従来、事業継続を担保するためにデータを保護する手段として、以下のものが実施されていました。
-
バックアップ:
システムの本番稼働に使用しているデータを別の記憶媒体に複製(バックアップ)して有事の際にそこからデータを復旧できるようにする
-
災害対策:
システムの本番稼働に使用しているデータを遠隔地に複製(ミラー、遠隔コピー)し保管することによりメインのシステムのサイトで災害などが発生し稼働が継続出来ない場合に遠隔地に複製したデータを用いてシステムの復旧を実現出来るようにする
-
高可用性の担保:
システムを二重で持ち冗長化構成とすることにより、1つのシステムで障害が発生しサービスが停止した場合にもう一方のシステムに切り替えることにより最短時間でシステムの復旧、稼働を担保する
昨今、システムの障害や人為的ミスによるデータの損失、自然災害などに加えて、サイバー攻撃による被害のためシステムを復旧するようなケースが増えてきているというのは前述したとおりです。
残念ながら前述した従来のデータ保護の手段だけですとサイバー攻撃によるデータ侵害からの復旧が出来ない場合があります。それはなぜでしょうか?
それは上記の3つの手段が単にシステムのある時点でのデータの同期、もしくは非同期の複製であるからです。具体的に言えば、システムが使用しているデータがサイバー攻撃で侵害されたとして、それを気付かずにバックアップや遠隔地へデータの複製を実行したとするとその複製されたデータ自体も侵害されていることになります。それは何らかの方法でデータなどの同期を保持している高可用性のシステムでも同様です。また、サイバー攻撃を実行している犯罪者がシステムにネットワーク経由侵入してデータの暗号化や消去などしているとすると、バックアップや災害対策のために複製しているデータにもネットワーク経由でアクセスし攻撃することでそのデータをも侵害出来る可能性があります。そうなると本番のデータが攻撃された場合、バックアップなどで複製しているデータからの復旧も出来ないという状況に陥ってしまうことになります。このような理由から”サイバー攻撃からデータを回復する”と言う意味でサイバー・レジリエンシーの重要性が高まっているという事になります。
では具体的にサイバー・レジリエンシーを備えたシステムと言うのはどのようなものであるべきでしょうか?ここでは、システムで使用するデータを保管するストレージの観点から説明していきます。
ストレージに求められるサイバー・レジリエンシーを担保する要件は以下のものとなります。
隔離 Isolation
Isolation: 隔離とは保管するデータの物理的もしくは論理的な分離であり、ネットワークからデータに容易にアクセスできないようにすることで、Air Gapはその一例です。 通常、データをバックアップとして保管する場所がより遠くに隔離されていればそれだけ被害に対する防御は強固となりますが、その場合には復旧にかかる時間は長くなることが多くなります。ですので隔離に関してはその方法と復旧に要する時間のバランスを考慮することが重要となります。
不可変性 Immutability
Immutability: 不可変性はシステムで使用しているもしくはバックアップとして保管されているデータが第三者によって意図的に改ざんや破損できないようにすることです。この場合、通常、本番システムで使用しているデータに不可変性を持たせることは出来ないので、主にバックアップしたデータが対象となります。例えば、ストレージ、テープにおけるWORM(Write Once Read Many)機能が一例となります。WORMとはデータを最初の一回だけ書き込むことが出来るがそのデータの変更、削除などは出来ず読み出しのみ可能にする機能になります。それとは別にバックアップデータが一人の管理者によって容易にアクセスできてしまうか?と言うような運用面からのデータの不可変性に関しても検討する必要があります。
データの精度、復旧のスピード Granularity & Performance
Granularity & Performance: ここで言うデータの精度、復旧のスピードとは、事業継続のために最低限必要なデータ量やそれに耐えうるサービス停止時間を細かく定義することにあります。甚大な被害を被ることなしに組織がどれだけのデータを最低限確保する必要があるのか、 システムがどのくらいの時間で復旧出来ればビジネスに影響がでないのか?を事前に検討した上でシステムが使用するデータの複製の手法など判断する必要があります。
上記のような観点でストレージに保管するデータのサイバー・レジリエンシーの手法を検討する段階になった際に、より広い視野を持って押さえておく必要があるのが以下の5つのポイントになります。