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エッジコンピューティングと5G(vol97-0009-societydx)

By IBM ProVision posted Thu June 17, 2021 01:36 AM

  
Takara-san.jpg 高良 真穂 Maho Takara
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部
ハイブリッドクラウド CTO
日本IBMへ入社以来、自動車、航空、金融、大学および研究機関などのプロジェクトに参画。基幹系システムから科学計算システムまで、幅広いシステムを手掛ける。現在、IBMクラウド戦略の一環であるKubernetesをコアとしたIBMクラウド・サービスやソフトウェア製品を担当。『15Stepで習得Dockerから入るKubernetes コンテナ開発からK8s本番運用まで(StepUp!選書) 』の著者

IBM®はRed Hat®のオープンソースソフトウェアを基礎として、ハイブリッドクラウドとAIに重点を置いた戦略を推進しています。この背景には社会を変えると考えられるテクノロジーの進化と普及があります。本稿では、テクノロジーの進化とコンテナ技術やKubernetes(クーバネティス)との関わりに触れ、それを促進するハイブリッドクラウドの要素の一つとして、エッジコンピューティングの新たなサービスを紹介します。

5Gによる社会基盤の進化

これまで携帯電話の進化によって、新技術を利用したアプリケーションやビジネスモデルが誕生してきました。2021年現在、多くの人が利用する第4世代携帯電話である通称スマートフォン(以下4G)は、現代人の生活に欠かせない生活基盤となっており、LINEなどのソーシャルネットワーキングサービス、銀行預金管理や振り込みなどの決済、ニュースだけでなく自然災害からの命を守る行動のための重要な情報源、音楽やゲームなどのエンターテイメント、地図情報や路線案内など、現代人にとってスマートフォンは生活に欠かせないアイテムであることは間違いありません。

5世代携帯電話サービス(以下5G)の商用サービスが開始されて約1年が経過しました。現在は、普及のために対象エリアを広げるための投資が続けられています。これから普及する5Gは、4Gと比べて、100倍の高速化(10Gbps)100倍の接続容量(1万台/平方キロ)1/301/50の超低遅延(1ミリ秒以下)の開発目標が置かれ、基地局設備や端末が開発されました。この高性能な設計目標は、4Gで確立した生活基盤のポジションから一歩進んで、これからの社会基盤になることを目指しています(1)[1,2]

図 1 移動通信ネットワークの高速化・大容量化の進展 (出典:総務省)

これまでと異なり5Gには、携帯電話各社が提供するパブリックな5Gサービスと、企業や自治体などが自営設備として運用するローカル5Gがあります。

まず、パブリックな5Gの用途には、人工知能技術を応用した自動運転、高精細な画像を利用した遠隔医療、低遅延を利用した工場のスマート化、など、これまでの無線LANWi-Fi)や4Gでは成し得なかった用途が期待されています。

一方、ローカル5Gでは、通信事業者ではない企業や自治体が一部のエリアまたは建物・敷地内に、専用5Gネットワークを構築するもので、この運用には無線局の免許が必要ですが、多くの利点があります。

一例として、モノのインターネットであるInternet of Things (IoT)の高度な進化は、センサーや制御機器などを繋ぐ信号用配線やコネクター類などの増加が課題として挙げられています。具体的には、信号線敷設による導入コストの増大、機器老朽化による更新対応など維持費の増大、複雑化による障害対応の難しさが懸念されています。そして、2030年問題に取り組むSDGs[3]の観点からは、信号線には銅を必要とするため、鉱石から銅線を製造する際に、多くの枯渇性エネルギーを消費することが問題です。この問題に対して5G1万台/平方キロの同時接続数は、地域や工場などのケーブルレスを推進するために十分な能力があると考えられています。

このように5Gの普及は、産業発展の要因となり、社会生活の改善と向上が期待されます。そして、オープンソース・ソフトウェアであるコンテナやKubernetesは、5Gネットワーク基盤の構築、および、アプリケーション開発やサービス運用において、深く関わっていることを紹介していきたいと思います。

エッジコンピューティングとIoT

携帯端末から無線基地局までの無線区間の遅延を5Gでは、通信規格に柔軟性を持たせることで4G1/301/50である1ミリ秒以下となるように進化します。この目的は遠隔制御や自動運転などへの応用を見据えたものです。しかし、無線区間以外の部分にも遅延が発生する要素があります。例えば、東京都江東区内のエッジに見立てた端末からクラウドデータセンターのサーバー、地図上の直線距離で約4Kmの応答時間を計測(ping)すると、約8ミリ秒のパケットの往復時間が確認できます。この遅延時間には、パケットが、端末からクラウドの仮想サーバーまでのケーブルを伝わる時間、インターネット・プロバイダーやインターネット・エクスチェンジ(Internet Exchange)などのネットワーク装置を通過する処理時間が含まれます。そのため、これまでのクラウドコンピューティングだけでは5Gの無線区間の超低遅延という利点を生かすことができません。この問題を解決するために提案されているがエッジコンピューティングです。エッジとは「末端」や「端っこ」を意味し、5Gなどのネットワーク末端部分でコンピューティング(処理)することを意味しています。

元来、エッジコンピューティングは5Gのために作られた概念ではありませんが、5Gの無線区間出口付近にサーバーを配置することで、無線区間以外の遅延を劇的に削減することができます。

例えば、スマート工場において、生産ラインの製品の外観を撮影して、人工知能技術を使い画像を解析する、品質検査を想定します(2)。クラウドに画像データを送って判定するよりも、ローカル5Gに接続されたカメラとネットワークエッジに配置されたサーバーで判定することで、高速なレスポンスによる生産性向上が期待できます。また、重要なデータを外部へ送信する必要もありません。当然、クラウドと接続する回線の障害や、回線帯域の不足に悩むこともありません。

利用が拡大してシステムの数が増えるなどの変更が生じた場合にも、ローカル5Gとエッジコンピューティングの組合せは、信号線のケーブリングを見直す必要がありませんから、柔軟で迅速な対応ができます。

図 2 Local 5Gによるケーブルレスとエッジコンピューティングの例


このように、エッジコンピューティングは、今後普及するパブリックやローカルの5Gの特性を生かす上で重要な構成要素となります。そして、コンテナの可搬性や軽量さなどの利点からアプリケーションはコンテナとすることが望まれており、エッジコンピューティングのプラットフォームとしてKubernetesが考えられています。

5G ネットワーク基盤のクラウドネイティブ化

現在、多くの5Gネットワーク基盤は、従来の4Gネットワーク基盤に相乗する形態で提供されています。これらは今後、次世代ネットワーク基盤へ移行することによって、5Gの3つの特性(超広帯域、超同時接続、超低遅延)を本格的に利用できるようになります。

ここで、過去の携帯電話のネットワーク基盤の変遷と5G基盤がどのように進化するかを考察してみます。過去の携帯電話のネットワーク基盤は、専用ハードウェアで構築されてきました。これはPhysical Network Functions(PNF)と呼ばれることもあります。

次の世代では、CPUの高速化と仮想化技術の進化によって、OpenStackVMwareなどの仮想化基盤上でVirtual Network Functions (VNF)として構築されるようになり、柔軟性が大幅に向上しました。しかし、これには従来の専用機器の実装を仮想サーバー上に移行したために、多くの課題を産んだと言われています。

この課題を解決するとともに5Gの様々なニーズに迅速に答えるために、コンテナやKubernetesを基本とするクラウドネイティブ基盤Cloud Native Functions(CNF)へ移行することが、携帯電話サービス事業者やネットワーク機器メーカーによって進められ、劇的なコストダウンに成功する事例も出てきています[4,5,6]

つまり、コンテナやKubernetesはスマートフォンのアプリケーションのサーバーサイドの処理を担うだけでなく、5Gのネットワーク基盤も担っていきます。

自動運転の開発とデジタルツイン

5Gのキラーアプリケーションの一つと考えられている自動運転では、センシング、認知、判断、操作の一連の動作が必要で、これには、深層強化学習などの人工知能技術(以下AI)のさらなる発展が、もっとも重要との見方があります[7]。この発展のためには、実車の走行試験も必要ですが、それだけでは開発の速度を速めることができません。そこで注目されるのが、AIを育成するためのシミュレーションの技術です[8]

雨・雪・嵐などの様々な気象条件、日中だけでなく、街燈照明下の夜間、朝夕の日差しが眩しい時間帯など、刻々と変わる日照条件、冬季はマイナス20度、夏季はプラス40度など、大幅な温度差など、交通状態だけでなく、様々な条件の中で、自動運転車は、周辺の車両や歩行者を認識して、安全に運行されなければなりません。 このような様々な現実で起こりうる条件をコンピューター上に作りだし、機械系を含めた試験を繰り返し実施することで、自動運転のAIは開発されます。最終的にAIが自律運転できるためには1兆マイル以上の走行が必要と言われています[9]

このように現実環境と計算機上で再現して、実機の動作に反映される、つまり、現実とサイバー空間の二つの世界を利用することから、サイバーフィジカルシステムやデジタルツイン(デジタルの双子)と呼ばれています。この分野でも、絶え間なく改善を繰り返す継続的開発と継続的デリバリー(CI/CD)が必要なことから、コンテナとKubernetes/OpenShift®が、大手自動車メーカーの開発現場で活用されています[10]

「ハイブリッドクラウド」と「AI」戦略を反映するエッジコンピューティングのプラットフォーム

2021年5月に開催されたIBM Think 2021の デジタル・イベントで発表されたIBMの新戦略では、「ハイブリッドクラウド」と「AI」が一層協調されました[11]。このハイブリッドクラウドを支えるエッジコンピューティングに有用なIBM Cloud Satellite™[12]( 20213月発表)を紹介します。

IBM Cloud Satellite™ は、NUC(Next Unit of Computing)と呼ばれる小型PCとブロードバンドインターネット接続があれば、手軽に始められるエッジコンピューティングのプラットフォームサービスです(3)。これは、エッジのサーバー群をクラウドの仮想サーバーと同様に一元的に管理できるだけでなく、企業向けKubernetesであるOpenShift®を時間課金で安価に開始できます。スキルが必要とされるOpenShift®の導入と管理もクラウドの利用と同じように、お任せで利用できます。

図 3 IBM Cloud Satellite™によるエッジコンピューティングの例

このIBM Cloud Satellite™は、これからの5Gの普及にとって必要とされるエッジコンピューティング、そして、自動運転の開発のような人工知能技術を応用するサイバーフィジカルシステムを構築するためにも、お客様の強力なツールとしてお役に立つでしょう。

[参考文献]

[1] 森川博之:5G 次世代移動通信規格の可能性, 岩波新書, pp.206-207 (2020).

[2] 令和2年版 情報通信白書:新たな価値を創出する移動通信システム, 10年周期で進む世代交代, https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/pdf/02honpen.pdf

[3] 2030年アジェンダ, 国際連合広報センター, https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/

[4] 楽天が狙う「5G×MEC革命」エッジコンピューティングを全国展開(2019), https://businessnetwork.jp/Detail/tabid/65/artid/7053/Default.aspx

[5] コンテナで進化するNFV 5G網はクラウドネイティブに作る, https://businessnetwork.jp/Detail/tabid/65/artid/7065/Default.aspx

[6] How Deutsche Telekom Technik Built Das Schiff for Sailing the Cloud Native Seas - Vuk Gojnic, https://www.youtube.com/watch?v=s0UKWiNNFTM

[7] クライソン トロンナムチャイ:トコトンやさしい自動運転の本、日刊工業新聞社、pp.28-29

[8] 自動運転車のテスト用のハイブリッド リアルタイム シミュレーター、https://www.unrealengine.com/ja/spotlights/meet-the-hybrid-real-time-simulator-for-testing-autonomous-vehicles

[9] 自動運転技術を仮想空間で開発・テストするシミュレータはなぜ必要か 「NVIDIA DRIVE Constellation」 取り組みとその仕組みhttps://robotstart.info/2020/06/02/nvidia-drive-constellation.html

[10] How Kubernetes is shaping the future of cars, https://thechief.io/c/editorial/how-kubernetes-is-shaping-the-future-of-cars/

[11] IBM、2021年の年次イベント「Think」で、デジタル・トランスフォーメーションを加速する画期的なハイブリッドクラウドとAIの機能を発表, https://www.jiji.com/jc/article?k=000000111.000046783&g=prt

[12] IBM Cloud Satellite, https://www.ibm.com/cloud/satellite

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Red Hat、OpenShiftは、Red Hat Inc.または子会社の米国およびその他の国における商標または登録商標です。


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