ProVision

 View Only

次世代リーダーインタビュー : デザインとテクノロジーの融合により体験価値を最大化したい〜IBMのデザイン組織のあり方

By IBM ProVision posted 6 days ago

  
IBMでは、1960年台にトーマス・ワトソンJr.が提唱した"Good design is good business"という哲学を今も大切にしています。これは本当に社会やユーザーにとって良いものをつくることが良いビジネスにつながるというIBMの顧客中心のデザインの考え方です。本インタビューでは、日本初のDistinguished Designer(技術理事)である柴田英喜と、シニア・エクスペリエンス・デザイナーである韓愛利が、自身のデザイナーとしてキャリアやIBMのデザイン組織のあり方、UI/UXデザインにとどまらないIBMのトータル・ソリューションについて語ります。また、AIエージェントやAR/VRなどの仮想空間に代表される空間コンピューティングなどテクノロジーの進化に対応したこれからのデザインについても論じます。この記事が、技術者やデザイナーを目指す方の参考になれば幸いです。
aaaa.jpg
柴田 英喜
Eiki Shibata
日本アイ・ビー・エム株式会社
コンサルティング事業本部
Distinguished Designer
aaaa.jpg
韓 愛利
Aeli Han
日本アイ・ビー・エム株式会社
コンサルティング事業本部
シニア・エクスペリエンス・マネージャー
1992年日本IBM株式会社に入社。日本IBM大和研究所を経て現職。ユーザー・エクスペリエンス・デザインの専門家として金融、保険、通信、公共、製造などのお客様の顧客体験や従業員体験のデザイン。IBMデザイン思考を活用した新規事業創出や新規サービスの創出。ユーザーにとって魅力的で使いやすいアプリケーションのデザインなどを担当。 2018年日本IBM株式会社に入社後、多数の企業に対してモバイルアプリを軸としたデジタルプロダクト開発をリード、デザインやデジタル戦略の構想支援を担当。最近は、Spatial Computingや生成AIなど最新技術を活用した新しいエクスペリエンス・デザインのプロジェクトも積極的にリードしている。

   

   

 

変化を楽しむデザイナーとしてのキャリアの築き方

 
-現在の役職と、日々のようにお仕事されているのか教えてください。
 
柴田:役職は、昨年の4月より、Distinguished Designerに任命いただきました。日々多くのプロジェクトや組織にまつわる情報を扱うことから、朝起きると一度頭の中をクリアにして、1日をスタートします。その後は、その日の予定や、メールやSlackなどを確認します。1日のスケジュールはお客様やチーム・メンバー との打ち合わせなどがメインになります。特にお客様との打ち合わせ前には、その準備にも時間を使います。チーム・メンバーとの打ち合わせは、プロジェクトの状況確認、レビュー、サポートをしています。また、技術理事になってからは講演の機会も増えました。グローバルとのウェブ会議が入ったり、打ち合わせが長引いたりもしますが、なるべく業務後は気持ちを切り替えて、美味しいご飯を作ったり、外食したり、会話をしながら楽しんで時間を過ごすようにしています。週の半分くらいはリモートで自宅から仕事をしています。
 
:役職はシニア・エクスペリエンス・デザイナーです。ユーザーとつけない理由は、最近お客様の業務プロセスのデザイン等、幅広い業務も担当しているからです。朝は5時くらいに起きて、ベッドの中で個人のメール、Slack、SNSなど確認します。興味を引く情報はメモして余裕がある時にさらに調べたり、試したりしています。メモは音声入力をして、後で生成AIで文字起こしすると楽ですね。面白い情報を見つけるとワクワクしてきて気持ちよく起きることができます。その後8時くらいから、お茶を飲みながら、その後カレンダーの予定を確認して、それぞれのタスクで誰に連絡して何をお願いするかなど、1日でどのような動きをするか改めてシミュレーションすることを大切にしています。現在複数のプロジェクトを抱えていているので、シミュレーションすることにより、それぞれの詳細や優先順位の洗い出しをします。多数のミーティング、デザイン作業や他のメンバーのデザインをレビューすることがほぼ毎日行っている業務内容です。いったん20時くらいに仕事を切り上げて、夕食を取り、猫と遊びます。その後、大学院のオンライン授業を受講します。授業がない日は気になることについて調べたり、本を読んだりします。私はお客様先か箱崎事業所に出勤することが多いです。
 
-子供の頃や学生時代の頃の専攻、そこから入社して今の役職に就くまでの経緯やキャリア・パスを教えてください。
 
柴田:今に至るお話としては、僕が小学校の時に、ソニーのウォークマンに出会ったことが大きく影響しています。ソニーのウォークマンは、音楽をいつでもどこでも個人で楽しめるようにしたもので、新しいライフスタイルを創造しました。私もこのような新しいライフスタイルを提案できるような製品をデザインできるデザイナーになりたいと強く思いました。その後、大学のデザイン学科でデザインを専攻しました。当時はグラフィックからプロダクト、空間、映像など幅広くデザインを学びました。ちょうど3年生になった頃、研究室に初期のMacが入ってきて、それを見た時にすごく衝撃を受けて、コンピューターもデザインの対象あり、これからのライフスタイルを変える一番のドライバーはコンピューターだと直感しました。その後、タイミングもありインターンをさせてもらったIBMに新卒で入社しました。
 
キャリアについては、前半は研究開発部門で、当時日本が開発拠点になっていたThinkPad(ノート型のコンピューター)の画面のデザインやホームページビルダーというホームページを編集するアプリのデザインなどを主に担当していました。40歳くらいになったキャリアの後半からは、コンサルティング部門に異動し、コンサルタントとして様々な業界のお客様企業の顧客や従業員向けのシステムのUI/UXのデザインを担当するようになりました。2012年に前のCEOであるジニー・ロメッティがCEOに就任した際に、デザインやデザイン文化を企業経営にインストールするというプロジェクトを1億ドルほど投資して推進しました。私はいち早くアメリカに研修に行き、その取り組みを日本で推進するという役割を任命されました。それまでは、お客様にユーザー体験(UX)の重要性やデザインの必要性について理解してもらえないことが多かったのですが、その頃からその重要性が日本でも浸透してきて、関連プロジェクトも増えてきました。そういったデザインのビジネスを日本で切り開いて推進してきた功績が認められて、Distinguished Designerに任命されたと考えております。
 
:子供の頃にはラジオやゲーム機など電子機器を解体と再組立をよくやっていて怒られたことや夏休みの制作課題はすごく楽しんで一緒懸命にした覚えがあります。ものづくりの原理と作る喜びが自分にとって一番楽しいことでした。大学の専攻はマルチメディア学部で、コンピューター で扱える様々なデータをウェブサイト、ゲーム、映画など総合的に表現できる技術を学びました。
 
卒業後には韓国のデザイン・エージェンシーでSamsungやLGなど韓国大手企業向けのデザイナーとして活動しました。5年程経ってから、自分がデザインしたものを動かすことができるエンジニアになりたいと考えるようになりました。当時、韓国には女性エンジニアが少なかったので、海外に出ようと思い、当時政府が推進していたIT系の海外就職支援プログラムを利用して、15年前に来日しました。日本に来てからはドワンゴやGREEなどの日本企業でリードエンジニアやプロダクトマネージャーとして勤務しました。
 
IBMに入社したきっかけは前職の広告会社でのタクシーでの日本初の広告タブレット開発の経験にあります。それまではタクシー業界の収入源は運賃しかなかったのですが、タブレットを導入したことで、広告収入も得られるようになり、DXにも投資するようになりました。また、広告がユーザーに届いていることを確認するために、車体情報とタブレットを連動させる必要があったので、車に小さいPCを積むことにしました。それにより詳細な車体情報が取れるようになり、道路情報や配車状況なども把握できるようになり、ユーザーがアプリで簡単にタクシーを呼べるようになりました。このように、DXを通じて、ビジネスモデルや人々の生活を変える経験をしたことから、社会を支える大企業のビジネスモデルを変える仕事をしたいと考えるようになり、候補に上がってきたのがIBMです。IBMの技術フェローである倉島菜つ美の面接を受けた際に、IBMは日本の大企業がお客様であること、女性技術者の活躍の推進にコミットしていることを知り、そこに感銘を受けて入社を決意しました。2018年にIBMに入社してから多数の企業に対してモバイルアプリを軸とした開発リード、デザインやデジタル戦略の構想支援を担当しています。近年は空間コンピューティングや生成AIなど最新技術を活用した新しいエクスペリエンス・デザインのプロジェクトをリードしています。
 
 
-現在の地位に就くまでの苦労した点(挫折や失敗談など)やそれを乗り越えたマインドセットを教えてください。
  
:韓国で勤めていた時に、様々な海外法人と仕事をする機会があったのですが、その中でも日本人の細部までに気を配る仕事への姿勢や、日本のプロダクト・デザインに惹かれて来日しました。しかし、社会人になってから日本に来たため、日本の言語やカルチャーで微妙な差を読み取ることにはいまだに苦労しています。特にデザインではビジュアル表現とコンテンツ制作のライティングにおいて日本で受け入れられる水準について学習することが結構大変でした。外国人が作ったものだと感じさせないように日本人よりも日本人らしい文章やコンテンツを作成するように努力しています。今でも日々勉強中なので、日本で一番ユーザーが多いサービスは定期的に必ずチェックしてメールマガジンも全て保存するようにしています。世の中もビジネスモデルも常に変化していくので、日々アップデートし続けることが重要です。一方で、日本だけをターゲットにせず、グローバルでも通じるものを作成できるように日々頑張っています。
 
柴田:これまでに大きく2つの挫折というか苦労したことがありますね。最初はIBMに入社した時です。当時開発研究所の中でデザイン組織に配属されたのですが、私はハードウェアのデザインではなく画面のデザイン、今でいうUI/UXのデザイナーとして仕事をスタートしました。が当時開発部門の中では、パーソナル・コンピューター のハードウェアのデザインが中心で、画面のデザインの仕事はほとんどありませんでした。学生としては、入社したら仕事が用意されているものだと考えるのが普通だと思いますが、実際は新入社員でありながら、当時のマネージャーと一緒にいろんな部門を行脚してデザインの必要性を訴えて、アイコンのデザインをするなど、少しずつですが、仕事を増やしていくようなことをしていました。当時アイコンをデザインするにも16色しか色が使えないとか、ディスプレイ自体も256色しか表示できないとか表現の制約も多くあり、デザインするためのツールもまだ未成熟で、思い描いたデザインを作ることも、表現することも難しい時代でした。今思うと、仕事は用意されているものではなく、色々な制約を乗り越えてでも自分で作っていくものだということを新入社員にして学ぶことができた貴重な機会であったと思います。
 
2つ目の試練は、研究開発部門からコンサルティング部門への異動です。当時IBMは、ハードウェア・ビジネスからソフトウェア・ビジネスやサービス・ビジネス へとビジネスの軸足を移してきました。その中で私自身もそれまで培ってきた自社の製品開発から、コンサルタントへキャリア変更し、40歳にしてイチから新しい挑戦をすることになりました。自社製品のデザイナーとコンサルタントとしてのデザイナーは同じデザイナーでもお客様とのコミュニケーションの取り方や立ち振る舞いなど全く違うものなので、初めの4、5年は何度も失敗しながらがむしゃらに頑張りました。10年ほど経った2012年頃になると、先ほど申し上げた通り、前のCEOであるジニー・ロメッティの元でデザイン文化やデザイン経営が社内でも推進され、世の中でもUXの重要性が浸透するようになりました。そこからデザイン関連の案件も増え、今まで頑張ってきたことが報われるようになりました。
 
 
 

IBMの強みはデザインの枠を超えたお客様への徹底したコミットメント

 
 
-ご自身やIBMの技術やサービスの競合他社との差別化要因について教えてください。
 
柴田:より良い体験をお客様のサービスや従業員の業務の中で提供するにあたり、デザインだけではその課題を解決できません。戦略、企画、最新のテクノロジーと組み合わせて初めて成功へと導くことができます。IBMはすべての領域をカバーしています。デザイナーとしてその総合力を理解して、コンサルタントやエンジニアと協業しながらトータル・ソリューションをお客様に提供できる点が強みと考えております。
 
:先ほどの柴田さんの視点に加えて、私が他の様々な企業で勤務した経験を踏まえた上でIBMの強みと感じる部分は、お客様のビジネスに徹底的にコミットする点だと思います。その点においてIBMがギブアップした所を見たことがありません。自分の担当領域以外であってもメンバー全員でお客様の課題にコミットします。また、表面的な課題解決だけでなく、グローバルの動向を見て、日本市場としてどうあるべきかという深い所まで、お客様と学びながら伴走していきます。それは、人材や会社としてのパワーがないと出来ないことなので、そこがIBMの価値であると考えます。
 
柴田:IBMには”Good design is good business”という哲学が昔からあります。これはIBMの2代目CEOのトーマス・J・ワトソン・ジュニアが1960年代に提唱したものです。粗悪な商品を表面だけ取り繕って販売するのではなく、本当に社会やユーザーにとって良いものをつくることが良いビジネスにつながるというIBMの顧客中心のデザインの考え方です。2018年に経済産業省・特許庁が「デザイン経営宣言」という経営の中にデザインを活かしていくことが、日本企業の競争力やイノベーションを加速させるという報告書を出しました。日本でも徐々にデザイン経営の考え方が浸透しつつありますが、IBMは1960年代からここに取り組んでいます。自らが製品のデザインをし、最新のテクノロジーを自分たちで試して学び使いこなして得た知識をもとにお客様にサービスを提供しています。そういった長年の蓄積がある所がIBMの強みだと考えております。
 
:デザイン組織のあり方が確立されていることもIBMの特徴だと思います。IBMのデザイン組織は、経営層と付き合えるデザイナー、事業を展開するデザイナー、ものを作るデザイナーなど様々なデザイナーが活躍できる組織です。またレベルごとに求められている基準もグローバルで統一された明確なものがあります。それによりデザイン組織として常に持続可能であることができるのです。私は今まで他の様々な企業でも勤務してきましたが、このようなデザイン組織をもつ企業はIBM以外見たことがありません。
 
 
 

デザインの力で最新のテクノロジーをより身近な存在に

 
-ご自身の技術で世界やビジネスをどう変えていきたいでしょうか。
 
柴田:現在では様々なサービスはスマートフォンを中心に展開されています。今年はAIエージェント(ユーザーの代わりに様々なタスクを実行するAIシステム)元年と言われており、様々なサービスの入り口がAIエージェントになっていくだろうと言われております。今までは自分でそれぞれのアプリを開いて、フライトの予約やホテルの予約をしておりましたが、今後AIエージェントが進化するとそれらのタスクを自律的にまとめてしてくれるようになるでしょう。今までは人間のユーザーに向けに画面やインターフェイスのデザインをしてきましたが、これからはAIエージェント向けのデザインも必要になってくると考えています。AIエージェントがサービスの中心になると、ユーザーである人間が対話で指示するのか、それとも画面入力で指示するのかで必要なインターフェイスも変わってきます。また、企業側からするとAIエージェントがお客様との最初の接点になるので、そのキャラクターや立ち振る舞いが企業ブランドの重要な要素になってきます。そういったことを考慮して新たな体験をデザインしていく必要があります。
 
:私はAmbient Intelligenceというシームレスに環境や生活に溶け込んだテクノロジーの体験をデザインしていきたいです。具体的にどのようなものかというと、例えばデバイスをなどにアクセスしなくても、台所で勝手に火をつけてタイマーを測り、食べたい料理を作ってくれる。その時に来客があった場合は、わざわざ玄関にいかなくても誰が来たかわかり対応もしてくれるような体験です。AIエージェントはまるで自分専用の秘書がいるような体験ができるようなテクノロジーですが、Ambient Intelligenceはその存在すらも感じさせないような、まるで透明なUIがあるような世界で生活している世界を提供するテクノロジーです。今まではAIに何は仕事をさせようと思うと、文字や写真を入力したりなどの何らのアクションが必要でしたが、Ambient Intelligenceがある世界では、考えただけで指示ができたり、指示をしなくてもこちらの要望を察してくれて必要なタスクをしてくれるようになります。そうなると、人間自身が最新のテクノロジーの使い方を学ばなくてよくなりますので、誰でも使えるようになり、恩恵を受ける人も増えると思います。
 
また、空間コンピューティングというテクロジーを進化させる事により、時間的・物理的な制限を超えたリアルな仮想体験を人々に提供したいです。現時点ではメタバースに代表されるデバイス上の閉じられた空間での仮想空間での体験が中心ですが、デバイスがなくても生活に溶け込むような形で、仮想空間を体験できるようになるテクノロジーが未来の空間コンピューティングです。つまり、先ほど申し上げたAmbient Intelligenceを実現する為の技術的なパーツが空間コンピューティングや柴田さんがお話しされたAIエージェントです。IBMのあらゆるテクノロジーをカバーする総合力で、そのような世界を実現できればと思います。
 
 
-今後、技術者やデザイナーを目指す若い方への応援メッセージをください。
 
柴田:今後テクノロジーはこれまで以上に急激に進化していくと思います。その流れの中で、デザインの概念自体も変化していくでしょう。同時に人間の寿命は延びていくだろうと思いますので、いくつになっても新しい事を学び、変化を恐れるのではなく楽しんで欲しいと思います。
 
:今後はデザインとは、人間とテクノロジーを自然に心地よく繋いでいくものになると思いますので、UI/UXなどの狭い意味でのデザインではなく、そういった広い意味でのデザインを追求していただきたいです。

 
 
 
IBM、IBM ロゴは、米国やその他の国におけるInternational Business Machines Corporationの商標または登録商標です。他の製品名およびサービス名等は、それぞれIBMまたは各社の商標である場合があります。現時点でのIBMの商標リストについては、 https://www.ibm.com/legal/copyright-trademarkをご覧ください。 
 
ProVision一覧はこちらから
0 comments
28 views