現在第二のメタバース・ブームが到来していると言われています。コロナ禍において対面でのコミュニケーションに大きな制約を受けたこと、また、昨今のIT技術、特にVR技術の驚異的な進化により、仮想空間でのコミュニケーションが現実世界を補完するに足るリアリティーを持って実現可能になったことも、ブームを牽引する要因と考えられます。
メタバースの定義は未だ曖昧で、確固とした基準はありません。インターネット上の仮想世界・仮想空間の総称であり、仕事や娯楽など目的を問わずアバターを介して様々な人同士のコミュニケーションを可能とするデジタル上の仮想空間、ということもできます。
メタバースであることの条件を論じる人もいますが、現時点では完全にそれらの条件を満たすことは難しく、あまり意味がないでしょう。
企業にとって重要なことは、メタバースの定義ではなく、メタバースが企業におけるデジタル変革の次の大きな一手となり得る、ということです。メタバースを新たな顧客接点、ユーザー接点と捉えて何ができるか、何をすべきかを考えることが重要です。


企業はメタバースで何ができるのか


企業がメタバースで何ができるのか、何をすべきかについて考えるにあたっては、図1にある3つの柱で整理するとよいでしょう。

図1. 企業におけるメタバース活用の 3つの柱

1. 新しいコミュニケーション

仮想空間上でアバターを介して行われるメタバースならではのコミュニケーションは、リモート会議のような画面越しの対話よりも、はるかに臨場感のある交流が可能となります。企業にとって、このような新しいコミュニケーションの価値とはどのようなものでしょうか。社内コミュニケーションやエンドユーザーとの窓口にメタバースを応用することで、新しいコミュニケーションの場を提供することが可能となります。例えば、IBMでは入社式をメタバース上で実施し新たなコミュニケーションの形を提供しました(図2)。参加した新入社員からは、「IBMらしさが伝わる入社式で、今自分がこの場にいることを誇らしく思いました」「IBMの風通しの良い雰囲気が伝わりました」などの声が寄せられており、エンゲージメントの向上に寄与しています。


図2. IBMのメタバース空間上での入社式

これまで対面が常識だった商談や打ち合わせはコロナ禍によりオンラインへと強制的にシフトしてきました。しかし、対面でのコミュニケーションに比べて情報や意図が伝わりづらいことは否めず、2021年11月以降、オフィス回帰の動きも見えてきています。[2]
メタバースはこうした企業のコミュニケーションの在り方に新たな選択肢を提供する可能性があります。頷いたり首をかしげたりといったことを含めた身振り手振りがアバターに反映されることで、相手に伝わりづらいというオンライン上のコミュニケーションの欠点が緩和されるからです。また、デモやプレゼンテーションをメタバース上で展示することでリアルでの展示会以上の集客が得られ、新たな機会の提供やビジネスチャンスの拡大に繋がります。オンライン上での顧客の接点として、メタバース上に店舗や窓口を設ける企業は今後ますます増えるでしょう。

2. 業務の効率化/高度化

メタバース上には、現実世界にあるものをデジタル・データによって再現することが可能です。この特性を活用したさまざまな業務効率化のユースケースが考えられます。例えば、これまで技術者の実技指導は現場での実施が前提でしたが、メタバースを活用することで、どこにいても指導を受けることができます。また、バーチャル空間であれば指導者一人に対してトレーニングを受ける受講者数を拡大することも容易です。全ての実技指導をメタバース上で実現することは難しくとも、初期の教育訓練が効率化されることで、現場での指導はより高度な訓練に集中でき、全体の効率化、最適化が図れます。
メタバースと作業現場を連携することで、現場作業者を、遠隔地にいる指導者があたかもその場にいるように支援することが可能です。現場作業者はメガネ型のデジタルデバイスであるARグラスのカメラを通じて作業状況をリアルタイムでメタバース上へ連携、指導者はメタバース上で現場の状況を確認しながら具体的な指示を出します。このように、作業者と指導者、双方の負荷を軽減しながら現場作業の効率化を実現できます。
さらに、現実世界の物理オブジェクトを仮想モデルとしてデジタルに再現する技術である「デジタルツイン」により、メタバース上で仮想モデルを使用してシミュレーションしたり、パフォーマンス上の問題を調査したり、考えられる改善を実施したりすることが可能です[3]。デジタルツインはメタバースと非常に親和性の高い技術であり、メタバース+デジタルツインにより、今後ますます業務の効率化、高度化は加速するでしょう。

3. 新しい体験

まるで現実のようでありつつ、現実ではあり得ないような体験ができることはメタバースの大きな特徴の一つです。メタバース・ゲームやメタバース・スポーツなどでは、これらのサービスを最適に楽しむための空間をデザインして提供することや、メタバース・サービスのための空間のレンタル事業といった新たなビジネス・モデルも生まれています。メタバース上のモールには既にさまざまな企業が出店し、一つの市場となっています。メタバースにおける新たな体験の試みの一つとして、順天堂大学とIBMの共同研究では、リアルの世界でしか存在しなかった病院をバーチャル空間上で実現し、患者体験の向上や医療サービスの向上を図る取り組みも始まっています[4]。

図3.「順天堂バーチャルホスピタル」のイメージ

このようにさまざまな業界でメタバースと現実世界は、よりシームレスに行き来ができる統合された世界となっていくことでしょう。例えば、豊洲スマートシティ構想の実証実験では、ARグラスを通じてメタバース空間上の人物が現実世界に映し出す試みがされています[5]。デバイスも進化を続けており、より軽量なデバイスとしてスマート・コンタクトレンズの研究、検証も進められています[6]。今後は、軽量なデバイスを用いてより自然な形でメタバースとリアルを行き来できるようになると考えられます。
そうした中、メタバースのあり方も進化していくでしょう。今後、さまざまなクローズド・メタバースは統合され、やがてはオープン・メタバースへと向かうと考えられます。日常生活の延長線上で、メタバースでのコミュニケーション、ショッピングや、様々な手続き、職業訓練や通常の業務などあらゆることを行うのが当たり前の世界がいずれやってくると期待できます。


メタバースとこれまでのデジタル改革とでは何が違うのか


メタバースの活用が、企業のデジタル改革の次のステップであるなら、メタバース活用プロジェクトもこれまでのデジタル改革プロジェクトの延長線上で考えればよいかというと、残念ながらそう簡単ではありません。企業がメタバースの利点を活かすためには、これまでのデジタル改革の視点に加え、新たな視点を加えることが必要となります。

1. 平面から立体へ、現実から仮想へ進化するUX

これまでのUXデザインにおいては、Webやアプリを利用するユーザーの利便性を最適化することが、主な仕事でした。しかしメタバースでは画面上に広がる平面の空間から高さを持った三次元の空間となります。
既存のUXとメタバースの大きな差を生み出すのは、三次元空間に対する没入感であり臨場感です。したがって、UXを検討する際には、何より空間に関する認知を考慮に入れることが重要です。メタバースという現実と全く異なるデジタル上の仮想空間を、現実世界との大きな差を感じさせずに認知してもらうことで、ユーザーは初めてその空間を利用できるということを、必ず念頭に入れておく必要があります。メタバース内で空間を利用するユーザーの振る舞いや感情など、その「動線」を詳細にデザインします。空間の用途や目的を定義し、全体的な空間コンセプトやデザイン・コンセプトを考え、コンテンツや機能定義をする際に空間にあわせたアバターの動線を検討します。 [7]

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図4. 空間デザインのイメージ

メタバースにおけるもう一つのUX上非常に重要な要素は、アバターです。仮想空間のプレイヤーであるアバターは現実の自分を代替する存在であるため、自己投影性を高める要素を取り入れる必要があります。既存のゲーム上のアバターは、ユーザーが操作するままに動く存在ですが、メタバースのアバターは単にユーザーの操作で動くだけでなく、リギング(人間の身体の同じく顔面の筋肉を含めて身体すべての部位を細かく動かすことができる技術)などより、人間らしさを投影することが求められます。一方で、必ずしも現実どおりであることが快適とは限らないため、自己投影性を重視しながらも、目的に合わせて不要な現実を持ち込まない考慮も必要となります。

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図5 顔面の筋肉など全体のリギング設定

2. 先進技術の活用

メタバースにおいて最も重要な技術の一つはリアルタイム三次元視覚化の技術です。ユーザーがアバターを介して三次元の仮想空間でものに触れたり持ち上げたりといった行動を可能にするには、ユーザーの実際の動きをセンシングし、即座に仮想空間に反映させていくビジュアル・データ処理が必要不可欠です。ユーザーの動作を仮想空間へ反映する際、体感に対して仮想空間から得る視覚的な情報が遅延するといわゆる「VR酔い」の原因ともなるため、リアルタイム性が非常に重要となります。
臨場感あふれるメタバースの実現にあたっては、音声データも重要な要素です。立体音響技術により、よりリアリティーを持った仮想空間の実現が可能です。
大量のデータを扱うことが必須なため、処理能力やネットワークなどの制約を踏まえ、ユースケースに合わせた取捨選択も必要となります。例えば、多くの人が同時接続した時に、どこまでリアリティーを追求するのか、といったことです。
このほか、デジタルツインによるシミュレーション、NFTと呼ばれる非代替性トークンによるデジタル資産管理など、新たな技術によりメタバースの可能性が大きく広がっています。こうした最新技術を理解した上で、どのように活用するのかを考える必要があります。

3. 新たなロールの必要性

メタバース内で使用可能な様々なオブジェクトを製作する新しい職業群が必要であること誰も否定しないでしょう。メタバース・クリエイターと総称できるこの職業群は、一種の3Dモデラーと見ることができ、昨今のメタバース・ブームの到来とともに注目されています。メタバース・クリエイターが制作する3Dアイテムは様々で、アバターの見た目(髪型、衣服、小物など)や建築物、床のタイルや街灯、標識などの背景物、さらには該当ゲーム・エンジンを利用して作られたゲーム上のオブジェクトなどを含みます。企業がメタバースを活用しようするとき、メタバース・クリエイターを社内で育成するのか、外部から調達するのかは、中長期的なメタバース活用戦略を踏まえた判断が必要でしょう。新たなロールであるメタバース・クリエイターとこれまでのDXを牽引してきたUIUXデザイナー、アーキテクト、ITエンジニアがどのようにコラボレーションするかも重要なポイントです。
メタバースの仮想空間を埋めるだけでは企業のビジネスとしては成立しません。XRコンテンツやメタバース上のサービスの在り方など、メタバースにおけるすべてのコンテンツ、サービス、プラットフォームなどを総括するディレクターやプロデューサーのようなロールも必要となります。
図6. 企業におけるメタバース実現のための新たなロール

このほか、ビッグデータを分析・活用するデータ・サイエンティストの重要性は増すでしょうし、デジタル・コンテンツ管理者の業務は複雑化するでしょう。非対面産業の活性化により、オンラインチューターなど新たなロールも次々生まれてくると考えられます。


メタバースに向け企業は今何をすべきなのか


ここまで企業にとってのメタバースとは何か、メタバース活用のユースケースやこれまでのデジタル改革との違いについてみてきました。それではメタバースの活用に向け、企業はどこから始めればよいのでしょうか。

人材の確保と育成

まず欠かせないことは、メタバース活用にあたっての人材の確保と育成の強化でしょう。デジタル改革を担うIT人材の不足が言われて久しいですが、今も大きく改善しているとは言い難い状況です。デジタル改革、そしてメタバース活用のためのIT人材をどのように確保し、育成するかは社会全体で取り組むべき課題と言えます。加えて、先に述べたとおり、新たなロールも必要となります。中長期的な視野で人材の確保と育成を図ることが重要です。

ITプラットフォームの整備とガバナンス

メタバースの実現にあたっては、様々なデータおよび技術の活用が必須です。企業にとってのメタバースの第一歩を、新たなユーザー接点、すなわち従業員および顧客とのコミュニケーションの場として考えると、現在のビジネスを担う既存システムおよびそこに蓄積されたデータを完全に切り離して考えることはできません。既存システムと先進テクノロジーをどのように融合させるのか、そのプラットフォームの整備は一朝一夕にできるものではなく、段階を追って計画的に進める必要があるでしょう。また、セキュリティーやプライバシーについても、様々な考慮が必要となってきます。
IBMが提唱するボーダレス時代のアーキテクチャー[8]なども参考に、企業のITアーキテクチャーの将来図を描き、実現に向けた計画を具体化する必要があります。

アジャイルな組織形成

今後、仮想現実、拡張現実、ハプティック・デバイスの活用など、メタバースのユースケースはますます広がっていくことは間違いないでしょう。そうした様々なテクノロジーやトレンドの進化、変化に柔軟に対応するためにも、机上だけではなく実践としてトライ&エラーを繰り返し進化し続けるアジャイル型組織の形成が、DXにおいても、メタバースにおいても、何より重要になってくるものと考えます。

メタバースで多くの人々が交流し、活動する社会は、「デジタルとリアルが高度に融合した社会」、つまり、経産省がSDGsを実現するためのビジョンとして掲げたSociety 5.0[9]が実現された社会でもあるといえます。企業がメタバースの実現と活用に積極的な取り組むことは、サステナブルな社会の実現に向けて大きく前進することに繋がるでしょう。
IBMでは、デジタルとリアルが高度に融合した社会の実現に向け、企業向けメタバースのプラットフォーム化も視野に入れ、企業によるメタバース活用の取り組みをご支援しております。


[参考文献]
[1] 二上哲也:DXを加速する オープンなプラットフォーム構築, IBM ProVISION, Vol. 97, No. 0008 (2022),
https://community.ibm.com/community/user/japan/blogs/provision-ibm1/2021/06/01/vol97-0008-cloud
[2] 佐久間誠他:コロナ禍におけるテレワークの動向〜携帯位置データを活用したオフィス出社率の測定〜, デジタル田園都市国家構想実現会議事務局主催第19回データ分析セミナー(2022), https://www.chisou.go.jp/sousei/resas/dataseminar.html
[3] IBM:デジタルツインとは, https://www.ibm.com/jp-ja/topics/what-is-a-digital-twin
[4] 順天堂大学:順天堂大学とIBM、メタバースを用いた医療サービス構築に向けての共同研究を開始, 順天堂NEWS(2022) https://www.juntendo.ac.jp/news/20220413-05.html
[5] アップフロンティア株式会社:豊洲スマートシティ構想の実証実験として、AR/MRグラスを 活用したマルシェ用のARナビゲーションアプリを開発, AtPress (2022), https://www.atpress.ne.jp/news/311906
[6] Scott Stein:Mojo Visionのスマートコンタクトレンズ、装着テストが開始--CEOが自らデモ, CNET Japan (2022),  https://japan.cnet.com/article/35189656/
[7] Li,J.;Mayer,A.;Butz,A.:Towards a Design Space of Haptics in Everyday Virtual Reality across Different Spatial Scales, Multimodal Technol. Interact. (2021), https://doi.org/10.3390/mti5070036
[8] 日本アイ・ビー・エム株式会社:先進 ITで描く 2025 年の世界|テクノロジーが切り拓く近未来の業界変革, IBMソリューションブログ (2022), https://www.ibm.com/blogs/solutions/jp-ja/ic-pov-advanced-it-2025/
[9] 内閣府:Society 5.0, 内閣府サイト, https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/






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