IBM TechXchange Japan Storage User Community

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FCMに実装されたハードウェア圧縮機能の価値

By MASAKAZU SANO posted Mon June 26, 2023 04:22 PM

  

IBM FlashCore モジュール(以下FCMと略記)はIBMが独自に開発したフラッシュ・ドライブだ。2.5インチ・フォームファクターで提供されるため、市販されている2.5インチタイプのSSDドライブやHDDドライブと見た目の大きさは同じだ。現在、世の中で一般的に販売されているストレージ装置のほとんどはIAサーバーの筐体を用意し、そこに市販のSSDドライブやHDDドライブを部品として装備させ、制御用のマイクロコードやソフトウェアを載せることで製品化している。IBM Storage FlashSystem も市販されているSSDHDDドライブを装備させるオプションがある。しかしNVMe対応モデルであるIBM Storage FlashSystem 520073009500ではIBMが独自で自社開発したFCMをドライブとして利用できる。

FCMにはFPGAと呼ばれる専用プロセッサーが装填されており、市販されている単純なSSDと比べ数多くの機能が提供されている。FPGAによる処理はハードウェア回路として実装されているため高速だ。通常のストレージ装置では各種機能を提供するためにソフトウェア(マイクロコード)を利用する。コードを処理するためには制御装置のCPUを利用する必要があり、これがI/O処理全体に対するオーバーヘッドに影響を与える。FCMで実行する各種処理はソフトウェアではなくハードウェアの形で実行するため、オーバーヘッドが存在しない。故に例えばデータの圧縮処理や暗号化処理をFCMで行ったとしても、データは回路上を流れる途中で回路による処理が行われるので処理遅延は生じない。このデータ転送途中に一連の処理の一環として仕事を行う仕組みをインライン処理と呼ぶ。

FCMには多くの機能が実装されている。例えばデータ圧縮、暗号化、フラッシュ・チップのヘルス・モニタリング、チップへの可変電圧制御、使用頻度に応じたチップ間の自動再配置、Write Amplificationへの対策などだ。今日はその中でも特にデータ圧縮機能に焦点を当て、ドライブ内部でハードウェア的に圧縮を行うFCMを採用することで、ユーザーがどのようなメリットを得られるのかを私見ながら3つの観点でまとめてみたい。

■ストレージ容量に余裕が生まれる

データ圧縮による効果で最初に挙げるべきものは保管スペース(容量)の削減効果だ。例えばデータの圧縮率が二倍であった場合、必要となる容量スペースは半分で済む。これは初期導入段階だけでの効果ではなく、今後、時間経過に応じてデータが一定の割合で増えた場合でも有効だ。FCMを利用することで将来に渡ってデータの増加量を抑えることが可能となるため、圧縮効果が期待できるのであればその効果は絶大だ。特に世間一般で多く利用されている商用計算では、数字や文字などのデータが多用される。これらデータは圧縮効果が極めて高いため、データ容量を大きく減らすことが期待できる。

勿論、データ圧縮は常に大きな効果が得られるとは限らない。データの中には圧縮効果を得られにくいものもある。分かり易い例としては、既に一度何らかの手法で圧縮操作が行われてしまったデータや、暗号化が既に行われたデータなどが挙げられる。もっと具体的に言うと写真のファイルや動画ファイルなどはデータの記録方式によって保管時に圧縮が行われたりするので、相対的に圧縮効果を期待するのは難しい。しかし絶対に圧縮効果が得られないと決まっている訳でも無い。例え数%でも圧縮できた場合、その分だけ確実に容量は減らすことができる。もしかしたら数%の圧縮効果では全然意味が無いよ、とお考えの方もおられるかもしれない。しかし近年は各ユーザーが保持するデータ量がどんどん多くなっているため、データ削減効果が小さくても意外とバカにはできない。例えば100TBのユーザーであれば、たった1%しかデータ削減効果が無かったとしても1TBの空きスペースを確保できることになる。もしこれが5%の効果だったならば5TBだ。保有データ容量がさらに大きなものになれば、さらに大きな効果が期待できる。既に余裕をみてストレージ容量を準備していたユーザーにとっても、ストレージ・スペース容量に余裕が生まれることは喜ばしいはずだ。ストレージ装置の使用率は絶対に100%にしてはいけないという鉄則がある。空き容量がゼロになった瞬間、それ以上データが記録できないという理由で確実にシステムを止めてしまうからだ。ストレージ装置の空き容量を確保するために効果的なデータ圧縮機能は、ユーザーにとって価値あるものであると言えよう。

I/Oパフォーマンスが向上する

一般論であるが相対的に大きなデータ読むには時間がかかり、相対的に小さなデータを読むにはそれほど時間はかからない。ここでは読むという行為に焦点を当てって表現したが、書き込みについても同様だ。データが圧縮によってサイズを小さくさせることができると、読み書きに必要な転送時間を短くすることができる。他のオーバーヘッドが同じで、且つどこかにボトルネックが無い限り、データの大きさが半分になれば転送に費やす時間は半分になると考えて良いだろう。データサイズが10%小さくなれば、その分、転送に費やす時間は10%削減できる。

ここで1つ注意しておくべき点がある。データ圧縮という機能自体はかなり前からストレージ装置のマイクロコードやサーバーで稼働するソフトウェアで利用することができている。なにも FCM が世界最初に実装した機能ではない。FCMでの実装で着目すべき点はソフトウェアを使わず、ハードウェアの機能で、それもインライン処理でデータ圧縮機能を実装している点だ。データ圧縮によってせっかくデータサイズが小さくなったとしても、ソフトウェアで圧縮処理を実装すると、CPUにおける圧縮処理のオーバーヘッドが大きいために、残念ながらI/Oパフォーマンスは全体として遅いものになってしまう傾向にある。ストレージ装置の制御用ソフトウェアで実装した場合も同様だ。私の経験から言うと、一般にデータ圧縮機能を実装(利用)するとパフォーマンスが落ちる、というのがシステム系SEの常識であった。

しかしFCMなら各ドライブに分散されたハードウェア回路によってインライン処理にてデータ圧縮が行われるため、CPUによるソフトウェア処理のような遅延が発生しない。つまり圧縮を行うためのオーバーヘッド時間が無くなるのだ。このため、FCMではデータが小さくなった分、パフォーマンスの向上が期待できる。また、パフォーマンスの劣化を気にする必要が無いため、FCMでは条件や設定によるOn/Off制御は行わず、圧縮機能を常時オンにした状態で利用するようになっている。ユーザーは何も気にせず、何も悩まず、単にFCMを利用するだけでデータ圧縮による恩恵を受け、パフォーマンス向上のメリットを享受できる。

■フラッシュ・メモリーの書き込み寿命が延びる

フラッシュ・メモリーはFCMのみならず、市販されたSSDなどでも広く一般に利用されている記録用メモリーだ。フラッシュ・メモリーは何度読んでもチップが劣化することはないのだが、書き込みや更新などが起こると残念ながら寿命が縮む。フラッシュ・メモリーの種類によって寿命の長さは異なるのだが、ここではどのフラッシュ・メモリーでも書き込み可能な回数制限が確実にあることを覚えておいて欲しい。限界点に達するとフラッシュ・メモリー上のデータは壊れてアクセスできなくなってしまう。

データ圧縮を行うことによって、割合は別として、書き込みデータ容量を少なくすることができる。書き込むデータ量が少なくなれば、確実にその分フラッシュ・メモリーの寿命を長くすることができる。仮に二倍の圧縮率が得られればフラッシュ・チップの寿命も二倍となる。これは期待しすぎだったとしても、仮に1%の圧縮率が得られれば、圧縮を行わなかったと時と比べ、相対的にフラッシュ・チップの寿命を1%長くすることが期待できる。

フラッシュ・メモリーの書き込み寿命はHDDの時代には存在しなかった課題だ。フラッシュ・チップの実装技術が進歩し、集積度が上がる一方で書き込み寿命は短くなる傾向にある。今後世に出てくる集積度のより高いフラッシュ・チップを活用する意味でもFCMでのハードウェア・インライン・データ圧縮はユーザーへ大きな安心を提供するものであろう。

まとめ:

FCMにはいろいろな機能が実装されているのだが、ここではハードウェア・インライン処理によるデータ圧縮機能に絞り、ユーザーが得られる価値やメリットについて解説を行った。他の機能についても他社製品にはないユニークな機能が実装されているのだが、またの機会があれば解説を行いたいと思う。

20236

日本アイ・ビー・エム株式会社

テクノロジー事業本部、ストレージ・エバンジェリスト

佐野 正和 (さのまさ)

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Thu July 06, 2023 09:14 AM

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