今日、ソフトウェアは私たちの日常を取り巻くいたるところに存在しています。Web閲覧や電子メール、銀行オンライン、PC(Personal Computer)・携帯電話はもとより、自動車、自動販売機、電子レンジ、ビデオ・デッキと、生活のありとあらゆる場にソフトウェアがあふれ、もはやソフトウェアなしでの文明生活は想像すらできない状況であるといえます。見方を変えれば、これらのソフトウェアが正しく動作しない際の被害・不便さも社会にかなりの影響を及ぼします。ソフトウェアやシステムの不具合に関するさまざまなニュースが報道されたことも記憶に新しいところでしょう。このような現状において、IT(Information Technology:情報技術)に携わる私たちとしては何をすべきでしょうか。土木・建築の世界に目を転じると、その悠久の歴史とともに、土木工学・建築工学というものがしっかりと「実学」として根付いていることに驚かされます。もちろん土木・建築の世界とITの世界では、つくり上げる対象が異なりますし、技術変革の度合いや、成果の寿命など、さまざまに異なる点もあります。しかしながら、物事を構造的にとらえてそれらを組み上げていくという作業においてはまったく同じ目標を持っています。つまり、ソフトウェアのライフサイクルにおいても「実学」の重要性は変わらないということです。ソフトウェア・エンジニアリングとは、ソフトウェアをつくり、適用し、保守していくための具体的な実践方法を探究していく試みです。ソフトウェア・エンジニアリングの研究・実践こそ、ソフトウェアにかかわるITプロフェッショナルすべてが挑戦すべき事柄であり、向上へのたゆまぬ努力に値する重要な分野であることは言うまでもありません。
2004年10月 PROVISION 43号 コンテンツ・リーダー 榊原 彰