ProVision記事一覧はこちら
IBM のパーパス は「世界をより良く変えていく『カタリスト (触媒) 』になる」です。生成AI (Generative AI) の登場により世界が大きく変化していく中で、技術者として、技術と課題をつなぐ「触媒」としての役割を果たすには、どうすればよいでしょうか。 本記事では、日本アイ・ビー・エム株式会社 (以下、日本IBM) コンサルティング事業部のハイブリッド・クラウド・トランスフォメーション・リーダー兼 技術理事である前田幸一郎と、プリンシパル・アーキテクトの佐々木敦守が、ハイブリッド・クラウドと生成 AIを活用したIT変革の重要性を語ります。IBMの強みは「テクノロジー・カンパニーの中にある唯一のコンサルタンシー* 」であり、クラウド、AI、量子コンピューティングなどの先端技術と長期的な研究開発投資を背景に、戦略的にビジネス価値を最大化します。 両氏は、ソリューショニング・プロセスやAI for ITを駆使し、アーキテクト設計をおこなってきました。技術者として社会課題の解決や人間にしかできない価値の創出を目指し、未来を見据えたキャリア形成とグローバルな視点について語ります。
*企業や組織の抱える経営・業務・ITなどの課題に対し、専門知識を持つコンサルタント (専門家) が、診断・助言・指導を行い、解決策を提案・実行支援するサービス全般を指す。
アーキテクトとして世界へ〜IBMで築くグローバルキャリアと人材育成
-現在の役職と、日々どのようにお仕事されているのか教えてください。
前田:現在の役職は、日本IBMコンサルティング事業本部のハイブリッド・クラウド・トランスフォーメーション組織のリーダーで、肩書きは技術理事です。仕事内容としては、クラウドやAIなどの新しいテクノロジーを活用して、ビジネスとITの変革を支援するコンサルティング業務です。具体的には、IT戦略策定、そこから派生するカスタムアプリケーション開発やモダナイゼーション、システム間をつなぐインテグレーションなど、幅広く活動しています。
私は仕事に関しては朝型なので、平日はだいたい7時30分には仕事を開始します。お客様訪問がないときはオフィスで社内外の電話会議や個人作業を中心に行い、夜は18時〜19時ごろに仕事を終えます。海外との会議がある場合は休憩を挟んで夜まで仕事となることもあります。メインのオフィスは虎ノ門と箱崎にありますが、夏は暑さを避けて駅直結の虎ノ門オフィスに利用することが多いです。社内の会議は普段はリモート会議が中心ですが、3か月に1回程度はチームビルディングのために、対面で集まるようにしています。オフィスに行くと、普段接点のない人と久しぶりに会えることもあり、そこに出社の利点を感じています。コンサルティング事業部には週に何日出社するようにといった規定はないのですが、自宅よりオフィスのほうが仕事が捗るような気がするので基本的に出社しています。
出張先は、担当するお客様の都合で名古屋や大阪が多いですが、移動の合間を縫って、駅構内にある電話ボックス型のリモート作業スペースで仕事をすることもあります。ドアを閉じると駅の喧騒の中でも、外界から遮断されている感じがして、静かで集中できる環境が意外と気に入っています。
佐々木:現在の役職は、日本IBMコンサルティング事業本部のプリンシパル・アーキテクトです。2025年10月にソリューション&デリバリー事業部ソリューションデザインへ異動したばかりです。この組織では、IBMコンサルティングがグローバルで共通して実施しているソリューショニング・プロセス をリードし、技術的な実現可能性、コスト競争力、デリバリー体制などを含めた最適な提案を設計・レビュー・承認する役割を担っています。私はこの中で、SSC (シニア・ソリューション・コンサルタント) として、生成AIなどの最新技術を活用しながら、コンサルティングのデリバリーモデル自体の変革にも注力しています。
11月中旬にはシンガポールに赴任予定で、現地では同じ業務を担当します。シンガポールにはこの組織のアジア太平洋の中心拠点があり、グローバル共通の品質基準やAI for ITなどの生成AIアセットの適用を推進する役割を担い、現地のインターナショナルチームと連携しながら、お客様にとって本質的に価値のある提案を、グローバル品質で提供できるよう、日本のチームをリードしていく予定です。
1日のタイムスケジュールとしては、共働きで3人の子どもがいるため、朝は非常に早く起きています。日の出前に起床し、まずはジムで60分間のワークアウトを行い、心身を整えます。7時頃に帰宅し、子どもの支度をして妻と手分けして保育園に送り届けた後、仕事を開始します。ジム通いは健康維持のためで、将来を見据えて体力づくりを重視しています。もともとはサーフィンが趣味でしたが、子育てで頻繁に通えなくなり、今は毎日行けるジムを習慣にしています。それでも2週間に1回ほど早朝に海へ行くこともあります。シンガポール赴任後もジムは続けますが、現地には波がないためインドネシアやマレーシアなど近隣のサーフスポットに月1回ほど通うことを検討しています。
-子供の頃や学生時代の頃の専攻、そこから入社して今の役職に就くまでの経緯やキャリアパスを教えてください。
前田:大学では航空宇宙工学を専攻していました。人工衛星の設計に関する研究を行っており、当時は第2次AIブームと第3次AIブームの狭間でしたが、人工知能を使って人工衛星のデザインを最適化するテーマに取り組んでいました。人工衛星は性能を求めると重量もかさみますが、そうするとその重さに見合った打ち上げ燃料が必要になり、燃料を増やすとその燃料自身を持ち上げるための燃料がさらに追加で必要になるというジレンマがあります。それ以外にも観測機器を増やすと消費電力が増え、そのための太陽電池パネルの重量が増えるので、そうした設計バランスをAIで最適化する研究をしていました。
IBMに入社したのは、父親と大学の恩師がIBM出身で、教育制度が充実しているという話を聞いたことがきっかけです。社会人経験を積んだ後に大学に戻って博士課程に進もうと考えていましたが、思いのほか居心地が良く、結果的に26年間IBMに在籍しています。2000年に入社した当時は、Linuxがビジネスに使えるかどうか議論されていた時代で、IBMが先駆けてLinuxをビジネスに活用し始めたタイミングでした。最初はLinuxサポートセンターに出向し、その道の専門家たちと仕事をする機会をいただきました。その後、データベース技術者としてDb2やOracleのデータベースを扱うようになり、IBMのハードウェア部門に出向して、IBM POWER上でのOracle技術検証やパフォーマンス測定などを行っていました。
2016年の初めに、ソリューショニング・チームのリーダーに突然任命されました。エンジニアとしてのキャリアを積んできた中で、バックオフィス的な役割への転換は驚きでしたが、当時ソリューショニング部門で大きな組織再編があり、グローバルチームとの協業が拡大したことが異動の理由の1つでした。その翌年から日本のリーダーとしてシンガポールに赴任し、グローバルリーダーや日本以外の地域を統括するリーダーとの協業を通じて、日本のビジネスの特性を踏まえつつグローバル標準を日本のビジネスにも取り込む役割を担いました。シンガポールでは2019年まで勤務し、多文化・多宗教の環境に触れながら、主にインド系の同僚たちとの協働を通じて、ダイバーシティーの本質を学びました。インド人にも多様な個性があり、ステレオタイプでは語れないことを実感しました。意外だったのは、日本よりも海外の方が上司の意見は絶対という風潮があったことです。
現在の技術専門職種はアーキテクトです。アーキテクトを選択したのは15年以上前のことですが、選んだ理由は、データベース技術者としてのキャリアを積む中でデータモデリングの面白さに気づいたからです。最初はデータベースのアーキテクトとして、徐々にアプリケーションやインフラも含めたシステム全体のアーキテクチャー設計に携わるようになりました。その後、2022年に技術理事になりました。技術理事への昇格は1年がかりのプロセスで、自分の所属する組織だけでなく、組織横断的に評価される必要があります。社内外への影響力、知名度、技術力、ビジネス規模など多くの要素から、国内を経て世界で選抜され、最終的には米国本社の審査にかけられて決定する息の長いプロセスです。その一つ一つの要素を揃えることが大変でしたが、日本や海外のメンターの支援を受けながら、今までの自分の実績を振り返り、それをストーリー化して審査に臨みました。IBMではこのようにメンター制度が充実していることが特徴です。私も技術理事になってから積極的にメンターをおこない、後進の育成をしています。
佐々木:大学・大学院では情報工学を専攻し、コンピュータービジョンの研究に取り組んでいました。ステレオカメラを使って三次元形状を再構成し、物体認識を行うというテーマで、クラシカルな機械学習を用いた画像処理や最適化アルゴリズムの開発を行っていました。研究室ではC言語を使って画像処理を行い、計算機のリソースが限られていたため、泊まり込みで研究することもありました。
IBMに入社したきっかけは、大学院1年のときにインターンシップを探していた際に見つけたIBMの就業体験プログラムです。地元である福岡から東京に1ヶ月間滞在し、幕張事業所のATS (Advanced Technical Support) 部門で業務体験をしました。全国から集まった優秀な学生たちとのグループワークを通じて刺激を受け、「この会社なら成長できる」と感じ、福岡での就職を考えていた気持ちを改めて東京でのキャリアを選びました。入社後はインターンをしていた幕張ATS部門に配属され、HPC (ハイパフォーマンス・コンピューティング) 領域で金融・証券会社向けのリスクシミュレーション基盤の構築・自動化を担当しました。サーバーの並列計算環境を設計・提供するなど、インフラエンジニアとして約6〜8年にわたりデリバリー業務に携わりました。その後、IBMがクラウド事業に本格参入し、SoftLayerという会社を買収したタイミングで、クラウド部門に異動しました。テクニカル・セールスとして活動し、オーストラリアに半年間赴任して、セールスエンジニアリング部門の立ち上げを行いました。
帰国後は製造・流通業界を担当し、管理職なども経験しながら、技術コミュニティの立ち上げやパートナー企業との連携を推進しました。「コンテナ共創センター」という技術コミュニティでは、59社のパートナーとともにコンテナ技術の普及を目指す活動をリードしました。
アーキテクトになったのは2014年頃です。クラウドの仕組みを構築する側から、全体設計を担う側へと視点を変えたことがきっかけでした。2022年頃、テクノロジー事業部からコンサルティング事業部へ異動し、前田さんが担当するHCT (Hybrid Cloud Transformation) 部門に異動しました。そこからはアーキテクトとして、複数の技術を組み合わせて最適なソリューションをデザインすることに注力しています。
コンサルティング事業部では、製品ありきではなく、お客様のビジネス起点で考えることが求められ、テクニカル・セールス時代との視座の違いに苦労しました。お客様の立場をより深く理解するため、昨年の8月からは約1年ほどお客様のCCoE (Cloud Center of Excellence) 室に出向し、クラウド・アーキテクチャーの標準化、運用高度化、FinOpsなどを推進しました。その後は先ほど申し上げたようにすぐにシンガポールに赴任予定ですので、大変刺激的で目まぐるしい日々を送っております。
IBMの強みはコンサルティングwithテクノロジー〜技術に基づいた実現力と未来を見通す力
-ご自身の専門領域とIBMの強みについて教えてください。
佐々木:私の専門領域は、ハイブリッド・クラウドの戦略策定、ガバナンス設計、運用高度化など、クラウド全体のアーキテクチャー設計です。アーキテクトとして、複数の技術を組み合わせて、お客様にとって最適なソリューションをデザインすることに注力しています。また、IBMがグローバルで展開している「ソリューショニング・プロセス」をリードし、生成AIなどの最新技術を活用して、コンサルティングのデリバリーモデル自体の変革にも取り組んでいます。技術を単体で扱うのではなく、ビジネス課題に対してどう技術を組み合わせて価値を生み出すかという視点で活動しています。
IBMの強みは、「コンサルティング with テクノロジー」という点にあると考えています。IBMはコンサルティング会社でありながら、クラウド、AI、半導体、量子コンピューターなど、幅広いテクノロジーを自社で保有し、テクノロジー・プロバイダーとして長期的な研究開発投資を行っています。他のコンサルティング会社が戦略策定中心であるのに対し、IBMは自社技術と外部パートナー技術 (AWS、Microsoftなど) を組み合わせて、お客様にとって最適な提案を中立的に行える点が差別化要因です。
IBMは「黒子」として、世界を変える企業を支える立場を取っており、派手なマーケティングはあまりおこないませんが、安心・安全・継続性のある技術を提供することで、長期的な信頼を得ています。例えば、IBM Cloudは市場シェアこそ大きくはないですが、継続性・人材の安定性が評価され、多くの大手企業において重要システムを支える基盤として採用されています。
前田:私の専門領域は、ハイブリッド・クラウドを中心としたITアーキテクチャーの設計です。最近では「ハイブリッド・バイ・デザイン」というコンセプトを軸に、クラウドやAIなどの技術を意図的・戦略的に活用し、ビジネス価値を最大化するための道筋を描くことに注力しています。このコンセプトは、単に技術を導入するのではなく、どこに投資すれば効果が出るかを見極め、技術の導入順序やそれを使う人間のスキル向上、プラットフォーム化による機能の集約と運用効率の向上など、包括的な視点で施策の優先順位付けを行った上で、意図を持ってその実現に向けて取り組むということを意味しています。
一例として生成AIを取り入れたお客様のビジネスプロセス変革が挙げられ、例えば、人事業務やコールセンター業務における生成AI活用、あるいはIT部門におけるアプリケーション開発や保守運用業務での生成AI活用、そしてそれらの活用を踏まえた人材の配置の最適化などもお客様と一緒に取り組んでいます。現在は生成AIをいかに活用するかが主流ですが、将来的には量子コンピューティングなどの新技術も視野に入れて取り組んでいくことになると思います。
コンサルティングの視点で見た時のIBMの最大の強みは、「テクノロジー・カンパニーの中にあるコンサルタンシー」であることです。他のコンサルティング会社は専業であることが多いですが、IBMは製品部門・研究開発部門を持ち、未来の技術に投資し続けています。この実現力と未来を見通す力が、IBMコンサルティングの差別化要因です。コンサルタントが描いたビジョンを、IBMの技術力で実現できるという点は、他社にはない強みです。また、IBMはグローバル企業として、各国・地域の特色を活かしながらコラボレーションできる体制を持っています。日本だけでは実現できない価値を、グローバルの知見と連携で提供できるのも大きな魅力です。
IBMのパーパス「世界をより良く変えていくカタリスト (触媒) になる」〜技術の力で社会課題を解決し、人間にしかできないことを信じて
-ご自身の技術で世界やビジネスをどのように変えていきたいでしょうか
前田:IBMは、終身雇用制度の導入や女性・マイノリティーの積極登用など、社会に新しい価値を示してきた企業です。一方で現代社会には、気候変動やデジタル格差、地政学的リスク、労働力人口の減少など、多くの課題が存在しています。私は、こうした社会課題に技術を通じて向き合い、良い変化を生み出したいと考えています。IBMが掲げる「世界をより良く変えていくカタリスト (触媒) になる」というパーパスは、まさに私が目指したい姿です。人と人、技術と課題をつなぎ、前向きな変化を促す存在でありたいと思っています。
また、私は高校生と小学生の娘を持つ父親でもあります。「お父さんはどんな仕事をしているの?」と聞かれることがありますが、仕事の内容によっては専門的で説明が難しいこともあります。その中でも、「社会やお客様の課題を解決している」と胸を張って言えるような仕事を続けたいと考えています。
佐々木:私がIBMに入社した当初から一貫して掲げているテーマは、煩雑で反復的な作業をテクノロジーで自動化し、人間が本来集中すべき領域に時間を使えるようにすることです。人間にしかできない創造性や共感力、関係性の構築といった価値にフォーカスできる社会をつくるために、アーキテクトとして新しい技術を組み合わせ、ソリューションをデザインすることに取り組んでいます。
クラウドの登場により、かつてはサーバー1台を構築するのに何日もかかっていた作業が、今ではボタン一つで完了するようになりました。さらに、コンテナ技術やDevOps、CI/CD (Continuous Integration/ Continuous Delivery) の普及により、アプリケーション開発も大きく効率化されています。最近では、生成AIの活用は、構想策定・要件定義といった上流工程から、設計・開発、テスト、運用まで、システム開発のフルサイクルに広がり、プロセス全体の生産性を大きく変革しつつあります。IBMの生成AI技術やAI for ITのようなアセットを活用することで、企業や社会の生産性を高め、より良い未来を築くことができると信じています。私自身の20年にわたるクラウド領域の経験を活かし、社会に貢献するソリューションを提供していきたいです。
-技術者・技術リーダーを目指す方へのメッセージをいただけますでしょうか。
前田:技術者には、大きく分けるとサイエンティストとエンジニアの2種類があると考えています。サイエンティストは世の真理を追求しますが、エンジニアは目の前の課題を解決していく必要があります。私は明確にエンジニアを志向しているのですが、エンジニアのみなさんは知識や技術そのものを習得することを目的にするのではなく、それらを使って何を成し遂げたいかを常に意識してほしいと思います。何を成し遂げたいかを考えるためには、世の中に向けてアンテナを張ることが重要です。自分の世界だけに閉じこもらず、普段関わらないような人とも積極的にコミュニケーションを取ることで、視野や人脈が広がり、本質を見失わずに知識や技術を活かすことができると思います。
そして、知識も人脈も積み重ねが大事です。例えば最近私は30年近く前に大学で学んだ線形代数を、量子コンピューターのプログラミングで活用する機会がありましたが、時々こうして過去の経験が思わぬ形で役に立つことがあります。年齢を重ねるほど、知識や人脈が“点”から“線”へとつながっていく感覚が強くなりますので、未来への投資と思って積極的に様々なことに挑戦していってほしいですね。
佐々木:今後AIやロボットが多くの仕事を担うようになる中で、人間にしかできないことは何かを常に考える必要があります。例えば、お客様との直接的なコミュニケーションや人間関係の構築など、AIでは代替できない領域が今後ますます重要になるでしょう。若い技術者の皆さんには、人間の本質的な価値とは何かを常に問い続けながら、技術を社会のためにどう活かすかをぜひ追求していってほしいと思います。
ProVision記事一覧はこちらから
IBM、IBM ロゴは、米国やその他の国におけるInternational Business Machines Corporationの商標または登録商標です。他の製品名およびサービス名等は、それぞれIBMまたは各社の商標である場合があります。現時点でのIBMの商標リストについては、https://www.ibm.com/legal/copyright-trademarkをご覧ください。