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サステナブルなITによるDX推進(第1回) IBM z16で日本のITをサステナブルに (vol98-0001-mainframe)

By IBM ProVision posted Thu April 07, 2022 04:24 AM

  
Kawaguchi.jpg 川口 一政
Kawaguchi Kazumasa
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部
技術理事
1984年入社。日本だけでなく、アジア各国で大規模システム、高可用性システム、災害対策、セキュリティなどの設計を手がける。世界のIBM zSystemsテクニカル・コミュニティに参加し、各国のスペシャリストと連携して、お客様の問題解決に当たっている。専門分野は並列Sysplex、災害対策、連続可用性、セキュリティなど











IBM zSystems[1]は現在も世界中のお客様の基幹業務を支えているメインフレームです。本稿ではIBM zSystemsをモダナイゼーションし、サステナブルなITに位置付けることで、お客様のデジタル・トランスフォーメーション(Digital Transformation、以下DX)を推進する方法を論じます。今号は5回のシリーズの第一回目として、日本のITの課題と持続可能(サステナブル)IT、それを支える45日に発表された新しいサーバー、IBM z16™の概要について述べます。

 

日本のITの現状と課題

日本のお客様はシステムライフを設定してITを構築し、稼働後はなるべく現状維持で使い続け、システム・ライフが終わったら新しいITを再構築する、スクラップ&ビルドというサイクルを繰り返してきました。その典型が銀行の勘定系で、「第n次オンライン・システム」という呼び方がされています。

IT業界では大きなイノベーションを起こした技術や製品が多く生まれました。既存システムを捨ててゼロから全面再構築すれば、基礎設計から最新技術を取り入れられますから、スクラップ&ビルドはITを大幅に改善するには有効な手法です。しかし、新しいシステムを再構築するには長い期間と多大なワークロード(コスト)がかかり、かつ大規模な再構築プロジェクトになるが故に、大きなリスクが伴います。何十億〜何百億円と35年以上という長期間をかけたにも関わらず、残念ながらプロジェクトを失敗して移行できなかったという事例も少なくないと言われています。またシステム開発に長期間を要するのは、素早い対応が求められているビジネス環境において大きな問題です。ITが完成した頃にはビジネス要件が変わっていることも多々あります。よって銀行勘定系を全面再構築する次期「第四次オンライン・システム」はまだ着手できていません。

 

日本の文化的な側面からなるIT技術者の課題

日本でこのスクラップ&ビルドと言う手法を取っているのはIT開発だけではありません。例えば家や建物の建築でも似たような側面が日本では見受けられます。築3050年の日本の家は、時代遅れで新しい技術も利用できない、住み難い家が多いです。よって日本人は引っ越しや建て替えで、より新しい家を手に入れようとします。一方、ヨーロッパでは築100年以上の家がたくさんあり、外観も内装もモダンにリノベーションされていて、最新のセントラル・ヒーティング・システムが完備していたり、古さを感じさせない機能的で住みやすい家にリフォームされています。ポーランドの古都クラクフのツアーガイドは、「この建造物がいつ作られたのか?」という質問には回答に困ると言っていました。「この建造物の土台部分はxx世紀に作られ、左側の建物はxx世紀に改築し、右側の建物はxx世紀に増築された」と修繕や増改築の歴史を語らなくてはいけないからだそうです。常にメンテナンスという改善をし続けた文化と歴史があり、古いものをそのまま維持する日本とは異なります。

欧米の先進お客様はメインフレーム(IBM zSystems)で構築されている基幹系システムを、常にソフトウェアやハードウェアのレベル・アップや置き換えを行い、そして新機能適用も行っており、基幹系データの利活用(DX)も進んでいます。日本のお客様で発生している「保守できなくなった古い基幹系システムがDX化の足枷となる」と言う所謂「2025年の崖」問題[2]は、欧米のお客様では聞こえてきません。

新型コロナウィルス感染症(COVID‑19)の影響で、2020年に大量の失業者がアメリカで発生しました。ある州の失業保険システムがCICS/VSAM[3]COBOLアプリケーションで作成されていて、それをVSAM/RLS (Record Level Sharing: VSAMレコードの共用)に拡張することで、システムのスケーラビリティーを確保し、短期間に大量の保険申請に対応したという事例がありました。日本で問題となっているような、古くてメンテナンスできないレガシーなシステムではなく、欧米では新しい要件に対応できよう機能改善できるシステムとなっています。

このように欧米の先進IBM zSystemsのお客様は、ビジネス・スピードにあった素早い変化への対応ができています。この背景にあるのが欧米の常に改善する文化と、技術者のスキルとキャリアの改善意識の高さがあります。欧米の技術者は新しい技術の知識と経験を積み上げ、個人のキャリアアップを実践しています。

一方、日本の企業が現状維持を選択し、ITベンダーも機能拡張をしない単純更改を推進してきました。その結果、日本の技術者は古いシステムを現状維持のまま保守し、古い運用方法を継続してきました。安定稼働を重視した結果、日本の技術者が新しい技術に消極性になってしまったことに筆者は大きな懸念を感じています。

 

サステナブルなITを目指して

スクラップ&ビルドで再構築するのではなく、日本のITも欧米のお客様のように、既存のITシステムに最新技術を取り入れ最新化(モダナイゼーション)し、既存ITを活かしてDXに対応する「持続可能(サステナブル)IT」を日本も目指すべきと考えます。これにより、より早くDXを推進し、ビジネス変化に早期に対応できるITとなります。またIT技術者のスキル向上とキャリアアップできます。日本の技術者もこのSDGs時代に合わせた変化を取り入れる必要があります。

「富士通がメインフレームの製造・販売から撤退を決定した」という報道[4]がありました。以前より日本のメインフレーム・メーカーは新しい技術提供をしなかったので、多くの方が「ついにこの日が来たか」と思われたでしょう。これはメインフレームの終焉を意味するのでしょうか?

図1:IBM zSystems機能拡張の歴史


一方、IBM zSystemsはメインフレームに常に新しい技術を適用してきました。1998年にはLinuxを採用し、2005年にはCPUやメモリーを搭載するモジュールの稼働中保守機能を取り入れ、2010年にはSQL専用照会システム(現IDAA[5])を提供開始し、2015年にはSimultaneous Multi Threading(SMT)やSingle Instruction Multiple Data(SIMD)を、2019年には耐量子暗号やクラウドネイティブなコンテナ技術を採用しました。そして今年4月に発表したIBM z16ではAI推論を高速で並列処理するオンチップHWアクセラレーター(AIU)を実装しました[図1参照]。

図2: IBM zSystemsの出荷処理能力の遷移

このようにIBM zSystemsは既存の基幹系システムに最新技術を提供し続けてきました。その結果、先進欧米のお客様はIBM zSystemsで稼働する基幹系システムでDXに対応し、技術者は高いスキルを得ました。クラウド上で構築した新しいアプリケーションと既存の基幹系システム(IBM zSystems)を連携するハイブリッドクラウド環境を利用[6]してDXを推進できています。このようにIBM zSystemsの機能拡張とハイブリッド戦略を欧米のお客様に支持頂いた結果、全世界で2010年から2020年で3.5倍の出荷処理能力(お客様が導入したIBM zSystemsの処理能力)の伸び(図2参照)を達成しました。日本のお客様も現状維持で新機能を傍観するだけではなく、基幹系システムに新しい技術を活かしてDX推進すべきと考えます。

新しいIBM z16の登場
4月5日に発表された最新のIBM z16[7]は、オンチップのAIアクセラレーターを無料の標準機構としたTelumプロセッサー[8]を搭載し、お客様のDXを支援します。主に次の3つの特長(図3)があります。

図3: IBM z16の特長

  • 意思決定の速度を高めるAI推論と自動化

z/OS® では既に機械学習(Watson Machine Learning for z/OS) [9]が稼働しますが、HWでAIの推論処理パフォーマンスを改善する、オンチップAI推論アクセラレーターを搭載したTelumプロセッサーを採用しました。基幹系処理が使用する通常CPUとAI推論アクセラレーターは同じチップに載っていますので、基幹系オンライン処理から高速にAI推論を実行することができ、かつ大量のAI推論ができます。これにより基幹系業務からのリアルタイムのビジネス洞察への利用と、運用への適用によるインテンリジェント・インフラでの利用が期待できます。このHW機構をDb2 for z/OS[10]などのミドルウェアが利用することが計画されています。

  • サイバー攻撃に対応できるセキュアなシステム

IBM zSystemsでは既にランサムウェア対応の、バックアップ&回復を実現するCyber Vault[11]を提供しています。そしてIBM z16では本格的な耐量子暗号(量子コンピューターでも破れない新しい暗号化技術)を提供します。IBMは既に量子コンピューター[12]の発展においてリーダーシップを発揮していますが、耐量子暗号においてもNational Institute of Standards and Technology (NIST:米国国立標準技術研究所)と協業して標準化を推進しています。z15では耐量子暗号の標準化候補となっている格子暗号の認証処理を実装しました。IBM z16では鍵の暗号化など、NISTに準拠した本格的な耐量子暗号を実装していきます。また災害対策システムを有効利用して可用性を向上する、IBM Flexible Capacity for Cyber Resiliencyも提供しました。

  • ハイブリッド・アプローチによるモダナイゼーションの推進

IBM zSystemsでは既存のz/OSシステムのモダナイゼーション[13]を推進してきました。クラウドアプリケーションから容易にz/OSのデータを利用できるようにするAPIの提供、クラウドネイティブ技術によるz/OSでの開発や運用の効率改善、そしてコンテナ技術の推進を行っています。例えばIBM Wazi[14]はRed Hat/OpenShift上のクラウドネイティブな開発支援ツールを、z/OSアプリケーション開発で使用して効率改善できます。さらにIBM WaziはIBM Cloudで使用できるようになり[15]、IBM Cloudでz/OSアプリケーション開発をできるようになりました。(Betaは第二四半期から、2022年後半に正式GA予定)

またIBM zSystemsはチップの微細化を継続して進めてきており、IBM z16は前世代の半分の7nmのコアにより、消費電力を下げCO2を削減する、地球に優しいサーバーです。多くの業務をIBM zSystemsで集約することでもITの消費電力削減に貢献できます。

今後の発行予定
これらのIBM z16によるイノベーションとDX推進の詳細については、次のスケジュールでシリーズ化した記事を発行します。ご期待ください。

1 IBM z16で日本のITをサステナブルに 今号
2 CI/CDによるアプリケーション開発のモダナイゼーション 10月2日 発行
3 レジリエンシーにおけるIBM zSystemsのイノベーション 10月発行
4 AIOpsを利用したIBM zSystemsの運用改善 11月発行
5 z16によるAIを利用した基幹系処理のイノベーション 12月発行



[参考文献]
[1] IBM: IBM Z, https://www.ibm.com/jp-ja/it-infrastructure/z
[2] 経産省: DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~, https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html
[3] IBM: CICS Transaction Server for z/OS, https://www.ibm.com/docs/ja/cics-ts/5.4?topic=files-vsam
[4] 日経クロステック: 富士通がメインフレーム製造・販売から2030年度に完全撤退へ、66年の歴史に幕, https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/06546/
[5] IBM: IBM Db2 Analytics Accelerator for z/OS, https://www.ibm.com/jp-ja/products/db2-analytics-accelerator
[6] IBM 野村幸平: デジタル・トランスフォーメーションにおけるIBM Zの役割 (第二回) ― Hybrid CloudにおけるIBM Zの位置付け ―, https://community.ibm.com/community/user/japan/blogs/provision-ibm1/2021/07/19/vol97-0011-mainframe
[7] IBM Newsroom 大規模なトランザクション処理中にリアルタイムAI推論の利用を実現
業界初の耐量子暗号システムとなる次世代メインフレーム「IBM z16」を発表, https://jp.newsroom.ibm.com/2022-04-06-Announcing-IBM-z16-Real-time-AI-for-Transaction-Processing-at-Scale-and-Industrys-First-Quantum-Safe-System
[8] IBM: IBM Telumプロセッサー:IBM ZとIBM LinuxONE用の次世代マイクロプロセッサー, https://www.ibm.com/blogs/systems/jp-ja/ibm-telum-processor-the-next-gen-microprocessor-for-ibm-z-and-ibm-linuxone/
[9] IBM, IBM Watson Machine Learning for z/OS, https://www.ibm.com/jp-ja/products/machine-learning-for-zos
[10] IBM, Db2 for z/OS の概要, https://www.ibm.com/docs/ja/db2-for-zos/11?topic=getting-started-db2-zos
[11] IBM, IBM Z Cyber Vault, https://www.ibm.com/downloads/cas/08D6QP6N
[12] IBM, IBM Quantum Computing, https://www.ibm.com/jp-ja/quantum-computing?utm_content=SRCWW&p1=Search&p4=43700066778741867&p5=p&gclid=Cj0KCQjwz7uRBhDRARIsAFqjulnPHhEbUdbc1qaXx0-FWkNZd51bInWVgmG1WYLWG_cxDHyO5rNAf_caAl4NEALw_wcB&gclsrc=aw.ds
[13] IBM 小島正行: デジタル・トランスフォーメーションにおけるIBM Zの役割(第三回) ― IBM Zのモダナイゼーション ―, https://community.ibm.com/community/user/japan/blogs/provision-ibm1/2021/10/31/vol97-0018-mainframe
[14] IBM: IBM Wazi Developer for Red Hat CodeReady Workspaces, https://www.ibm.com/jp-ja/products/wazi-developer
[15] IBM: IBM ZとIBM Cloudでモダナイゼーションの新時代を実現, https://www.ibm.com/blogs/solutions/jp-ja/ibm-cloud-delivers-a-new-era-of-modernization-with-ibm-z/

IBM、IBM ロゴ、z/OS、IBM z16™ は、 米国やその他の国におけるInternational Business Machines Corporationの商標または登録商標です。他の製品名およびサービス名等は、それぞれIBMまたは各社の商標である場合があります。現時点での IBM の商標リストについては、https://www.ibm.com/legal/copytradeをご覧ください。

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