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AIを活用したインテリジェント・ワークフロー (vol97-0002-AI)

By IBM ProVISION posted Tue March 23, 2021 02:17 PM

  

AIは人間には容易だが機械には難しかった画像認識や自然言語処理でブレークスルーを起こし、企業においても大きく注目されることになっています。さらにAIの活用範囲は広がりミッションクリティカルな業務のワークフローにおいても人間による意思決定をサポートする形で導入が進んでいます。IBMではこのようにデータとAIにより高度化されたワークフローをインテリジェント・ワークフローとして提唱しています[1]。本論文ではインテリジェント・ワークフローの中で人と協調して働くAIをデータ指向のAIとモデル指向のAIとして整理し、その特性を明らかにするとともに実ビジネスへの適用の考慮点を示します。

ワークフローにおける人の知的活動とAI

企業活動の中で、人は様々な役割を果たしており、ワークフローの中では様々な判断をし、意思決定を行っています。例えば、製品の生産数量を決定する業務を見てみると、そのなかで、現在の在庫状況、将来の販売見込み、生産ロットサイズとコスト、他の製品の生産予定など様々な情報に基づき、最も生産コストが低く、利益が最大となるように数量とその時期を決定しています。しかしながら人間が多数のデータや膨大な組み合わせから最適な選択肢を選ぶことができているのかというと、実態としてはまだまだ「勘と経験と度胸」によるところが多く、精度の面でも速度の面でも改善の余地があるのが現状ではないでしょうか。

デジタル変革が進み、様々なデータの蓄積や業務のデジタル化が進む状況においてAIを用いることでこのような人の意思決定を支援し、精度を高めて高度化・高速化することが可能となってきています。それではAIがどのように人間の意思決定をサポートするのか、まずは人間の知的活動とはどのようなものかを見ていきたいと思います。ここでは人間の知的活動を次の状況認識、将来予測、意思決定、新規創造の4段階に分類して考えてみたいと思います。







領域例 状況認識 将来予測 意思決定 新規創造
生活 空をみて雲の状況を認識する。 雨が降るかどうかを予測する。 傘を持っていくか決める。 新しい傘を開発する。      
医療 患者の症状を認識し診断を下す。 患者の今後の推移を予測する。 治療方針を決定する。 新規治療方法、医薬品を開発する。
ビジネス 製品・顧客の特性を理解する。 製品の販売見込みを作成する。 生産数を決定する。 新規商品を開発する。

これらの4段階の知的活動は、後者ほどよりビジネス上の価値に直結しますが、定常的なワークフローの中での知的活動という観点では意思決定が重要な要素となり、この人間の意思決定をいかにAIが代替し補強するかがワークフローのビジネス価値を高めるポイントとなります。

人間と協調し意思決定をサポートするAI

ワークフローの中で人が意思決定を行う際には、様々なデータに基づき状況を認識し、将来を予測し、そして意思決定を行いますが、これらの各段階でAIが支援を行うことで人の意思決定を高度化することが可能です。


  • 状況認識のAI
    状況認識のAIでは入力データをAIが加工し構造化されたデータに変換することで人の意思決定を支援します。例えば画像から機械の損傷状況を認識して数値化し、機械の交換をするか否かを決めるといった意思決定が考えられます。
    • 適用:画像検索、故障検知、テキストマイニング、顧客分析

  • 将来予測のAI
    将来予測のAIでは過去のデータに基づき近い将来に発生する事象を予測し、意思決定に生かします。例えば販売数量を予測することで、生産数量を決めるといった意思決定が該当します。
    • 適用:需要予測、販売予測、株価予測、離反予測、故障予測

  • 意思決定のAI
    意思決定のAIではワークフローの決定事項そのものをAIが出力することで人間の意思決定を支援します。例えば生産数量を決定するワークフローでは需要予測や現在の在庫状況からコスト最小となる生産数量を推奨することで、人間の意思決定を支援します。
    • 適用:生産計画立案、人員配置計画、配送計画、ダイナミック・プライシング
さらに、同じ意思決定AIでもAIの結果の精度が十分高い場合には人が全く関与せず完全にワークフローを自動化することも可能になり、ワークフローのリードタイムを飛躍的に短縮することが可能となります。

 

インテリジェント・ワークフローを支えるAI技術

状況認識のAI、将来予測のAIでは次のようなデータ分析技術が使用されます。

  • 文字認識、画像認識、自然言語処理、クラスタリング、異常検知、機械学習、時系列予測

これらの技術では多数のデータからその傾向をとらえたり、正解データを与えることで、正解を導くルールを学習することで法則を自動的に探し出すことが可能になります。これらをデータ指向のAIと呼ぶことにします。

一方で、意思決定のAIでは次のような最適化技術が使用されます。

  • 数理最適化(線形計画法、整数計画法、確率計画法)、近傍探索法、離散シミュレーション
意思決定のAIでは、意思決定そのものを出力する必要があり、そのために重要な考慮点があります。ワークフロー上の意思決定にはその決定に必ず良し悪しの評価があり、出力される意思決定が「良い」意思決定である必要があります。機械学習のアプローチでも「良い」意思決定のデータを多数学ぶことで、良い意思決定を出力することもある程度可能ですが、状況が変化したり、新製品、新設備などが導入された場合には必ずしも過去に学んだ出力が「良い」評価になるとは限りません。

最適化技術ではこのような意思決定の評価や満たすべき制約条件を明示的に取り入れてモデル化することで、実用的であり最適な意思決定を導くことが可能となります。これらをモデル指向のAIと呼ぶことにします。

データ指向のAIとモデル指向のAI

機械学習に代表されるAI技術は、あらかじめ多数用意された入力と出力の組を多数学習することで、新たに入力データに対する出力を推測します。特に深層学習では、人間がルールを見いだせないような画像認識などでも人間に匹敵する精度を出すことに成功し革新をもたらしました。しかしながら、入力データと出力データの関係を強力に一般化することが可能ではあるものの、そこには概念を抽象化して理解しているわけではなく、場合によっては人間の常識に反した結果を出力することもあり得ます。

一方で数理最適化に代表されるモデル指向のAI技術では業務のメカニズムをロジックや数式のモデルとして表現することで、意思決定がどのような影響をもたらし、どのように評価されるのか再現することで、評価が最良となる意思決定を出力できます。現実の業務要件に対して必要にして十分なモデルを作成することは必ずしも容易ではなく経験も技術も必要ですが、明示的に制約条件や評価が抽象化されて取り込まれているため、アルゴリズムを用いて効率よく最適な意思決定を探索することが可能となります。さらに、そのモデルで想定された範囲内ではありますが、新しい商品や設備などに関してもマスターの追加・更新などで対応できる範囲が非常に広くなります。

データ指向のAIとモデル指向のAIの価値

データ指向のAIは期待される結果を求めるメカニズムが複雑すぎたり、不明であっても多数のデータから推測して新しいデータに対して結果が得られる点に価値があると言えます。いままではプログラムとして実装不可能であった判断ロジックをワークフローの中に取り込むことが可能となります。

一方モデル指向のAIでは、事前にビジネスのメカニズムを表すモデルを構築するすることで、様々な制約条件やトレードオフの関係を考慮して膨大な候補の中から最適な意思決定を導き出すことができ、その結果、意思決定の質を高めると共にリードタイムを短縮できる点に価値があります。

生産のモデル化、物流のモデル化、またそのコストと利益のモデル化などを行うことで、意思決定がビジネスにどのような影響を及ぼすかをコンピューター上で計算可能にします。その結果、意思決定によって得られるであろうKPIが予測可能となり、KPIが最善となる意思決定を探索することが可能となります。この探索方法も純粋数学的な探索方法もありますが、人間の経験に基づく探索方法の知見を活かしたアルゴリズムも多数存在し人間では探すことができない良い意思決定を探すことが可能です。

モデル指向のAIの事例

モデル指向のAIでどのようにモデルを活用するのか具体的な例を見ていきます。お弁当の仕入れ数を決定する業務を考えます。需要予測に基づき、100個の販売が見込まれているとして、何個仕入れるのが最も利益が最大となるでしょうか。100個売れることが確実であれば100個仕入れれば最適ですが、現実には予測誤差をともないます。ここでは±10個の誤差が見込まれているものとします。また仕入れ価格が400円、販売価格が500円で利益が100円とした場合には、売り切れの機会損失100円よりも廃棄ロス400円の方が大きいため少なめの仕入れが利益を最大化すると想定されますが、数理最適化技術を用いることで最適な仕入れ数は89個であると求まります。このように与えられた需要予測のもと、仕入個数と利益関係のメカニズムから利益を最大化する意思決定を得ることができます。

AIと人間の協調における課題

AIと人が協調して意思決定を行うインテリジェント・ワークフローでは人の最終意思決定を導くためならではの考慮点があります。

  • 状況認識のAI

状況認識のAIが出力した情報を人間が信頼を置き、意思決定に生かすためにはその認識の信頼度や、根拠といった情報が有用です。これにより認識の誤りに気が付いたり、他の要素とのバランスを考慮するなどが可能となります。

  • 将来予測のAI

予測結果を人間が使うためには、その予測値の根拠を知る必要があります。その予測に含まれている要素が何なのか分からないと、例えば需要予測にキャンペーン情報がどの程度予測に反映されているかが分からないと追加の補正が必要かどうか判断できません。場合によっては精度のよい複雑なアルゴリズムよりも、精度は劣ってもシンプルで理解しやすいアルゴリズムの方が有用なことも多くあります。

  • 意思決定のAI

意思決定の推奨値においてもその根拠を示すことは有用であり、感度分析等による意思決定値とKPIの関係を提示することで人による調整を容易にすることができます。またスケジューリングのような複雑な最適化問題では感度分析は適しませんが、複数のKPIの異なる優先順位で得られた複数案を提示することが可能です。例えばコスト削減優先とリードタイム短縮優先の2案を提示して、意思決定者に最終判断を仰ぐ方法が考えられます。

  • 意思決定の自動化

意思決定のAIを用いてワークフローを完全自動化する場合には人間との直接の協調はありませんが、その分イレギュラーに強く、大外しをしないことが求められます。そのためには意思決定の精度が高いだけではなく、環境の変化に対して頑健なモデルである必要があり、意思決定のモデル化において業務の抽象化を行い変化に対する耐性を持たせる必要があります。またシステム的な観点でも、イレギュラーな状況をルールにより抽出し、安全な値を出力するなどの対応を行うことで人間の関与を大きく減らすことが可能となります。

まとめ

以上見てきたように、企業のデジタル変革が進む中、企業のワークフローにAIを適用するインテリジェント・ワークフローによって企業の意思決定の価値を高めることの重要性が増してきています。データ指向のAIを用いてデータの価値を凝縮し意思決定に役立てることに加えて、数理最適化などのモデル指向のAIを活用することで、ワークフローの中の意思決定そのものの質の向上や、完全自動化を実現することで企業価値を高めることが可能となります。

 

[参考文献]
[1] IBM Institute for Business Value, 「コグニティブ・エンタープライズの構築 AIを活用した変革のための設計図」, https://www.ibm.com/downloads/cas/DY5R1MDP

 

日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業本部、コグニティブ・プロセス変革
プリンシパル・データ・サイエンティスト
米沢 隆
Takashi Yonezawa
1999年より配車計画立案製品開発に従事。その後コンサルティング部門に異動し、数理最適化技術を応用した業務効率改善プロジェクトを多数担当
日本オペレーションズ・リサーチ学会フェロー


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