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行木陽子さんインタビュー 〜起こる事象には、色はない。その色をつけるのは自分〜

By KEIKO MORITA posted 02/09/26 04:36 AM

  

 行木(なめき) 陽子さん

 元 日本アイ・ビー・エム株式会社 技術理事

 中央大学 特任教授

 株式会社足利銀行 社外取締役

 株式会社平和堂 社外取締役

多様性の現場で重ねた自分らしいキャリア – Connecting the dots – 

日本IBMで技術理事としてご活躍され、現在は大学教育・社会貢献・企業の社外取締役など、多方面で活動を続ける行木陽子さん。IT女性技術者として働く私たちにとって、まさに「未来のロールモデル」と言える存在です。今回は、IT女子二人でじっくりお話を伺う機会をいただきました。キャリアの転機に感じた本音の不安、育児と仕事の両立、多様性の本質、そして若手・中堅へのメッセージ。優しさと芯の強さに満ちたインタビューをお届けいたします。

「このままでいいのかな」「もっと挑戦したいけど怖い」

そんな気持ちを抱える女性技術者は多いと思います。私自身、対談で行木さんが引用されていたキャリアも人生も振り返れば点と点がつながって線になるという言葉の意味を深く理解できました。「たとえ遠回りに見えても、無駄な経験なんて一つもない」、行木さんの経験談は、技術者として働く私たちに勇気とヒントをくれると思います。

行木さんの現在の活動

行木さんの今の軸は、大学での教育活動。

中央大学で「AI・データサイエンス」を文系の学生に教えたり、企業との産学連携プロジェクトを進めたり、多様な学生の学びを支えているそうです。

「文系の学生たちにAIの仕組みやデータの読み解き方を教えるのって、すごく面白いんです。みんな熱心で、課題もちゃんと出すし、休むときは理由を説明してくれる。社会人よりもしっかりしてるんじゃない?と思うくらい。」と、笑顔で話してくれました。

大学での研究テーマは「高齢化社会におけるITの活用」「デジタル格差の是正」。

IT技術だけじゃなく、社会の課題にどう貢献するかが大事。大学だからこそ、じっくり探求できる時間を落ち着いて取れます。そして、大学でも研究でも“IBMで培ったネットワークに支えられています!」とのこと。

大学外では、栃木県の足利銀行や滋賀県の平和堂など、複数企業の社外取締役として経営にも携わっています。

「ずっと製造業やITばかり見てきた私にとって、金融や小売はまったく違う世界。日々学びの連続です。」

キャリアを振り返っての最大の転機:当時感じた不安と克服方法

行木さんは「最大の転機」を聞かれると、迷わず育児期の自分を挙げました。

出産後の復職。仕事も楽しいのに、子どもが保育園に行く時間は決まっている。帰る時間も制約される。

「当時は“24時間働けますみたいな価値観が当たり前で、それも楽しかったから、17時に帰るのが後ろめたくて。子どもはかわいいけど、自分だけが早く帰って大丈夫なのかなと不安でした。」

しかも、復職したときには同期が一気に昇格していて、自分だけ取り残されたような劣等感もあったと言います。

そんななか、生活の中心は当然子どもであり、トイレにまでついてくる我が子をみて「この子には私がいないと!と思っていました。でも今は全然ついてこない(笑)。あの頃は必死でしたね。」

制約が多いなかでどうしたかというと、「限られた時間でも成果を出せるやり方に切り替えた」のだそうです。毎日、次の日にやることを細かくリストアップし、仕事を効率化。結果、以前より仕事のスピードも質も上がったとのこと。

「制約があるから工夫する。これは私のキャリアの大きな財産でした。」

さらに、もう一つの大きな転機はIBM時代、音声認識のプロジェクトに挑戦したこと。仕事をしながら大学院に通い、30代後半で若い学生に混じって必死に研究をした経験。「同じ目的に向かって探求するには年齢の差など関係ない!」と気づきました。

「ところが音声認識関連の事業が売却されてしまって、『私の努力は何だったの!?』と思いました。そんなとき、すごく信頼できる先輩から新しいソリューションのリーダーにならないかとお誘いがありました。ドイツの拠点で、建築でビルの設計をしていたメンバー、土木で橋を作ったメンバー、宇宙飛行士だったメンバーと『企業のコラボレーションをITでどう支えていくか』という議論を喧々諤々とやっていて、頭をガーンって殴られるくらいの衝撃を受けました。多様性の重要性を認識した瞬間でした。」

そして、この経験があったからこそ、のちのコラボレーション領域の技術理事就任へとつながったとのこと。

「振り返ってみれば全部つながっている。スティーブ・ジョブスのスタンフォード大学でのスピーチ、“Connecting the dots”を思い浮かべます。研究で学んだことは大学で活かせているし、苦しかった経験や諦めずに探究してきたことが、線でつながっている。」

転機の際にはつらいと思うこともあったし、きつかったこともあったけど、どれも「起きている事象には色がついていない。色を付けるのは自分」と前を向いて取り組んできたのがよかったと言います。

IBMの外から見た多様性

IBMでは女性リーダーも多く外国籍のメンバーと働く経験もあり、制度も整っている環境でした。しかし社外に出ると、少し違う景色が見えました。
「伝統的な企業だと制度はあっても多様性を尊重する風土がなかなか浸透していなかったり、企業だけが頑張っても、生活の母体である社会全体の意識が変わらなければ多様性は広がらないんです。」
 
特に印象的だったのは『ロールモデルが可視化されていないと、多くの若い女性は理系や技術職を選ばない』という現実。だからこそ「今、大学のみならず産学官が連携して、親世代・教職員・女子中高生に対して、楽しく働いている女性技術者のロールモデルを紹介したり、技術者の働き方を若い世代へ伝えたりする活動が必要だと思っています。」とのこと。
 
「女性の技術者は、もっと増えていい。今、産学官が連携して“裾野”を広げていかないと、日本がテクノロジー立国であり続けることは難しいのではないかと思って活動しています。」

メンバーへの期待とメッセージ
若手には「軸づくり」、中堅には「コンフォートゾーンから踏み出す勇気」を

<若手のメンバーに向けて>

「まずは自分の軸をつくること。迷ったら挑戦してみる。今は点にしか見えなくても、必ず線でつながります。私がそうでしたから。」

<中堅のメンバーに向けて>

「コンフォートゾーンにとどまると、景色は変わりません。一歩組織の外に出たり分野の違う人と話したりすると、一瞬で視界が広がるんですよ。cosmosのような組織を超えた活動のネットワークなど、社外ネットワークもどんどん広げてください。」

<挑戦に対して>

「失敗したらどうしようって思う気持ちはすごくわかります。でも失敗は挑戦した証なんです。むしろ失敗したことがないのは挑戦していない証拠だよね、という先輩の言葉を贈ります。」

行木さんの言葉は、厳しさよりも温かさがにじんでいました。

IBMには、挑戦する人を支えてくれる文化があります。だからこそ、本気で挑戦した結果の失敗を温かく受け止められる人であってほしいし、失敗を恐れず次の一歩を踏み出せる人であってほしいと思っています。」

行木さん インタービューアー

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