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テクノロジーで挑む サステナブル経営 三菱重工業 カーボン・ニュートラルの実現と産業の成長加速への挑戦「CO2NNEX™」(vol97-0002-interview)

By IBM ProVision posted Wed November 17, 2021 12:11 AM

  
三菱重工業株式会社(以下、三菱重工業)は、CO2の流通を可視化する大規模なバリュー・チェーンの構築に取り組んでいます。コア技術を生かし、社会的に意義のある取り組みを加速する同社の戦略について聞きました。
本記事では、2021年9月に開催された日経電子版オンラインセミナー「ビジネスモデル変革とテクノロジーで実現するサステナブル経営とは」での対談をダイジェスト版でお伝えします。

登壇者:三菱重工業株式会社 CCUSビジネスタスクフォースサブリーダー  堀 秀爾氏   (写真右)
聞き手:日本アイ・ビー・エム株式会社 IBMコンサルティング事業本部 技術理事 インダストリー・プラットフォーム・リーダー 北山 浩透 (写真左)

■CO2削減のバリュー・チェーン構築への挑戦

北山 はじめに堀さんが所属している組織について、ご紹介ください。

堀 三菱重工業では事業戦略として、グローバルで加速する脱炭素社会への取り組みに対して「エナジートランジション」を掲げ、「既存インフラの脱炭素化」「水素エコシステムの実現」「CO2エコシステムの実現」という3つの領域において、革新的なエコシステムを構築しようとしています(図1)。その推進に当たって、当社では部門横断的に実行するタスクフォース制をとっており、私はCCUSビジネスタスクフォースに所属しています。

図1. カーボンニュートラル社会実現に向けた取り組み

CCUSとは、Carbon dioxide Capture, Utilization and Storageの略で、CO2の回収・転換利用・貯留を意味します。私が所属するCCUSビジネスタスクフォースでは、コア技術であるCO2回収テクノロジーの提供から始まり、CCUSのバリュー・チェーン全体におけるビジネス拡大を目指しています。

北山 CCUSビジネスタスクフォースは、新しい事業の創出により三菱重工業の未来をつくる組織だということですね。この取り組みを始めた経緯を教えてください。

堀 2020年時点で、年間400億トンのCO2が大気中に排出されています(図2)。CO2の排出量を低減させようと、効率化、省エネ、原子力の利用、再エネ使用、電動化、燃焼してもCO2を出さない燃料への転換など、世界各国がさまざまな努力をしています。
しかし、これらの削減方法では、世界全体で約40億から100億トンのCO2が残ってしまうと予測されています。

図2. CO2に関する社会動向

そこで削減しきれなかったCO2を回収する必要があるのですが、さまざまな理由で実現が難しいのです。その一つの要因として、CO2について年間数十億トンという膨大な量を動かすための重要な機能がつながっていないという点があげられます。例えば、私たちが使っている電力、ガス、水道、食品、製造に関してはサプライチェーンやバリュー・チェーンがしっかりとつながって、その上でエコシステムが成り立っています。一方、CCUSのバリュー・チェーンはどうでしょうか(図3)。エミッション(排出)、キャプチャー(回収)、輸送、転換利用、商品流通、貯留といった重要な機能がつながっておらず、分断されています。

図3. CO2に関するバリュー・チェーン

これらを部分部分でつなごうという取り組みは世界各国で行われています。ただ全体として、いわば神経や血管、骨格といった機能を包括的につなごうという試みはまだなされていません。これが最も重要な解決すべき課題だと考えています。誰も解決に踏み出せていないのなら、私たちCCUSビジネスタスクフォースが、コア技術を使ってCO2の回収から取り組みを拡大させようということになりました。禅語でいうところの「虎頭に踞って虎尾を収める」という考えで始めました。

この取り組みは規模が大きいことから、社内外で懐疑的な意見を耳にすることもありますが、「CO2NNEX」でCCUSのバリュー・チェーンを構築することには社会的な意義があり、世界のどこかで必ず誰かが取り組むと思っています。それならば、波の先端に乗って、市場を創出しようという取り組みなのです。

■CCUSエコシステムのプラットフォームCO2NNEX とは

北山 CCUSのバリュー・チェーンをつなぐプラットフォームであるCO2NNEXについて詳しく教えてください。

堀 CO2NNEXは、全く新しいCCUSエコシステムのプラットフォームと位置付けています。CO2NNEXのビジョンは、厄介者のCO2に価値を与え、CO2に関わる地球上のあらゆるエコシステムをつなぎ、加速することでカーボン・ニュートラルを最速に実現しようというものです。CO2NNEXは、CCUSバリュー・チェーンをフィジカルかつデジタルにつなぐ役割を担っています。つながっている全てのステークホルダーの間で実体としてのCO2を流通させて、その状態をデータとして把握し、可視化する。さらに取り引きの結果や目的であるCO2の削減状況を、改ざん不可能な形で証跡として提供していく仕組みです。

実際の世界に当てはめて考えてみましょう(図4)。左側がフィジカルの世界、右側がサイバーの世界です。
左側のフィジカルの世界には、CCUSを構築するステークホルダーがいます。例えば、下にはCO2の排出源、その上にはCO2キャプチャーがいて、エコマークで示した転換利用をする事業者がいます。また、貯留サイトの運営者や、排出権・クレジットを取引する事業者もいます。これらをつなぐのが流通インフラで、人の血管、骨格にあたる機能を果たします。流通インフラに関しては、CO2のボリュームが大きくなることを考慮すると、国・地域・量・距離によってパイプライン、陸路、鉄路、船が使われると考えています。ポイントは、ここに共通のインターフェースを持ったスマート・メーターを取り付けることです。これが、CO2の流通を確実に見る、いわば「目」の機能を果たします。

一方、右側のサイバー世界ではスマート・メーターを活用しデジタルの世界に接続します。これによってCO2が今どこにどれだけあって、どちらの方向に流れているのか、全体としてどの程度削減されているのかをデータで把握できます。そして、プラットフォームに参加するプレイヤーは、ブロックチェーン上に格納された真正性の高いデータを活用し、CO2の取引を安全に行えます。取引結果も信頼性の高いデータとして記録することができ、企業の実績や貢献度を証跡として残すことが可能です。このサイバーの世界は、人体で例えると脳と神経にあたる機能を果たすと考えています。右図は左図の「デジタルツイン」と言い換えられます。
補助金や投資、クレジットのような金銭価値が今後CCUSバリュー・チェーン上に付加されていくことを考えると、安全に取り引きできて証跡を残せることはとても大切です。このCO2NNEXで透明性をもってスムーズにつながるCCUSのバリュー・チェーン上に、CO2の新しいビジネス・エコシステム、市場をつくっていきたいと思っています。

図4. CO2NNEXの世界観

北山 CO2NNEXを構想したきっかけをお聞かせください。

堀 このコンセプトを思いついたのは2020年ですが、実現するには人を巻き込んである程度形にしなくてはならないと感じていました。そこで、「IBM Garage™」を活用し、デザイン・シンキングや小さなシステムを実際にアジャイルで開発し、漠然とした考えを形にしていただきました。形にしたことで、これを基にさまざまなアイデアを出したり、共感する人を引き込んだりできるようになりました。その後、北山さんに相談し、日本IBMさんにも参画いただくことになりました。IBM Garageやシステム構築という役割だけではなく、CO2NNEXの切り口でカーボン・ニュートラルの世界をつくるという方針を定め、両社の協業を世の中に問うという形で5月に共同発表しました。

北山 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)にお声がけいただきありがとうございました。こういったことを進める上で、何が未来の課題になっているのか、その課題を突破するにはどうしたらいいか、多くの人が興味を持っていると思います。

堀 CO2NNEXには、まだ細かな技術的、経済的な課題はたくさんあります。新しい市場をつくる試みなので、課題がない方がおかしいですね。大きな目的はカーボン・ニュートラルの達成なので、課題が見つかれば、その都度解決したいと思っています。
CO2の回収量を20年間で100倍以上に拡大させるために、各国はさまざまな制度などを整備しています。しかし、われわれ民間企業としては、現段階では存在しない市場をどうすればつくれるか、厄介者のCO2に価値をどのように与えられるか、CO2を流通させるという行為にどう価値を見いだせるか等を考える必要があります。 

■多くの企業にCO2NNEXに参加してほしい

堀 この課題を解決するには、共感してくれる方を増やすのが重要です。バラバラの方向を向いているベクトルを同じ向きにして、大目的である「カーボン・ニュートラルの実現」を忘れないようにしなければなりません。重要なことは、参加するすべてのプレイヤーがビジネス・メリットを持つことです。この取り組みはオープンにしていこうと思っています。新たな市場を1、2社で独占するのは、始まりとしては良くないと考えているからです。

北山 多くの方が参加しやすくなるように、どこをターゲットにしているのか教えてください。

堀 日本を含むグローバルのCCUS市場をターゲットとして考えています。2050年には、CCUSのCO2ボリュームが年間約40億トンから100億トンと言われており、これが三菱重工業の考えるターゲット・ゾーンです。今最も速い市場は、英国、米国、カナダ、北ヨーロッパとされていますが、制度が決まれば中東、東南アジアといった産油国の国々は、非常に速いスピードで対応するでしょう。一方、CO2貯留サイトの整備が進みにくい日本市場は、非常に独特な動きをするのではないかと期待しています。
CCUSの面白いところは、世界規模でありながら目的と行動が同じであることです。ところが、国や地域によって対応スピードやプロセスが全然違います。早い市場で力をつけたグローバル・プレーヤーは、必ず次の市場でも存在感を発揮するでしょう。スピードが求められる市場においては、小規模でもCO2NNEXの活用を開始し、ビジョンへ共感する企業様を増やしながら、取り組みを進めていきたいと思います。
当然、真似をするプラットフォーマーもいるでしょう。しかし、私たちは参加プレイヤー全員で共に先頭を走り、常に進化し続けていきたいと思っています。

北山 かなり理解が深まってきました。では、現在の立ち位置についてお聞かせください。

堀 今は、CO2NNEX というコンセプトの下、ビジネスモデルの具体化に注力しています。それと並行する形で、PoC(概念実証)などを共に実施するパートナーづくりも進めています。発表以来2桁を超える企業様と話す機会をいただいていますが、各社ともカーボン・ニュートラルに向けた新事業や熱量、先進的な考え、アイデア、取り組みは非常に素晴らしいものばかりです。互いのベクトルを合わせることがポイントだと言えるでしょう。PoCに関しては、実際に取り組む地域やそこでバリュー・チェーンに参画しているプレイヤーを洗い出し、全体の仕組みづくりに必要な、地域独特あるいは共通の課題を抽出しようと思っています。
CO2NNEXにはさまざまな関わり方があります。まずはCO2NNEXのCCUSのバリューチェンにおけるプレイヤーという関わり方です。(図5)

図5. CO2NNEXの全体的なビジネスフローと主要なアクター

もう一つはCO2NNEXを一緒に作り上げるという関わり方です。ユースケースを一緒に考えてPoCを回すワーキンググループ、プラットフォームに必要な共通の要素を作り込んでいくワーキンググループ、CO2に関わるガバナンスやルール、法規対応を考えるワーキンググループの3つです。
新しいビジネスモデルのCO2NNEXへの折り込みや必要な外部データの連携などによって、CO2NNEXの世界観を広げながら、エコシステムを増やしていくといったポジティブなアイデアは大歓迎です。場合によっては機微な話になる可能性もありますが、その時はNDAを締結して、相互に安心な環境で話を進めようと考えています。ユースケースに関してはリソースの制約もありますので、3~4ケースを並行して進めていけたらと思っています。

北山 ぜひ、多くの企業に参加してほしいですね。

■CO2NNEX の共通プラットフォーム

堀 私からも日本IBMさんに質問させてください。北山さんの組織について教えてください。

北山 私はIBMコンサルティング事業本部に所属しており、インダストリー・プラットフォームをお客様と一緒に創出しています。最近注力しているのは、サーキュラー・エコノミーとカーボン・ニュートラルです。社会的な課題解決につながるデジタル・プラットフォームを創出し、そこに多くの企業様、団体様に参加をいただいて、持続性のある活動ができるように推進しております。

堀 まさにCO2NNEXにぴったりの組織ですね。北山さんから、CO2NNEXの共通プラットフォーム、アーキテクチャーについて説明していただけますか。

北山 CO2NNEXはリアルな世界とサイバーの世界をつなぎ、サイバー上でリアルな世界を写像するプラットフォームです。技術的には、スマート・メーター、IoT、ハイブリッドクラウド、ブロックチェーン、AIといったテクノロジーが使われています。今まさに、さまざまな企業様と新しいアイデアを基にした実証実験を、このプラットフォーム上で始める段階にあります。

次に、このプラットフォームのアーキテクチャーについて説明します(図6)。サイバーの世界とリアルの世界をつなぐために、CO2を排出する工場設備や回収装置、CO2を輸出する船舶、鉄道やトラックに加え、中間・最終貯留場、CO2を転換利用する企業様の環境や、消費者がアクセスできるようなインターフェースを検討しています。スマート・メーターやセンサー技術を使うことで、誰がいつどれくらいのCO2を回収したのか、誰がそれを安全に運んだのか、誰が再利用したのかという情報をプラットフォーム上に集め、ブロックチェーン上で安全に管理します。
現段階では、いろいろな企業様とさまざまな実証実験を実施できるように、ハイブリッドクラウドのオープン技術を使って素早く環境を用意し、その上で実証実験ができるようにしていますが、最終的にはこの環境を本番環境として提供したいと考えています。さまざまなアプリケーションが発表されていますが、CO2の可視化から始めて、将来的にはカーボン・プライシングへと広げたいと考えています。

図6. CO2NNEXアーキテクチャー概要

■CO2NNEX の今後の展望

北山 最後に、CO2NNEX の今後の方向性についてお聞かせください。

堀 カーボン・ニュートラルが注目されているうちに具体的なユースケースの検討を通じて、CO2NNEXの可能性を広げつつビジネスを具体化していきたいと思っています。1~2年後には実ビジネスとして開始するのが目標です。

日本IBMさんには、デジタル・プラットフォーム、ブロックチェーンなどのテクノロジーはもちろんですが、世界規模の認知度、いろいろなお客様とのチャンネルをフルに活用していただき、CO2NNEXのネットワークを広げるという重要な役割を期待しています。CO2NNEXを皮切りに、カーボン・ニュートラルに向けて世界をブーストしていきたいと思っています。

北山 三菱重工業さんと一緒にCO2NNEXを通じて、カーボン・ニュートラルに向けて、日本だけでなくグローバルで盛り上がるように進めていきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

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