はじめに
近年、コールセンター業界は大きな変革期を迎えています。顧客ニーズの多様化により業務拡大が期待される一方で、オペレーターの離職率の高さや人手不足といった深刻な課題に直面しています。企業は効率的な対応と質の高い顧客体験を提供するために、新しい技術導入を検討しています。本記事では、コールセンター業界が抱える課題と、その解決への活用が期待されている生成AIとRAG技術の検証事例について紹介します。
コールセンター業界が抱える課題
コールセンター市場は近年、拡大傾向にあります。矢野経済研究所のレポートによると、2022年度の国内コンタクトセンターソリューション市場規模は4,859億円と前年度比で3.5%増加しており、今後も同規模の成長が見込まれています。一方で、コールセンター業務はオペレーターの負担が大きいため、離職率が高く人材不足が慢性化しています。
市場ニーズが高まるなか、この人材不足がさらに深刻化しており、業務効率化が急務です。AI技術を活用した効率化の導入が注目され、各企業が技術導入に取り組んでいますが、進展の速いAI技術に対して追従しきれないケースも多く見られます。これらの課題にどう立ち向かうかが、今後の成長における大きな鍵となるでしょう。
AI技術の活用がもたらす期待
コールセンター業務におけるAI技術の適用は、これまでに業務の効率化を大きく前進させてきました。特に、チャットボットや音声認識、ナレッジベース検索などの技術により、単純な問い合わせ対応の自動化や顧客対応の迅速化を実現してきました。これにより、オペレーターの負担が軽減され、業務のスピードと正確性が向上するという効果が得られています。しかし、これらの技術は、基本的には固定的な対応や、限られた情報に基づいた応答に留まり、複雑な質問や顧客個別の対応には限界がありました。
生成AI(Generative AI)の登場により、コールセンターでの問い合わせ対応はさらなる進化が期待されています。生成AIは、学習済みの知識と与えられた情報を基にして、問い合わせに対する新たな回答を生成する技術です。従来の固定的な応答とは異なり、生成AIは柔軟に対応できるため、これまで手動で対応していた複雑な問い合わせにも自動的に対応することが期待されています。
さらに、RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、FAQやナレッジベースから関連情報を検索し、それを基に生成AIが回答を自動生成する技術です。RAGを活用することで、オペレーターが情報を探す作業と回答を考える必要がなくなり、迅速かつ正確な対応が可能になります。これらの技術によって、今後の問い合わせ対応の効率化が大きく進展することが見込まれています。
生成AIとRAG技術のPoV
PoV(Proof of Value:価値実証)プロジェクトにおいては、コールセンターソリューションを提供するお客様と連携し、RAG技術の実用性を検証しました。このソリューションは多くのユーザーに利用されているものの、最新の技術動向に追従し切れていないという課題を抱えていました。このため、生成AI技術の導入が検討され、現行システムを一層革新的なものにしようとしていました。
RAG技術の採用は、検索機能と回答生成能力の向上を通じて、ソリューションに新たな価値を与える可能性があります。具体的には、保有する豊富なFAQをデータとして活用し、ユーザーへの応答精度を高め、カスタマーサポート全体の改善へとつなげる狙いがありました。この技術がどれほどの効果をもたらすのかを実証するため、RAGを通じて生成AIが出力する結果の評価を実施しました。
実証結果と今後の展望
実証環境の構築においては、watsonx.aiによるLLMを中核とし、watsonx AssistantとWatson Discoveryを組み合わせることで、希望する検証環境を短期間で準備することができました。これにより、生成AIによる回答の質やリアルタイム性についての検証に、十分な時間を割くことができました。
検証では、ハルシネーションの防止や質問に対する回答妥当性の評価において、結果は非常に良好なものでした。これにより、RAG技術がもたらす利点は、お客様のソリューションを市場で際立たせ、コールセンターソリューションの市場ニーズに合致する形で差別化を図る可能性を確認することができました。この結果、今後さらなるAI技術の投入による機能向上や業務効率化を目指していく見通しが立ちました。
RAG技術の導入による効果は、効率化だけでなく、顧客体験をより一層充実させ、結果的にお客様の企業としての市場における競争優位性を一段と高めるものと考えられます。この技術革新は、未来志向のビジネスモデル構築においても、重要なファクターとなることが期待できます。
まとめ
コールセンター業界は、技術進化による変革期を迎えており、人材不足や業務効率化の課題に直面しています。AI技術、とりわけ生成AIやRAG技術の導入は、こうした課題を解決するための重要な手段となっています。今回の実証結果を踏まえ、さらなる技術導入による効率化が期待される中、今後のソリューションの発展にも期待が寄せられています。これからも、AI技術を活用した新しいビジネスソリューションの可能性を追求していきたいと考えています。