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IBMのCIOオフィスは「最初のユーザー(Client Zero)」としていかに変革を遂げたのか|2025/6/5 開催 イベントレポート

By Miho Kataoka posted 19 hours ago

  

2025年6月5日に「IT Leadership Agenda 2025」が、「ビジネスを牽引するITの最適解~AIを用いたIT運用の自動化とアプリ基盤のモダナイズ~」をテーマに、東京都港区のザ・グランドホールにて開催されました。その中で行われた講演の抄録をお届けします。

   

【講演抄録】20256月5開催 IT Leadership Agenda 2025 IBM講演

IBMのCIOオフィスは「最初のユーザー(クライアント・ゼロ)」としていかに変革を遂げたのか

   

あらゆる企業に共通する目標である「生産性の向上」。IBMも自らのデジタル変革を通じて生産性を高め、その成果として得られたコスト削減分を成長と投資に振り向けてきました。同時に、社員にとってシンプルで働きやすいIT環境の実現にも注力しています。

本IBM講演では、IBM CIOオフィスのCTOであるカイル・ブラウンが、生成AIやハイブリッドクラウド技術をどのように自社へ導入し、業務オペレーションを改善したのかについて具体的に解説しました。

IBM Corporation
IBM CIO Office CTO IBMフェロー兼バイスプレジデント
カイル・ブラウン

   

社内IT変革におけるクライアント・ゼロの実践

IBMのCIOオフィスでは、社内の最新のテクノロジーを「最初のユーザー(クライアント・ゼロ)」として活用し、その有効性を検証した上で課題を解消し、その後正式の製品やサービスとしてユーザーの皆さんに提供する取り組みを実践しています。

ブラウンは、このようなアプローチのメリットについて次のように話します。

   

「プロダクトの最初のユーザーになることで、お客様により良い機能と体験を提供できます。自社にとってもさまざまなメリットがあり、最大30%の生産性向上を実現しました」

   

IBMがクライアント・ゼロとして進めてきた社内IT変革には、次の3つの柱がありました。

1つ目は、アプリケーションの展開や監視を容易にする自動化された運用基盤の構築による「プラットフォームと運用のトランスフォーメーション」。2つ目は、開発アプローチそのものを見直す「開発者体験のトランスフォーメーション」。そして3つ目が、AI対応を見据えた「アーキテクチャーのトランスフォーメーション」です。

ブラウンはこれら3つの変革について、使用した技術や得られた成果を交えて具体的に紹介しました。

   

   

ハイブリッド環境で生産性を向上させて人材の活用を強化する

   

IBMがまず取り組んだのは、ハイブリッドクラウド環境における「共通のプラットフォームの構築」です。アプリケーションがオンプレミスやパブリッククラウドなど多様な環境に分散する中で、信頼性・コスト・機能の最適なバランスを保ちながら、柔軟にアプリケーションを展開(デプロイ)できる仕組みが求められていました。

この新しいハイブリッドクラウド環境は、“Cirrus(シーラス)” というコードネームで社内展開されており、OpenShiftを共通の基盤技術としています。オンプレミス、クラウド、z/OSといったさまざまな環境で、一貫したかたちでワークロードを稼働させるためのプラットフォームです。また、ミドルウェアとして、コンテナ/クラウドに最適化された軽量なランタイムであるWebSphere Libertyを採用いたしました。

「ただし、OpenShiftだけでは十分ではありませんでした」とブラウンは話します。「私たちは、あらゆるプラットフォームで共通の監視が可能となる可観測性(オブザーバビリティー)機能、統一的に適用できるセキュリティー機能、そしてOpenShift上のさまざまなプラットフォームへ展開できる仕組みを導入しました」

これらの整備により、アプリケーションの管理にかかる工数は大幅に削減されました。従来の仮想マシンベースの環境と比較して、運用作業の工数は55%、コストは90%の削減を実現しています。

「この成果により、人材を新たな領域へ再配置することが可能になりました。人材の再活用こそが、私たちの変革の中核です」とブラウンは強調します。

   

出典:IBM講演資料

   

さらに、OpenShiftの環境にIBM Turbonomicを導入したことで、開発者は各ワークロードのリソース消費量を高精度で予測できるようになりました。現在では月間45,000件の最適化を実行し、メモリーの使用量を3.8テラバイト、CPUリクエストを64%削減するという、想定を上回る成果を挙げています。

   

出典:IBM講演資料

   

また、アプリケーションの実行環境を迅速に構築・統合するため、IBM CIOオフィスではAnsible自動化基盤と、watsonx Code Assistant for Red Hat Ansible Lightspeedを活用しています。Ansibleによって、ハイブリッドクラウド全体で1,000台以上のサーバーを効率的に管理し、共通のプレイブックを用いた自動化によって、ミドルウェアの展開・構成時間を98%短縮、パッチ適用の時間を93%削減しました。

さらに、Ansible プレイブックをwatsonxに学習させることで、コードの70%を自動生成し、開発者が記述するのは残り30%のみとなりました。

「AIの活用によって、私たちの生産性は飛躍的に向上しました」とブラウンは述べています。

   

出典:IBM講演資料

   

   

開発者への新しい体験がカルチャーの変革につながった

   

OpenShiftベースの共通プラットフォームを構築するだけでは、開発者体験の変革は不十分です。アプリケーションを有効に開発・実行していくためには、開発者自身の考え方や行動にも変化が求められます。
「開発者体験のトランスフォーメーションにおいて、最初に重視した原則は、開発者の流動性(モビリティー)を高めることでした」とブラウンは語ります。

従来、各チームが個別に開発ツールや構築方法を選択していたため、開発者が異なるチームやプロジェクトに移動する際に摩擦が生じ、アジャイルな開発を阻む要因となっていました。そこでIBMは、どのチームでも共通の開発体験を得られるように、標準化されたツールを整備。これにより、開発者がスムーズに移動でき、アプリケーションへの理解度も高まる環境を整えました。 

「この取り組みは、研究チームやソフトウェアチーム間にあったギャップを埋め、開発者のマインドセットを変えるきっかけとなりました。結果として、DevSecOpsの実践を通じて、新たなカルチャーを築くことができました」とブラウンは振り返ります。

プロセスそのものが標準化され、CI/CDも一元化され、コンプライアンス対応も自動化されました。これにより、開発者が手動でセキュリティーの適合チェックを行う必要がなくなり、対応の確実性が高まったうえで、作業時間の短縮も実現しています。

「これこそが私たちCIOオフィスの開発者プラットフォームの核となるアイデアです。私たちが構築したのは、一貫性ある開発者体験なのです」とブラウンは強調します。

加えて、さまざまなコンポーネントはOpenShiftに限らず、パブリッククラウドやオンプレミスといった環境に依存せずに展開可能です。共通のCI/CDのプラットフォームを用いながら、各社のプラットフォーム上でも稼働し、その実行結果は共通の「開発者データレイク」に集約されます。

ブラウンは、アプリケーションのモダナイゼーションを推進するうえで使用したさまざまなツール群にも言及しました。

「開発者体験の改善は、単なる技術課題ではなく、“人”の課題です。チームとの協力と、それを推進する支持者の存在が欠かせません。一つのツールを導入して成功体験を積み重ねることで、次のステージへの足がかりが生まれます」と語りました。

    

   

アーキテクチャーをトランスフォーメーションして生成AI活用への準備を整える

   

社内IT変革の3つ目の柱は、「アーキテクチャーのトランスフォーメーション」です。ハイブリッドクラウド環境を最大限に活用するためには、アーキテクチャーそのものの見直しが欠かせません。

この変革にあたり、IBMは3つの原則を定めました。第一の原則は、アプリケーション・ポートフォリオのスリム化です。

   

「私たちは5,000以上あったアプリケーションを3,000程度にまで絞り込みました。そのうち約80%はOpenShiftにマイグレーションされ、残る20%は他のプラットフォームで稼働しています。これらもアーキテクチャーの観点から理解を深め、パートナーのプロダクトへ移行できないかを検討しています」(ブラウン)

   

第2の原則は、モダナイゼーションを最小限にとどめることです。アプリケーションの約80%は、すべてをクラウドネイティブ化したわけではなく、必要な部分のみをモダナイズしています。

そして第3の原則はイベント駆動型、API駆動型の統合を優先することです。データそのものではなく、データベースを統合し、その上でAPIを介して機能を連携させていく。そして最終的にはAPI駆動型の統合へと行き着くことを目指しています。

IBMではJavaプラットフォームのアプリケーションに対して、1,500件以上のモダナイゼーションを実施しました。その結果、マイクロサービスへの意向が進み、システム統合の在り方も変化しつつあります。

   

「私たちは今、イベント駆動型アーキテクチャーの実現に注力しています。すべての戦略的なプラットフォームが連動し、イベントをトリガーにしてAPIを呼び出すことで、既存のアプリケーションと柔軟に連携できる構造が整いつつあります。また、この構造のインテグレーションハブとして、webMethodsを位置付けています。 」(ブラウン)

    

こうしたイベント駆動型の仕組みは、生成AIの活用に向けた基盤としても重要な意味を持ちます。

「AIを活用するには、まず共通のデータプラットフォーム上にアプリケーションを構築する必要があります。マイクロサービスへの投資も、将来的なエージェンティックAIの活用に向けた準備として大きな価値があります」とブラウンは指摘します。

さらに、エージェンティックAIへの移行には、データの一貫性の確保やセキュリティー強化といった課題も残されています。ブラウンは、「生成AIに関しては多くの側面で学び続けなければならないことが多数あり、正しい利用方法を模索して続けています」と現在地を語りました。

   

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【関連リンク】

IBM WebSphere Liberty

オブザーバビリティー・ソリューション

IBM Turbonomic

watsonx Code Assistant for Red Hat Ansible Lightspeed

IBM webMethods Hybrid Integration

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