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デジタル変革に向けたクラウド・モダナイゼーション (vol97-0001-cloud)

By IBM ProVision posted Tue March 23, 2021 01:35 PM

  

企業におけるデジタル変革の必要性が広く叫ばれる中、国内では未だ多くの企業においてその取組みが不十分との指摘があり、企業の変革に向けて期待する成果を得るまでには至っていない現状にあります。そのような状況の中、自社の変革に向けたデジタル戦略として、企業はどのような方針や施策に取り組むべきか、その解の一つとなるのが、既存のIT資産を活用し最新テクノロジーで新たな価値を創造する、「アプリケーション・モダナイゼーション」であり、2020年来の新型コロナウイルスの影響下でより一層その重要性が増しています。

当記事では、デジタル変革におけるアプリケーション・モダナイゼーションの位置付けを整理した上で、クラウドへのモダナイゼーションに焦点を当て、移行パターンの定義から、モダナイゼーションの成熟度分析、 モダナイゼーション手法の適用という3つのステップに沿ったアプローチを示し、最後に適用事例についてご紹介します。

 

デジタル変革を支えるモダナイゼーション

企業を取り巻く環境では、顧客ニーズの多様化や、経済のグローバル化、新たなエコシステムの形成など、多くの企業が急激なビジネス環境の変化への対応に迫られています。そのような環境下で、各企業は差別化された競争力のある製品やサービスを顧客へ提供するため、デジタル変革を通じて新たな価値の創造や新規ビジネスの創出に取り組んでいます。一方で、これらの企業はデジタル技術を活用し、業界をも超えて業績を伸ばす、先進デジタル企業の躍進にも対抗していく必要があります。

しかしながら、国内企業におけるこれまでのデジタル変革への取組みは十分ではないとの指摘がなされており(経済産業省 DXレポート2【1】)、今後これらの企業は自社における課題を明らかにし、デジタル戦略として変革に向けた施策に早急に取り組んでいくことが求められています。

更に、2020年から続く新型コロナウイルスの影響により、多くの企業が自社の戦略の見直しを迫られることになりました。企業は自社のデジタル化対応が急務であることを再認識する一方で、コロナ禍がこれら企業の業績にも大きく影を落としたため、デジタル化への投資を加速すると同時に、強くコスト削減が求められている状況にあります。

 

このような背景により、長年に渡り基幹業務を支えて来た膨大なIT資産を抱える企業は、ビジネス・スピートや柔軟性の向上、デジタル変革を支える環境の整備、最新デジタル技術の活用、IT投資やコストの最適化など、自社の変革を進める上で多くの課題に直面しています。これらの解決策となるのが、既存のIT資産を活かして最新テクノロジーでアプリケーション構造の変革を行う、「アプリケーション・モダナイゼーション」であり、モダナイゼーションは今後企業のデジタル戦略の柱として今まさに取り組むべき施策であると考えられます。過去にもあった単に老朽化対応を目的とした、ハードウェアやソフトウェアの最新化によるモダナイゼーションとは異なり、デジタル・テクノロジーが整備された今のクラウド時代であるからこそ実現できるモダナイゼーションであり、既に多くの企業でもこの新たなモダナイゼーションへの取り組みがなされています。



それでは、企業はモダナイゼーションによりどのような価値が得られるのでしょうか。攻めのIT、守りのITの大きく2つの視点からその提供価値を整理します。

最初に攻めのITとして、企業は既存のIT資産を最大限に活かし、最適なモダナイゼーション手法を選択、実行することで、柔軟性とアジリティーを持ったプラットフォームを手に入れることが出来るようになります。これにより、顧客接点における新たな顧客体験の創出や、新たなエコシステムによるビジネス機会の創出、ビジネス環境に応じた迅速な施策実現など、モダナイゼーションはデジタル変革を支えるITプラットフォームを実現し、これらの新たな価値を提供します。次に守りのITとして、継続的にモダナイゼーションを実践することで、モダナイゼーションを通じた業務の効率化や省力化、生産性の向上によりコスト削減を図ることができ、そこから余剰コストを生み出すことで新たな変革のための投資を可能とします。これらがモダナイゼーションの狙いとするところであり、企業がデジタル変革を推進する上でモダナイゼーションが重要な戦略の一つとして位置付けられる理由となります。



モダナイゼーションのアプローチ

IBMコーポレーション(以下、IBM)で定義しているシステムの移行パターンは、大きくマイグレーション、モダナイゼーション、ラショナリゼーションの3つのカテゴリーに分類され、その中で各種移行パターンを定義しています(図 モダナイゼーションの移行パターン参照)。多少の定義の違いはあるものの、各社(Gartnerの7 Options【2】、AWSのThe 6R’s【3】等)が同様の移行パターンを定義しています。モダナイゼーションと一口に言っても、アプリケーションの機能要求は変えずに新たに再構築する場合(リアーキテクト)と、外部仕様も変えずにプログラムのソースコードを改善する場合(リファクター)では選択するアプローチが異なりますので、移行方針としてどの移行パターンを選定するのかを決定するのが最初の重要なステップになります。その際、ビジネスニーズやスケジュール、コスト、移行リスクの観点などを考慮して決定する必要があり、大規模なシステムの場合には一つの移行パターンではなくサブシステム毎に移行パターンが異なるケースも多くあります。

 

当記事では、既存IT資産の有効活用を前提としたアプリケーション・モダナイゼーションにフォーカスし、主にリプラットフォーム(コンテナ化)およびリファクター、リライト/コンバージョンおよびリアーキテクト(リビルド)を対象とします。なお、既存オペレーティングシステムやミドルウェアを変更するリプラットフォームは、一般的にはマイグレーションに分類されますが、昨今のコンテナやオーケストレーションを活用した稼働プラットフォームの変更は、アプリケーションとも密接に絡むプラットフォーム変更となるため、ここではリプラットフォーム(コンテナ化)として定義しています。

次に、モダナイゼーションの成熟度分析として、現行システムがどの成熟度レベルにあるのか、現状を正しく把握します。ここで示す成熟度モデルでは、フロントエンド・アプリケーション、アプリケーション・アーキテクチャー、開発・運用ツール、プラットフォームの4つのカテゴリーを定義しており、それぞれのカテゴリーにおいて対象とするシステムが現在どのレベルにあるのかを把握するのに活用できます。なお、アプリケーションの開発手法もモダナイゼーションと密接に関係しますが、クラウドネイティブ志向に適したアジャイル開発、従来からのウォーターフォール開発のいずれの開発手法であってもモダナイゼーション自体は実現可能であるため、成熟度レベルとしては定義していません。

この成熟度モデルを参考に現状のレベルを把握した後は、いつまでにどのレベルを目指すのかのゴール設定も行います。対象システムやアプリケーション特性によって、現状の成熟度レベルも目指すレベルも異なるのが一般的ですが、現状からのレベルアップによる実現性を加味してモダナイゼーションのゴール設定を行うことになります。例えば、基幹系の大規模システムのモダナイゼーションの場合、いわゆるクラウドネイティブな世界で一般的な、マイクロサービス化に一足飛びにはいくのはハードルが高いと言えます。そのため、コンポーネント化で対応できないか?マイクロサービスを適用する場合にも、適用する領域を限定し、まずは大きめのサービス粒度からスタート出来ないかなど、それにより得られる効果と実現に向けたハードルのトレードオフにより、最終的なレベル設定と適用するモダナイゼーション手法を決定することになります。また、適用可能なモダナイゼーション手法や最新テクノロジーは日々進化し、現時点と数年後で目指すレベルが異なる可能性は十分にあり、常にビジネス価値の創出に向けて継続的なモダナイゼーションの計画・実行に取り組んでいくことが重要となります。



最後のステップとして、モダナイゼーション手法としてその実現手段を選択し、モダナイゼーション後の目指す姿をToBeアーキテクチャーとして策定します。移行パターン毎に選択可能な手法は異なり、リプラットフォームを実現する手法としてはコンテナ化、リファクターやリライト/コンバージョンを実現する手法としてはコンバージョン、リアーキテクトを実現する手法としては、API化、ユーザー・エクスペリエンス(以下、UX)モダナイゼーション、DevSecOps適用、フレームワーク・ツール更改、PaaS化、System of Engagement(以下、SoE)・System of Record(以下、SoR)の分離、マイクロサービス化などが代表例として挙げられます。なお、ここで示した順に変革の難易度は一般的に高くなるため、その分コストやリスクが上がると共に対応期間も長くなります。

ここで、API化はメインフレームなどの基幹システムにおいて、既存のレガシーシステムに対して極力変更を加えずに、価値あるデータのみ利活用する場合に有効な手法です。ラッパープログラムや製品などを活用してAPIの公開インターフェースを設けることで、容易な実現を可能とします。また、変化が求められる領域と、変化が求められない領域に分割できる場合や、現行データやアプリケーションを疎結合化できる場合などには、SoE・SoRの分離手法により、SoE領域のみクラウド上でモダナイゼーションします。フレームワーク・ツール更改は、サポート切れや脆弱性への対応やアプリケーション構造の変更、採用する技術の刷新など、目的は多岐に渡ります。なお、これらの手法を1つだけ選択することは少なく、多くの場合、複数の手法を組み合わせて相乗効果を図っていくことになります。特にマイクロサービス化を行う場合には、コンテナ化やDevSecOps適用、フレームワーク・ツール更改を同時に実施することでより効果をあげることが可能となります。



モダナイゼーションの最新事例

 最後に、国内金融業A社のモダナイゼーション事例をご紹介します。

このお客様は、インターネットを中心に個人向け金融サービスを展開しており、今後、APIによる新たなエコシステムでのビジネス施策実現のスピード向上を目指して、顧客向けのインターネットシステムの刷新を行いました。これをIBMのクラウド・モダナイゼーションサービスにて実現しており、基盤の観点では、現行のオンプレミスからハイブリッドクラウド環境(オンプレミスとIBM Cloud+OpenShift)へ移行し、コンテナ(Docker)やオーケストレーション(kubernetes)を採用しています。また、クラウドのメリットを享受するため、一部共通機能のPaaS化(メール送信および認証機能)を行っています。アプリケーションの観点では、マイクロサービスを指向してサービス分割・API化、脆弱性対応のためのアプリケーション・フレームワーク更改、リリースの自動化を実現するためDevOpsツールチェーンの採用に取り組みました。今回のモダナイゼーションを通じて、施策実現のスピードが数ヶ月レベルから数週間レベルに短縮され、継続的なセキュリティの強化が容易に図れるなど、機敏性やアジリティー、安全性も備えたITプラットフォームへと変革を遂げています。また、更なる進化に向けて、継続的なモダナイゼーションにも取り組んでいく計画となっています。



[参考文献]

[1] 経済産業省: DXレポート2, https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004.html 
[2] Gartner:Smarter with Gartner, 7 Options to Modernize legacy Systems, https://www.gartner.com/smarterwithgartner/7-options-to-modernize-legacy-systems/   
[3] AWS:AWS Cloud Enterprise Strategy Blog, 6 Strategies for Migrating Application to the Cloud, https://aws.amazon.com/jp/blogs/enterprise-strategy/6-strategies-for-migrating-applications-to-the-cloud/

 

日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス(GBS)事業本部 モダナイゼーション戦略・サービス部門担当
アソシエイト・パートナー
渡海 浩一
Koichi Tokai

マイグレーション/モダナイゼーションの戦略・計画立案およびサービスを提供する組織を担当。多くの業界・業種のお客様へのコンサルティング支援、モダナイゼーション実行プロジェクトをリード。

日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス(GBS)事業部 モダナイゼーション・サービス部門担当
シニア・アーキテクト
平岩 梨果
Rika Hiraiwa

クラウド・モダナイゼーションを専門とする部門を担当。業界・業種を問わず、既存システムのアプリケーション・モダナイゼーションを中心に、アーキテクチャーやロードマップ策定の活動に従事。


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