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AIは「前提」になった──Think 2026で見えた企業変革の現在地

By IBM ProVision posted 13 days ago

  
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AIはもはやツールではなく、企業の前提へ。IBMの年次イベントThink 2026で示されたのは、インテリジェンス、アクション、オペレーションズ、トラストが連動する新たな構造です。本記事では、その変化を実装する視点で読み解きます。

はじめに

 IBM Think はIBMが年に一度グローバルで開催する、 IBM最大規模のテクノロジーとビジネスをテーマとするカンファレンスです。 Think 2026 [1]は、2026年5月4日から7日の4日間にわたり開催され、80を超える国から集まった5,000名以上の経営者・技術者を集め、AI、ハイブリッドクラウド、量子コンピューティングなどの最先端技術や事例が紹介されました。今年の特徴は「AIを前提に企業をどう設計するか」という問いが強く打ち出されていた点です。 AI は「導入するもの」から「企業を設計する前提」へと変わりました。IBM 会長兼最高経営責任者 (CEO) のアービンド・クリシュナ (Arvind Krishna) も、「AI革命はデイゼロにある」と強調しており、もはや試行ではなく本格活用・拡張フェーズに突入しています。

本記事では、Think 2026 で開催された日本のお客様向け Debriefing Session をもとに、Think で提示された技術とその意味を解説します。このセッションは、日本IBMの技術リーダーが、キーノートの内容を再整理し、実務観点で再解釈したものです。最先端の技術トレンドを単なる情報としてではなく、次のアクションにつながる示唆として読み解いていきます。

AIファースト企業への転換点 

野波衆太郎 (プラットフォームソリューション推進事業部長 執行役員 兼 技術理事) は、 Think 全体のメッセージを俯瞰すると「AIをいかに企業の中核に位置づけるか」という一点に収束していると説明しました。 IBM CEO アービンド・クリシュナの基調講演では、AIはもはや単なる技術ではなく、企業変革そのものを駆動する存在として捉えられており、「真のAIファースト企業になること」が強く求められていました。

その実現に向けた枠組みとして提示されたのが、「AIオペレーティング・モデル (図1)」です。これは、Intelligence (知能)、 Action (行動)、 Operations (運用)、 Trust (信用) という4つの要素から構成され、単発の AI 活用ではなく、企業全体でAIを機能させるための設計思想を示しています。図1に示す通り、この4つの要素は個別に存在するものではなく、相互に連携することで初めて機能します。

また、昨年との比較においても大きな変化がありました。これまで「AIをどう試すか」が議論の中心だったのに対し、今年は「いかに本格活用し、スケールさせるか」へと焦点が移っています。さらに、人だけでなく AI エージェント (ノンヒューマンID) が爆発的に増加することや、リアルタイム・データの重要性、そして AI そのものを統治するガバナンスの必要性など、企業の前提条件が大きく変わっていることが強調されました。

このように、 Think 2026 で示されたのは個別の技術トピックではなく、「AIを前提とした企業の再設計」という大きな方向性です。ツールやソリューションは急速に進化し続ける一方で、企業のビジネス自体は簡単には変わらない。だからこそ、その間を埋めるプロセス設計やガバナンスの重要性が、これまで以上に高まっていることを野波は強調しました。

image図1. AIオペレーティング・モデル

Intelligence (知能):リアルタイム・データが意思決定を支える

 AI エージェントが業務を担う時代において、最も重要な前提となるのが「データの在り方」です。藤田一郎 (技術戦略本部統括 執行役員 兼 技術理事) は、これまでのように蓄積されたデータを後から分析するモデルでは、 AI が意思決定主体となる世界には対応できないと指摘しました。

従来のデータ基盤は、データを取得し、保存し、変換してから活用するという段階的な処理が前提でした。しかし、 AI エージェントがリアルタイムに判断を行うためには、流れ続けるデータをその場で処理し、即座に活用できる状態にすることが不可欠になります。

この変化を支える技術として取り上げられたのが、 Confluent [2]を中心としたストリーミング基盤です。従来のバッチ処理では、データを一度蓄積してから変換・整形する必要がありましたが、 Confluent ではデータが流れている最中に変換・意味付けを行い、そのまま利用可能な状態にすることができます。さらに、ストリーミング・データをそのままテーブル形式で扱える仕組みにより、データを保存することなくリアルタイムに参照・分析できる点が大きな特徴です。

また重要なのは、単なるリアルタイム処理ではなく、データにコンテキスト (意味) を付与し、その信頼性や由来を管理することです。これにより、 AI エージェントが正しく理解し判断できるデータ基盤が成立します。リアルタイム・データと従来の蓄積データを組み合わせることで、分析にとどまらず、業務の自動化や意思決定に直結する価値を生み出すことが可能になります。

これは、データ基盤を「保存のための仕組み」から「判断を支える基盤」へと進化させるものであり、 AI 時代における根本的なアーキテクチャーの転換を示しています。

Action (行動):AIは実行主体を変える

 AI はもはやツールではありません。企業活動の実行主体そのものに変わりつつあります。竹田千恵 (テクノロジー事業本部 理事 AI Lab推進事業部長) は、今後の世界ではアプリケーションと AI エージェントが爆発的に増加し、人が直接扱う対象をはるかに上回る規模になると指摘しました (図2)。10億のアプリケーションと20億の AI エージェントが生まれ、50%のコードが AI で生成され、 AI が人の120倍の ID を持つ世界がやってくるのです。

image図2. AIにまつわる数字
こうした環境において重要なのは、エージェントを「作ること」ではありません。それらを統制し、可視化し、最適に運用することです。複数のエージェントが連携して業務を実行する前提では、個人識別情報管理やセキュリティー、さらにはどのエージェントが何をしているのかを把握するコントロール基盤が不可欠になります。

その中核となるのが、 AI 開発と活用を支える仕組みです。竹田は IBM の開発基盤 IBM Bob [3]を例に、 AI によるアプリケーション開発の在り方が大きく変わりつつある点を強調しました。 Bob はアプリケーションの全ライフサイクルを支援し、実際に IBM 社内では大規模に活用され、生産性向上や開発スピードの大幅な改善を実現しています。また、 Bob で作成した AI エージェントを watsonx Orchestrate [4]と連携してマルチエージェント・システムを構築できます。

さらに、ハイブリッド環境への対応やレガシー・システムを含む幅広い技術領域への適用、自動的に最適な AI モデルを選択する仕組みなどにより、企業が抱える複雑なシステム環境においても AI 活用を現実的なものにしています。こうした基盤と、リアルタイム・データを組み合わせることで、はじめて AI エージェントは業務の中核として機能するようになります。

Operations (運用):AIエージェントとの協働の時代へ

 AI の普及とエージェントの増加に伴い、 IT 運用の前提そのものが大きく揺らいでいます。上野亜紀子(テクノロジー事業本部 理事 オートメーション・プラットフォーム事業部長) は、現在のIT環境は変化のスピードと複雑性が急激に高まっており、これまでの人手中心の運用モデルでは対応しきれなくなっていると指摘しました。

こうした課題に対するアプローチとして提示されたのが、AIエージェントを中核に据えた運用基盤 IBM Concert [5]です。   Concert は、分散した IT 環境を横断的に把握し、システム内で発生する問題やその予兆を AI が検知、原因分析から修復アクションの提示までを一貫して支援します。これにより、従来は個別に管理されていた監視・分析・対応のプロセスを統合し、より迅速で精度の高い運用が可能になります。

さらに、 Concert はダッシュボードや対話インターフェースを通じて状況を可視化し、人間が判断を介在させながら運用を進めることができる点も特徴です。 AI がすべてを自動化するのではなく、運用者の意思決定を支援しながら段階的に最適化していくアプローチが採用されています。また、脆弱性検知や優先順位付け、修復といったセキュリティー対応も組み込まれており、開発から運用まで一貫したリスク管理を実現します。

このように、運用は単なるシステム維持ではなく、 AI によって継続的に改善されるプロセスへと進化しつつあります。複雑化する IT 環境の中で、運用そのものを高度化・自動化できるかどうかが、企業の競争力を左右する重要な要素になっています。

Trust (信用):主権は競争力になる

 AI の活用が進む中で、新たに重要性を増しているのが「主権(ソブリン)」という概念です。磯部博史(テクノロジー事業本部 ソフトウェア・エンジニアリング事業部 オートメーション・プラットフォーム) は、これまでの主権が「データの保管場所」に重きが置かれていたのに対し、 AI 時代においてはその範囲が大きく拡張していると指摘しました。

具体的には、データの所在に加え、どこで運用され、誰が制御し、どのように管理されているのかといった「運用そのもの」が主権の対象になっています。さらに、特定のベンダーに依存せず、必要に応じて環境を切り替えられる柔軟性も、企業が持つべき重要な要素として挙げられました。

こうした背景から、 AI は単に導入するのではなく、最初から監査やコンプライアンスに耐えうる形で設計されるべきものへと変わりつつあります。つまり、「使い始めてから整備する」のではなく、「統治前提で構築する」ことが求められているのです。

この考え方を体現する仕組みとして紹介されたのが、 IBM Sovereign Core [6]です。 Sovereign Core は、ハイブリッドクラウド環境において、データ・運用・コンプライアンスを一体的に制御するための基盤であり、監査対応や規制準拠を前提とした AI 活用を実現するコンポーネント群として位置づけられています。
 AI とエージェントが広く普及する世界では、「どのAIを使うか」以上に「それをどのような統制のもとで運用するか」が問われるようになります。主権はもはや制約ではなく、企業が持つべき競争力の一部となりつつあります。

クロージング:AIをどう設計するか

早川勝 (副最高技術責任者 技術戦略担当 執行役員 兼 技術理事)は、 Think 2026 全体のメッセージを「企業価値をいかに高めるか」という視点で整理しました。その中核にあるのが、日本IBMが提示する AI 戦略である、 IT変革のための AI 、ビジネス変革のための AI 、そしてそれらを支える統合 AI 基盤という3つの要素です。これらを一体として捉え、企業全体の変革につなげていくことが重要であると強調しました(図3)。 

image図3. 日本IBMのAI戦略

また、今回のテーマである「AIファースト・エンタープライズ」や「Enterprise AI競争」は、単なる技術導入ではなく、企業価値を引き上げるための競争そのものであるとも述べています。 AI を活用するかどうかではなく、いかにビジネスと   IT の両面で組み込み、継続的に価値を創出していくかが問われています。

さらに、日本市場への展開においては、グローバルで生まれたソリューションをそのまま適用するのではなく、顧客のニーズに合わせて進化させていくことの重要性にも触れました。そのための取り組みとして、 IBM AI Lab Japan [7]などを通じた共創やフィードバック・ループを強化し、より実践的な価値提供を目指していく姿勢が示されています。

加えて、サイバーセキュリティーの観点では、 AI の進化に伴い脅威も高度化する中、「AIによる脅威をAIで防ぐ」というアプローチが今後の鍵になると指摘しました。運用・ガバナンスと同様に、セキュリティーもAI時代に合わせた再設計が必要です。

早川は参加者に「What do you think?」と問いかけ、単なる情報として受け取るのではなく、自社の変革にどうつなげるかを考えることの重要性を強調し、セッションを締め括りました。

まとめ

 Think 2026 および Debriefing Session を通じて見えてきたのは、 AI が単なる業務効率化の手段ではなく、企業の在り方そのものを規定する前提条件へと変化しているという事実です。 AI エージェントの普及により実行主体が変わり、リアルタイム・データが意思決定を支え、運用は AI と連携する形へと進化し、さらに主権やガバナンスが競争力の源泉となる――これらは個別の技術トレンドではなく、相互に結びついた構造変化です。

さらに、 Think 2026 では量子コンピューティングも中長期の競争力を左右する技術として位置づけられました。例えばある病院では、量子コンピューターを活用した分子シミュレーションの画期的な進歩により、創薬領域における新しい可能性が示されるなど、従来の計算では到達できなかった領域への応用が現実のものとなりつつあります。

重要なのは、これらを個別に導入することではなく、全体として設計し、実装し、運用していくことです。技術の進化が加速する今だからこそ、問われているのは「何を使うか」ではなく、「どう設計し、どう使いこなすか」なのです。IBMはこの構造変化を「実装可能な形」に落とし込むパートナーとして、今後も価値提供を続けていきます。

発表者(登場順)

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野波 衆太郎
Shutaro Nonami 
日本アイ・ビー・エム株式会社 
プラットフォームソリューション推進事業部長 執行役員 兼 技術理事

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藤田 一郎
Ichiroh Fujita
日本アイ・ビー・エム株式会社 
技術戦略本部統括 執行役員 兼 技術理事

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竹田 千恵
Chie Takeda
日本アイ・ビー・エム株式会社 
テクノロジー事業本部 理事 AI Lab推進事業部長

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上野 亜紀子
Akiko Ueno
日本アイ・ビー・エム株式会社 
テクノロジー事業本部 理事 オートメーション・プラットフォーム事業部長

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磯部 博史
Hirofumi Isobe
日本アイ・ビー・エム株式会社 
テクノロジー事業本部 ソフトウェア・エンジニアリング事業部 オートメーション・プラットフォーム

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早川 勝
Masaru Hayakawa
日本アイ・ビー・エム株式会社
副最高技術責任者 技術戦略担当 執行役員 兼 技術理事



参考文献

[1] Think 2026, https://www.ibm.com/events/think
[2] Confluent, https://www.confluent.io/ja-jp/
[3] IBM Bob, https://bob.ibm.com/ 
[4] IBM watsonx Orchestrate, https://www.ibm.com/jp-ja/products/watsonx-orchestrate
[5] IBM Concert, https://www.ibm.com/jp-ja/products/concert
[6] IBM Sovereign Core, https://www.ibm.com/jp-ja/products/sovereign-core
[7] IBM AI Lab Japan, https://www.ibm.com/jp-ja/about/ai-lab

 

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