新しいITサービス、ITインフラストラクチャの形としてクラウド・コンピューティングが市場に現れてから数年が経ちました。クラウド・コンピューティングの基本構成要素は、仮想化、標準化、自動化と従量課金のビジネスモデルです。しかし、日本市場でよく見られる「仮想統合ホスティング」レベルのクラウドでは、標準化と自動化はなかなか進展しませんでした。こうした現状の環境をそのまま移行しただけの仮想統合では、非標準サーバーを手動運用しているにすぎません。これはITの運用現場の「何も変えたくない、このまま持っていってほしい」というニーズに対応したものですが、何も変えなければIT運用は何も変化せず、期待はずれな結果になってしまいます。一方で、標準化、自動化されたクラウドの存在を前提にシステムを開発し、クラウドの迅速性やグローバルな接続性を生かした”インターネットの巨人”たちが現れました。高速に新機能をリリースするインターネットの巨人たちは、テクノロジーの価値を経営スピードに転換して巨大な市場を作っています。こうしたインターネット・スタートアップ企業のシステム開発手法は、「DevOps」「LEANスタートアップ」として注目を浴びています。ある調査によると、2013年現在「わずか35サイトでインターネットの通信量の半分を占める」という結果がでています。インターネットの巨人たちはクラウドとネットワークの力を使って、コンシューマーとのチャネルを独占しているのです。こうした状況はインターネットの巨人たちが、5年以上の年月をかけて苦労して構築してきたネットワークの戦略です。一般の企業にとって、先行した世界市場に追いつくのは容易なことではありません。今日までのクラウド・コンピューティング環境の進展は、仮想化、標準化、自動化といったクラウド環境を作る要素技術に注目した黎明期である第一世代、パブリック・クラウドへのシステム移行を指向した第二世代、そして現代の”クラウドがなければ作れないシステムを作り出す”第三世代で表わすことができます。第三世代のクラウドは、「ワールドクラスのネットワーク」と「素早い開発と機能リリース」を実現するためのプラットフォームであり、インターネットの巨人たちが長年をかけて苦労して作った競争優位に、一足飛びに追いつくチャンスなのです。今回のPROVISIONでは、このクラウド第三世代が目指している”Breakthrough Agility ― 信じられないほどの速度で新しい取り組みを支援する”クラウド・コンピューティングの進展を描き出します。
2014年2月 PROVISION 80号 コンテンツ・リーダー 山下 克司