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Hybrid by Design : 新しいIT戦略施策の策定アプローチ「Hybrid by Design」とは

By IBM ProVision posted 19 days ago

  
IBMでは、お客様のIT戦略施策の策定アプローチとして、昨年後半から 「Hybrid by Design」 という概念のアプローチを推進しています。この Hybrid by Design (略してHbD) というものについて今回から3回に分けて記事を連載します。第一回目は、まず Hybrid by Designを紹介し、Hybrid by Design という考え方が登場した背景から概要、そして重要性などについてご説明します。
松本 龍幸
Matsumoto Tatsuyuki
日本アイ・ビー・エム株式会社
コンサルティング事業本部 クラウド・アドバイザリー
プリンシパル・アーキテクト
佐藤 守
Satoh Mamoru
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部 クライアントテクノロジー推進 保険・郵政事業担当
部長、Principal Account Technical Leader
1993年の入社以来、システム/アプリケーションの構造設計や開発手法、ソリューション策定などお客様の基幹系システム構築にてリード・アーキテクトとしてプロジェクトに従事。昨年のHybrid by Designの立上げ時から、HbDの日本展開をおこなうHbD Advocate Japanチームをリード。 15年間以上に亘りITアーキテクトとして、様々な業種のお客様のシステム基盤構築を担当し、2012年より保険業界のお客様に対するリードアーキテクトに従事。現在は主に国内の主要な生命保険および損害保険のお客様に対するITアーキテクト部門の責任者としてテクノロジー面をリード。

Hybrid by Designが登場した背景  

近年、多くの企業がDX戦略の一環として、最新テクノロジーを活用したデジタル化を推進しています。これにより、ビジネスの収益や生産性の向上を図るべく多額のIT投資を行っています。特にテクノロジーの変革を支える新しい取り組みとして、クラウド化や生成AIの活用による効果に大きな期待を持ちIT変革を推進してきました。実際にある統計によると、変革を成功させた企業の81%がクラウドを利用しており、また76%のエグゼクティブが「生成AIが意思決定のスピードを向上させる」と考えています。しかし一方では、過去8年間の典型的なクラウド活用プロブラムでのROIは -5%~10%程度[1] で、また86%の企業は既存のサイロ化されたシステムにより技術負債の影響を受けている[2] 、という統計もあります。
つまり、多くの企業がビジネス成長や効率化を目指してクラウドやAIの活用を進めているのにも関わらず、実際は期待通りの効果を享受できていないという現実があると言えます。
このような状況の要因は各企業やユースケースによって様々考えられますが、共通しているのは「初期のまま」あるいは「意図を持たずに」進められたこと(by Default)が背景にあると推察されます。このような現状を改善または回避するための根本的な考え方として、「目的を持って」あるいは「意図的に」というポリシー(by Design)のもとでIT変革を推進することが不可欠と考え、そのためのアプローチとしてIBMは 「Hybrid by Design」というものを提唱し推進するに至りました。


Hybrid by Design(HbD)とは 

Hybrid by Designは企業がより効率的かつ効果的に業務を遂行できるようになるための包括的なアプローチであり、必要な能力獲得に向けた計画を策定する手法です。Hybrid by Design  で策定するロードマップを遂行することで、統合/自動化/拡張可能なソリューションを通じ、断片的でサイロ化したIT資産の複雑性を解消し、ビジネス成果を加速することが可能になると考えています。つまり、Hybrid by Designとは、「テクノロジーを通じてビジネス価値の最適化を実現するためのIT戦略施策の策定アプローチ」  であると我々は位置づけています。ここで言う 「ビジネス価値」とは、デジタル変革によるビジネス成長、あるいは効率化によるコスト削減、そしてコンプライアンス遵守や、顧客満足度向上などを指し、それを 「最適化」 すなわち 「by Design」 で推進することを目指しています。
具体的には、価値創出を明確な目標としてそれに必要な施策を優先してロードマップ化していくことをサポートするために、能力アセスメントのためのフレームワークや、価値創出にフォーカスするためのフレームワークなどを提供しています。これらの内容については後ほどご紹介いたします。
なお、Hybrid by Designで重視すべきポイントは、次の図1に示すとおり、主に以下の5つを想定しています。

  1. プロダクト中心の考え方を推進していく事でビジネスの優先事項を実現する
  2. ビジネス能力を加速および拡大するために意図を持ったアーキテクチャーを策定する
  3. プラットフォームを跨いで一貫した開発・運用体験を提供する
  4. プロダクトチームがハイブリッドクラウドを活用できるように強化する
  5. すべてのデータを活用し、生成AIの適用を広げていく

補足) 上記の「プロダクト」とは、「顧客へ価値を提供する商品やサービス」を総称したものです。

 

図1  . Hybrid Designのコンセプト


なぜHybrid by Designが重要なのか 

「Hybrid by Design が登場した背景 」で述べた通り、デジタル革新によるROIが伸び悩んでいる大きな要因の一つは、投資対象となっている領域での効果獲得が飽和状態にある事が挙げられます。クラウド活用が始まった当初は、固定資産であるハードウェアの保有をオンデマンドでのレンタルに移行する事による固定費削減と、クラウド・プロバイダー 側に運用を集約移管する事による運用費削減とが主な目的でした。これらには一定の効果が期待できるものの、インフラコスト、要員コストの削減を目標としたものである以上は支出の抑制にとどまり、その成果には限りがあります。
「DXの壁」が話題となった時期には、技術負債の解消により、これまで技術負債の返済に充てられていたITコストをIT投資に向けるという流れがありました。生成AIの活用や企業データの活用など、よりビジネスに直結した革新が進んでいくこれからの戦略施策の策定においては、企業組織の本質的な目標としての、ビジネスをどの様に伸ばしていくのかという戦略に立ち返って投資を検討する事が必須であり、Hybrid by Designにおいても企業のビジネス価値創出のために実現が必要となるIT戦略施策の策定というアプローチが採用されています。
IBMではビジネス価値創出による効果をコスト削減による効果の3.3倍と推定しており(図2)、ITコストからIT投資への切替を進めていくことが、これからのビジネスに必須となると考えています。

 

図2.  Hybrid by Designの効果予測

次に、ビジネス創出のためのIT投資とはどの様なものになるのでしょうか。例えば生成AIの活用においては、ビジネスのための活用、ITのための活用と大きく2つの目的での活用がはじまっています。ビジネスのための活用においてはAIにより、自動化によるコスト削減、ビジネス・スケーラビリティへ の対応、パーソナライズされた個別化サービスの提供、人間では気づかないイノベーションや収益機会の発見、データに基づく迅速な意思決定支援などが期待されています。
では生成AIの活用を実現するためには何が必要でしょう。もちろんただ生成AIを導入すればビジネス価値創出が実現できるわけではありません。活用のためには生成AIの活用戦略やポリシーの策定に始まり、ガバナンスとコンプライアンスのためのプロセス整備やセキュリティー含む管理、またAIガバナンス組織の立上げなどの管理の仕組みが前提となります。これらの管理プロセスに沿って生成AIを稼働させるプラットフォームの構築、生成AIが利用するデータの収集の仕組みといった実装を構築します。他にも、生成AI活用スキルやガバナンスに関する要員教育、そして生成AIでどの様にビジネス価値向上を行うかをビジネスとITが一体となって検討していく体制の構築といった体制面の構築が重要です。このように技術や実装以外にガバナンス、データマネジメント、メンバー育成、体制構築など様々な施策を包括的に検討し、それを遂行する能力が求められます。もし、生成AI活用のためのプラットフォームをただ構築しても、データ収集の仕組みがなければ意思決定のための活用には不十分となります。また、データが収集できても、セキュリティーを考慮したガバナンス管理のもと、利用プロセスが構築されていなければデータの活用は難しいでしょう。  
Hybrid by Designではこれら求められる能力を包括的なフレームワークとして定義し、現状評価や目標設定、また能力向上のための施策策定に使用することで、この様な検討漏れを防止しています。このフレームワークはケイパビリティ・フレームワークと呼ばれ、12のケイパビリティー・ドメインと各5段階の成熟度(試験的利用〜広く定着)で構成されています。(図3)

 

図3.  ケイパビリティ・フレームワーク

求められる能力や向上施策は多々識別されるものですが、企業の予算には限りがあり、これら施策の優先度設定は重要な検討事項となります。ビジネス価値をどの様に向上させるのか、その戦略を明確にし、効果やリスク、実現時期といった観点から効果を判断し、優先度を決定していく事が求められます。Hybrid by Designでは価値創出の目標を明確にするために、もう一つのフレームワークであるバリューツリー・フレームワーク(図4)を導入しています。ビジネス価値の源泉となるバリュー・プール、 プールへの影響要因となるバリュー・ドライバー を構造化し、ドライバーに対する課題やチャレンジを分析することで必要となる施策と、その効果を算定し、施策の洗出しとともに優先度付けを実施するためのフレームワークです。

 

図4.  バリューツリー・フレームワーク

Hybrid by Designではこれら2 つのフレームワークを利用し、ビジネス価値向上とそれに必要な能力の双方の観点から包括的な施策検討をおこない、ビジネス価値向上のためのロードマップを策定します。


おわりに

今回は第一回目として、Hybrid by Designのご紹介を中心にご説明しましたが、やや概念的な説明も多く理解し難い部分もあったかも知れません。今回特にご理解いただきたいのは、「by Design」という考え方によってIT変革を推進することが、お客様のビジネス成長や課題解決にとって如何に重要であるか、という点です。第二回目以降は具体的なソリューションやユースケースなどを中心に説明したいと考えています。
最後に、IBMは図5 に示すとおり、テクノロジー動向を踏まえたお客様のIT施策戦略を 「by Design」でロードマップ化し、その実現としてTo-Beアーキテクチャーなどの技術戦略策定や、各種ガバナンス構築、メンバー育成、体制構築などお客様とともに推進したいと考えております。具体的な施策の実現においては、弊社で策定しています業界ごとのリファレンス・アーキテクチャー[3]活用や、IT構築から組織変革まで様々な領域にわたる弊社のソリューション・オファリングやテクノロジー製品を活用したご支援を提供させていただくことで、お客様のビジネス価値向上に伴奏させていただければ幸いです。

図5. IBMが推奨するお客様のITアジェンダ策定プロセス



参考文献  
[1] McKinsey & Company: In search of cloud value: Can generative AI transform cloud ROI?, McKinsey Digital, 
https://www.mckinsey.com/capabilities/mckinsey-digital/our-insights/in-search-of-cloud-value-can-generative-ai-transform-cloud-roi
[2] Insight: Breaking the Cycle of Technical Debt, 
https://www.insight.com/en_US/content-and-resources/webinars/breaking-the-cycle-of-technical-debt.html  
[3] IBM: ハイブリッドクラウドとAIで実現する「2027年への架け橋」, 
https://www.ibm.com/jp-ja/campaign/consulting-application-modernization  


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