Japan

 View Only

技術者を支える文化:IBMにおけるPM育成の取り組み

By IBM ProVision posted Wed December 17, 2025 02:36 AM

  
ProVision記事一覧はこちら
技術やビジネス環境の変化が速く、プロジェクトの不確実性や複雑性が増す中、プロジェクトマネージャー(PM)の需要は急増しています。IBMのPM育成は、単なるスキル強化ではなく、社員が互いに学び合い、支え合う文化に基づいており、この文化こそが複雑なプロジェクトを成功に導く原動力となっています。本稿では、IBMが認定制度や研修、コミュニティを通じてPM育成を進める取り組みを紹介します。

namaewoireru.png
小川原 陽子
Ogawara Yohko
日本アイ・ビー・エム株式会社
コンサルティング事業本部 ソーシャル・エンタープライズ&ライフ事業部
アソシエイトパートナー
1998年の日本IBM入社以来、ヘルスケア部門のプロジェクトに従事。2021年から2024年までJapan PM Profession LeaderとしてPM育成とケイパビリティ向上の取り組みをリード。現在、PMCoEメンバーとしてPMコミュニティの活動を支援している。2022年よりPMI日本支部理事。

はじめに 

近年、デジタル・トランスフォーメーション (DX) は単なるデジタル化やクラウド化にとどまらず、経営変革そのものと認識され、日本企業でも本質的なDXが進展してきています。こうした環境において、世界は働き方の変化、テクノロジーの進化、地政学的な変動などにより、かつてないほど不確実な時代を迎えています。組織が変革を成功させるためには、プロジェクトを確実に遂行できるスキルを持つPMの存在が不可欠です。プロジェクトマネジメントの標準化と普及を推進するProject Management Institute (PMI) のレポートによると、2025年時点でPMは約4,000万人ですが、2035年には最大6,540万人が必要と予測されています[1]。年間の人材ギャップ増加率は、世界経済の平均成長率を上回るペースであり、世界的にPM人材が不足しているということが分かります。

IBMのPM認定制度 

IBMは、業界に先駆けてPMスペシャリストの認定制度を導入し、PMの育成を行なってきました。そして、認定制度をビジネス環境の変化に対応させ、DX時代にお客様の成功に貢献できるPMを育成しています。

図1. PM認定のレベル

PM認定には5段階のレベルがあり、自身のレベルに応じて取得することができるようになっています (図1)。ExplorerはPMとしてエントリーレベルの実務が開始されていること、AssociateはチームリーダーとしてPMの補佐ができること、ExperiencedはPMとしてプロジェクトをリードしていることが求められます。上位レベルであるExpertでは、より複雑なプロジェクトをリードしつつ後進の育成や支援といったギブバック活動にも積極的に参加していることが求められます。そして、最高レベルであるThought Leaderはプログラムマネジメントを推進し、PMの第一人者として社内外で影響力を発揮している必要があります。

認定審査は書類審査と面接 (Expert以上のみ) で行われ、グローバル共通のワークフローで完結します。Experienced以上の書類審査は深い知識を持つ専門家 (Subject Matter Expert, SME) によって審査が行われます。SMEや面接の審査員であるBoard Memberは、審査レベルよりも上位の認定を保有していることに加え、SMEとしての基準を満たしている社員が選抜・任命されます。SME活動は正式なギブバック活動として認められるだけでなく、SME自身が体系的にPMスキルを振り返る機会ともなっており、豊富な経験を持つPMがさらに上位レベルの認定に挑戦をするトリガーとしても機能しています。審査に合格するとレベル認定の証としてデジタル・バッジが付与されます。社員はデジタル・バッジをシェアしたり、SNSなどの公的なロフィールに埋め込んだりすることで自身のスキルをアピールすることができます。

 

PMに求められるスキルの多様化

PMレベル認定にはプロジェクト経験、必須研修の受講、ギブバック活動)、面接の4つの要素において、各レベルで定められた基準を満たす必要があります。プロジェクト経験については単に経験を積んでいれば良いということではなく、プロジェクトマネジメントの各領域 (プラクティス) に対してスキルを適用・実践してきたことを証明する必要があります。すなわち、どの手法をなぜ採用したのか、そしてその結果をPMとしてどのように自己分析しているのかが審査の観点となります。  

図2. PM Badge認定の要素 

 

Experiencedレベルまでの審査においては、 計画、トラッキング、変更管理、リスク・課題といった各プラクティスのマネージを適切に行うことでプロジェクトのスコープ、コスト、スケジュール、成果物を管理する実践力を有していることが審査の主眼となっています。これは、PMIのタレント・トライアングル [2]における「Ways of Working」に該当します。一方、近年の複雑なシステムの刷新、合併・業務提携等による既存システムの統合、AIをはじめとする様々な技術要素が連動したシステム開発など、大規模なプロジェクトは一層複雑さを増してきています。このようなプロジェクトは、マネジメントが難しく、トラブルになるリスクが高く、問題発生時のビジネスへの影響も大きいです。そのため、Expertレベル以上の審査においては複雑さの要因をどのように分析し、それらに起因するリスクを最小限にするためにどのような手順を行ったかを重要視しています。これは、タレント・トライアングルにおける問題解決やネゴシエーションといった「Power Skills」、お客様のビジネス戦略を正しく理解した上でプロジェクトを実行するための能力である「Business Acumen」に該当します(図3)。

図3. PMIのタレント・トライアングル

出典元:https://www.pmi.org/certifications/certification-resources/maintain/talent-triangle
(出典元の図を参考にIBMにて作図)  

 

さらに、組織の変革やビジネス・プロセスの刷新においては単一のプロジェクトで対応できることは限られるため、複数のプロジェクトを統合的に管理してベネフィットを最適化する、プログラム・マネジメントの重要性が高まっています。そのため、Thought Leaderレベルの審査ではプログラム・マネジメントの知識と実践を示すことが必須となっています。プログラム・マネジメントにおいては、リスクを統合管理し、リソースを最適化し、組織戦略との整合性を確保してステークホルダーの期待をマネージすることが求められます。

このように、PMに求められるスキルは多様化しており、不確実さや曖昧さがある環境下で複雑なプロジェクトやプログラムをマネージすることが重要になってきています。明確なビジョンを持ち、進む方向性を示し、そこに向けて関係する人々を動かす能力の重要性が一層高まっているのです。

 

PMを支援するコミュニティ

IBMはPMのスキルアップやキャリア形成とプロジェクトの成功を支援するコミュニティであるPMCoE (Project Management Center of Excellence) を全世界で展開しています。PMCoEは、IBMの「共に学び、共に成長する」文化を体現する場です。認定制度や研修だけでなく、メンタリングやコミュニティ活動を通じて、PM同士が互いに支え合う仕組みを提供しています。

PMプロフェッショナルとしての認定、メンタリング、外部連携 

PMCoEは、IBM全体のPMスキル向上の達成を目指してPM認定制度の定義と検証、運営を行なっています。各レベルの申請に必要な要件とプロセスを定義するだけでなく、PMに求められるスキルの多様化・高度化に伴い、申請基準や前提研修の見直しを行なっています。さらに、審査員であるSMEの教育と選抜も行なうことで、公平かつ一定レベルでの審査が行われるようにしています。

PM認定を申請する際は、メンターのアドバイスを受け、これまでのPMとしての活動を客観的に振り返ることを推奨しています。メンターはPM認定申請のアドバイスをするだけでなく、日々のプロジェクト活動やキャリアについても相談ができる存在であり、PMのキャリアアップにとって大変重要な存在です。また、メンター側も知識整理や視点獲得、コーチングスキル強化といったメリットがあります。PMCoEでは、メンター・マッチングを行なうことでメンタリングの促進と活性化を推進しています。

PMCoEは、プロジェクトマネジメントに関する外部団体との法人窓口も担当しています。PMIとの連携では、最新動向の紹介に加え、キャリアアップに役立つ研修コースやリソースの提供を受けています。また、PMI主催の各種イベントに参加することにより、急速に変化する世界において、PMプロフェッショナルの未来を形作り、前向きな変化を生み出すヒントを得ています。日本では、プロジェクトマネジメント学会主催の研究発表大会での論文発表など、PMとしての成果をまとめ、ステップアップする活動もサポートしています。

 

教育・学習プログラムの提供

今日の市場で競争力を維持するためには、自己啓発への投資が不可欠です。PMCoEは、PMがスキルを継続的に向上させ、成長できるよう、様々なリソースを提供しています。

教育プログラムとしては、基本を学ぶことから、プロジェクトのリーダーとして幅広いプロジェクトマネジメント・スキルを適用可能になるまでの構造化された研修カリキュラムを提供しています。これらは「PM University」と呼ばれるサイトに集約されており、社員が自身のスキルを構築するのに最も役立つ学習の特定ができます。また、社内外の専門家をスピーカーとして招き、最新動向を学べるウェビナーを提供して、最新動向をキャッチアップできるようにしています。アジャイルやAIといったトレンドにどのように対応し、プロジェクトをマネージするかを実際の事例から学ぶ企画は受講者からの評価が高く、好評を得ています。

学習プログラムとしては、社内のPM認定取得の対策講座やPMIのPMP®やACP® 資格取得対策である「Exam Study Group」を開催することで、PMとしてのスキルアップを支援しています。これらのコンテンツは全世界共通で提供され、必要に応じて各国のPMCoEでローカライズして提供されています。例えば日本においては、以下のような取り組みを行なっています。

  • 対面型の集合研修はコンテンツを日本語化したうえで、経験豊かな日本人の現役PMが講師を担当
  • PM認定取得の対策講座は日本語化するだけではなく、日本におけるこれまでの審査運営を活かした内容にローカライズしたうえで、資料+日本語動画の形態で提供
  • コンサルタント職がPM認定を取得するための対策、また最難関であるThought Leader認定に挑戦する方向けの対策をガイドとして公開

 

プロジェクトを成功に導くメソッド、ツール、プロセス

PMCoEは、グローバル共通のプロジェクト管理メソッドやツールセットを提供し、成功を支援しています。これらは成熟したベストプラクティスで、PMがプロジェクトマネジメントを学ぶための基盤であり、迅速に機動性を持ってプロジェクトを運営できるリソースやガイドラインを提供しています。また、プロジェクトの立ち上げ段階やフェーズゲートで品質レビューを行って問題を早期に検知し、適切なタイミングで軌道修正やアクションができるようにしています。

近年、生成AIがさまざまな業務分野を変革する可能性について大きな注目を集めており、プロジェクトマネジメントの分野も例外ではありません。PMCoEは、プロジェクト管理業務を効率化するために設計されたAIアシスタントやエージェントをグローバルに提供しています。これにより、PMがプロジェクト管理作業に費やす時間を減らし、生産性を高め、プロジェクトの成果を向上させることを目指しています。生成AIの普及により、PMはAIモデル、データ主導の意思決定、AI倫理などの分野でもリーダーシップを発揮することが重要になってきています。すなわち、AI技術を効果的に活用してプロジェクトを成功に導くために、データリテラシー、データ分析能力、戦略的思考、適応力と柔軟性、コラボレーション能力といったスキルセットが求められます。PMCoEはこのようなスキルを向上させるための最新事例やトピックをWebサイトで公開し、PMがマネジメント業務から戦略的リーダーシップへと進化し、組織の競争力を高めるのを支援しています。

 

世界中のPMと繋がるコミュニティ

IBMのPMは、PMCoEのネットワークを介して世界中のPMと繋がることができます。ここでは、ツールやテンプレートの相談から、困難な状況への助言、スキルアップまで、国を超えて仲間の協力を得ることができます。そして、日本国内のPM向けのオンラインサロンは、社内外のニュースやセミナーに関する情報提供やリーダーからのメッセージに加え、PMが情報交換、相談、質問などを日本語で自由に投稿できる場で、IBMグループ社員は誰でも参加できます。

 

おわりに 

PM育成を継続することで、複雑で難易度の高いプロジェクトをリードすることができる能力の強化に取り組んでいることを紹介しました。IBMのPM育成は、制度や研修だけでなく、メンターやSMEの自発的な貢献によって支えられています。この「ギブバック」を重視する文化が、IBMの強みであり、変革を成功に導く力なのです。今後、DXによる技術革新は、既存の製品やサービスの価値を根本から変え、市場構造やビジネスモデルを破壊・再構築する「デジタル・ディスラプション」を加速させると考えられています。こうした急速な変化に対応するため、プロジェクトマネジメントの重要性は一層高まるでしょう。IBMでは、このような環境下でも市場で確固たるリーダーシップを発揮できるよう、PMの育成を継続的に推進して行きます。 

 

参考文献
[1] PMI : Global Project Management Talent Gap , PMI Thought Leadership, https://www.pmi.org/learning/thought-leadership/global-project-management-talent-gap
[2] PMI:PMI Talent Triangle® , Certification Resources, https://www.pmi.org/certifications/certification-resources/maintain/talent-triangle

 

ProVision記事一覧はこちらから 

 

IBM、IBM ロゴは、米国やその他の国における International Business Machines Corporation の商標または登録商標です。他の製品名およびサービス名等は、それぞれ IBM または各社の商標である場合があります。現時点での IBM の商標リストについては、https://www.ibm.com/legal/copyright-trademark をご覧ください。

0 comments
63 views