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デジタル・トランスフォーメーションにおけるIBM Zの役割 (第二回) ― Hybrid CloudにおけるIBM Zの位置付け ― (vol97-0011-mainframe)

By IBM ProVision posted Mon July 19, 2021 01:18 AM

  
Nomura-san.jpg 野村 幸平 Kohei Nomura
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部 Hybrid Cloud & AI Systems Center
エグゼクティブITスペシャリスト
1999年日本IBM入社。以来、製造業、金融業のお客様を中心に大規模Webシステムの設計および構築を幅広く経験。現在は、クラウド、マイクロサービス、AIなどの先進テクノロジーを中心に、講演活動、企業での活用におけるプロジェクトに多く携わる。


IBM Z®[1]は1964年に発表されたSystem 360の流れを汲む汎用コンピューター、所謂メインフレームです。

本稿はProVISION「デジタル・トランスフォーメーションにおけるIBM Zの役割」シリーズの第2回目として、長年多くのお客様の基幹システム(System of Record、以降SoR)を支えてきたIBM Z®が、今後どのようにお客様のDXを実現するドライバーとなるかを、IBMHybrid Cloud戦略の視点を交えてご説明します。

DXとそれを支える従来のハイブリッドクラウドの形

ここ数年多くの企業が、デジタルのメリットを最大限に活かし、既存の自社ビジネスに新たな競争優位性を確立することを目指しています。いわゆるDXの実現です。DXの定義自体は経済産業省が出すDXレポート[2]でも触れられていますが、その要となるのがデータの活用であるといえます。適切にデータを収集し分析することができれば、市場の動向を的確に捉え、競争優位性のあるビジネス戦略を立案することができます。更には、顧客が望むサービスを提供していくという、いわゆる”個”客志向サービスの実現にも繋がります。いずれにしてもこのようなDXの実現には、これまでの競争力の源泉となるSoRと、顧客接点システム(System of Engagement、以下SoE)の双方の活用が必要になります。SoRには、これまでの企業活動で蓄積された自社にとって最も重要なビジネス上の戦略データが含まれています。一方のSoEにおいては、こうしたデータを活用し、新しい顧客サービスを提供するインターフェースの機能と、顧客に関する鮮度の高いデータを取得するという役割が求められます。

IBMではこうしたSoRSoEを活用したDXを支えるITインフラとして、数年前から図1で示すハイブリッドクラウドの形態をご提案しています。ここでSoEをクラウド側で構築する一番の理由は、早期にビジネスを立ち上げ、小さくスタートすることができるという点です。クラウドを活用すればSoEをクラウドネイティブアプリとして構築することが比較的容易にでき、市場の反応に応じて収集すべきデータの調整や、顧客に対してより魅力的なサービスへのアップデートを継続的に行っていくことが可能になります。なお、ここで言うクラウドネイティブとは、アプリケーションの構造をマイクロサービス化し、CI/CD(Continuous Integration/Continuous Delivery)を活用することで、リリース後もサービスを提供しながら迅速にアプリケーションのアップデートを可能にするベスト・プラクティスを指します。

またSoRSoE間の連携は、SoR側で公開したAPIを利用して行います。IBM Z®ではシリーズ第一回[3]でも取り上げたz/OS Connect Enterprise Edition を活用することでIBM Z®上のアプリケーション資産にREST APIでアクセスが可能です。競争力の源泉となる既存資産をIBM Z®上で堅牢に守りつつ、競争力強化領域となるSoEを俊敏なクラウド上で構成するという、それぞれのインフラの特性を活用した理にかなったハイブリッドクラウドの形態といえます。

図1.DXを支えるハイブリッド・クラウド・インフラ

クラウド技術とIBM Z®の融合

前述のハイブリッドクラウドの形態は、これまで多くのお客様に支持いただき推進されてきた一方で、SoEのビジネス規模が拡大しその重要度が増すにつれ、一部のお客様においては下記に挙げたいくつかのSoE側の課題が見受けられました。

1.セキュリティの課題
特殊なレギュレーションや各企業独自のセキュリティ要件に対応する必要があり、クラウド・プロバイダーが提供する機能や環境だけでは満たせない。

2.可用性の課題
スケールアウトすることが困難なデータベースサービス等、重要なサービスにおいてクラウド側では担保できない可用性要件がある。またクラウド特有の共有資源の特性により、波及した他の障害の影響を受けるケースがある。

3.パフォーマンスの課題
SoE側で新しい顧客接点サービスの処理をすべて担うため、処理の複雑化、負担増へとつながり、規定のスループットやレイテンシーを満たすのが困難となる。またクラウドで共用資源を利用するケースにおいてはパフォーマンス要件の保証が困難となる可能性もある。

セキュリティの課題 / 可用性の課題への対応

これらの課題解決アプローチの一つが、IBM Z®上におけるクラウドネイティブ環境の実現です。IBM Z®上にRed Hat® OpenShift®(以降、OpenShift®)を導入することで、クラウドネイティブアプリを稼働させるコンテナ基盤としてIBM Z®を活用することができます。これにより、オンプレミスのIBM Z®上でも、SoEに対してクラウドネイティブな迅速なアプリケーション開発が可能になります。これらのSoEは、IBM Z®がもつ高度なセキュリティ、最高レベルの可用性を基軸にしながら、必要に応じた独自の作り込みを自由に行うことが可能なため、前述のセキュリティと可用性の課題解決へと導きます。

パフォーマンスの課題への対応

さらにIBM Z®のリアルタイム分析を行うIBM Db2 Analytics Accelerator(こちらもシリーズ第一回でご紹介[3])を活用することで、これまでSoE側だけで処理を行っていた分析処理を、必要に応じてデータ元であるSoRでも適材適所に行っていくことも可能なります。

SoEのビジネス的重要度が増加するにつれ、こうしたセキュリティ、可用性、パフォーマンスなどの非機能要件はさらに高い水準で求められるといえます。今後は5Gの社会への浸透と相まって、SoE側において、IoTデバイスからの大量トラフィックが来ることも予想されます。このような場合でもIBM Z®であれば、秒1万を超える更新トランザクション処理を実装することが可能です。さらに、これらのトランザクションにより蓄積された大量のデータに対しても、専用のハードウェアモジュールを活用することSLAを落とすことなく全方位型暗号化や高速なデータ分析、データ処理が可能ということは、この連載でも触れているとおりです。

さて、IBM Z®側にクラウド技術であるOpenShift®を持ってくるというアプローチは、2つの側面でのSoRの最適化に繋がっていると筆者は考えています。

1つ目は、SoRから、メインフレームの持つ機能・非機能要件を必要としない処理の切り出しを促すという点です。メインフレームの機能が不要なこれらの処理に関しては、マイクロサービスとしてクラウドネイティブ化しておくことで、今後クラウド側への移行を容易にし、SoR自体をスリム化することに繋がります。

2点目は、変更が頻繁に発生しうる処理の切り離しです。SoRは本来、定形処理を安全・確実に行うシステムという位置づけですが、DXを推進しようとした際にSoE側の要求を満たすため、SoR側へも頻繁な変更を要求せざるを得ないケースが出てくる可能性があります。そのようなSoR部分は、もはや性質的にSoEと同質と考えるべきであり、SoRから切り離し、既存のモノリシックな形態からクラウドネイティブアプリとしてマイクロサービス化することが適切と考えます。これにより既存SoRにとって重要な安定性を維持したまま、マイクロサービス化したSoR部分ではCI/CDを活用した高速開発/リリースを実現することで、SoEが求める速度への追従を可能にします。

ここまでの話を図示したものが図2です。オンプレミス上でSoESoR環境を構築しているため、厳密な定義(アメリカ国立標準技術研究所 NISTの定義[4] クラウドコンピューティングの定義800-145[5])でのハイブリッドクラウドではありませんが、クラウドと基幹系の双方のテクノロジーを織り交ぜて、良い部分を互いに活用しているという意味では、筆者はハイブリッドクラウドの一形態と呼んでも良いと考えています。

2IBM Z®上におけるSoE/SoR環境の構築

IBM Z®を中心としたハイブリッドクラウドのバリエーション

これまでDX推進には、基幹システムがもつ安定性と、クラウドがもつ俊敏性、この2つのテクノロジーを適切に組み合わせることが重要であるということに触れさせて頂きました。こうした流れから、DXを支えるインフラは必然的にハイブリッドクラウドの形態をとる、ということはご理解いただけたかと思います。ここからは改めて、どのようなハイブリッドクラウドのバリエーションが考えられるかを俯瞰したいと思います。(3)

3IBM Z®を中心とするハイブリッドクラウドのバリエーション

3における①と③の形態は、前章までの図1、2で示したとおりです。本章では、まだ触れていない②のパターンA(以後、②-A)、パターンB(以後、②-B)の形態についてご説明します。

-Aでは、SoR側にクラウドテクノロジーであるOpenShift®を導入している点にご注目ください。これにより、SoRの一部をマイクロサービス化し柔軟性をもたせた上でAPI化するという構成が可能です。この形態は、前章で述べた③メインフレーム統合のうち、SoE部分を従来通りクラウド側で稼働させる形態であると解釈することが可能です。一方の②-Bは、②-Aのマイクロサービス化したSoR部分をクラウド側に移行させるというもので、オンプレミスのワークロードを最小化したいお客様がよく採用される形態となります。昨今、DX推進に併せてメインフレームの全面クラウド化ご検討の話も聞くことがあります。ここで大事なことは、機能・非機能要件の観点からクラウド化できるもの/適しているものと、メインフレーム側で稼働させるべきものとを適切に区別して考えることです。これまでの議論からも明らかなように、現時点においてはDXを実現するうえでメインフレームの機能を利用すべき処理というものが必ず存在します。それを検討せずに全面クラウド化や他のプラットフォームへの移行は、例えば移行コストの増大や移行作業の長期化など、プロジェクトのリスクに対してお客様が期待されるレベルの効果が出せてないことが第三者機関のレポートからも明らかになっています[5]。この点からも、②-Bのように、クラウド化しても付加価値がでない部分はオンプレミス側に残すというのは正しい“アーキテクチャ上の決定”と言えるかと思います。

ここまでの説明でお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、SoE部分と、マイクロサービスとしてモダナイズされたSoR部分はクラウドネイティブ化されているため、クラウドとオンプレミスのOpenShift®上を自由に行き来することが可能です。図3の矢印が示しているは、②-A、②-B、③の形態がアプリを稼働させるインフラとして容易に移行可能であることを示しています。

なお、筆者が担当したお客様の中には、まだクラウドを利用されたことがない、マイクロサービスなどのスキルがないといった課題を抱えたお客様が少なからずいらっしゃいました。そのようなお客様には、1)まずはメインフレーム統合型からはじめていただき、既存システムの運用を続けながら、2)その横で小さくOpenShift®によるコンテナ化、マイクロサービス化にとりかかってもらい、スキル、ノウハウを蓄積する、3)その上で小さくDXを始めていただく、というステップに分けることをおすすめしています。そして、SoE部分が大きくなった際には、よりスケールしやすいパブリッククラウド側にSoE部分もっていく、あるいはパブリッククラウド側でSoE部分が拡張されていった際にどうしてもクラウド側で担保できない要件が出た場合は、再度オンプレミス側にSoE部分を戻す、そういった柔軟性の高いロードマップをお客様と一緒に描いています。

このようにIBMのハイブリッドクラウド戦略では、お客様のDXを促進するためにベストな環境を、お客様の既存システムを考慮しながら、コストや要件に応じて最適な環境でスタートすることが可能です。もちろん、今後変わっていくであろうお客様要件やテクノロジーの成熟度に応じて最適な環境に移行する、というお客様個別のロードマップも併せてご提案しております。

DXにおけるIBM Z®の価値

冒頭でも申したとおり、IBM Z®をご活用いただいているお客様にとって、IBM Z®は最も重要な独自の戦略データが含まれたビジネス活動のコアとなるITシステムです。そしてこのIBM Z®上にある重要なデータを活用しないまま、DXを実現しようとしても今後の企業間競争の優位性に欠けることはご想像いただけるかと思います。そのためIBMでは、お客様の既存資産を有効活用することに主軸をおき、そこからDXをすすめるアプローチをご提案しています。IBM Z®のOpenShift®対応、API化テクノロジーの提供は、そのためのキーテクノロジーであるとお考えください。

今後、DXを推進する企業は市場の求めるニーズ、そして変わりゆくレギュレーションやコンプライアンスに応じて、ITインフラを対応させていく必要があります。IBM Z®においては、このような社会的要請に応じて、クラウドに先行して、いち早くソフトウェア、及びハードウェアレベルでの対応をこれまで行ってきています。第1[2]でも述べたIBM Z®テクノロジー群はまさにそのような要請に応じてきた成果といえるでしょう。社会環境の変化が激しい現在において、IBM Z®を利用するということは、今後出てくるであろう社会的要請に他の企業に先んじて対応を取ることができ、みなさまにとってより大きなアドバンテージになると筆者は考えています。

ここにIBMのハイブリッドクラウド戦略を合わせることで、IBM Z®をDXにおけるコアとなるITインフラとし、SoEやコンテナ化したSoR部分は、要件に応じて柔軟にクラウド側とIBM Z®間で移動することが可能です。これは結果的に、その時に応じたお客様にとってのコストとテクノロジーの最適化を実現することに他なりません。

IBM Z®はこれからも、IBMのハイブリッドクラウド戦略とともにお客様にとって価値あるテクノロジーをご提供していくことで、お客様と一緒にDX実現と成功に挑戦し続けてまいります。

[参考文献]
[1] IBM: IBM Z, https://www.ibm.com/jp-ja/it-infrastructure/z

[2] 経済産業省:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~, https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html

[3] IBM Community Japan; デジタル・トランスフォーメーションにおけるIBM Zの役割(第一回), https://community.ibm.com/community/user/japan/blogs/provision-ibm1/2021/04/21/vol97-0005-mainframe

[4] NIST:The NIST Definition of Cloud Computing, https://nvlpubs.nist.gov/nistpubs/Legacy/SP/nistspecialpublication800-145.pdf

[5] IDC Whitepaper:IDC The Quantified Business Benefits of Modernizing IBM Z and IBM i to Spur Innovation, https://info.rocketsoftware.com/idc-rocket.html

IBM、IBMロゴ、は、米国やその他の国におけるIBM Corp.の商標または登録商標です。
Red Hat、OpenShiftは、Red Hat Inc.または子会社の米国およびその他の国における商標または登録商標です。

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