(英文記事「Inside AXA Brazil’s integration COE: How IBM’s webMethods stack helped this insurer expose APIs at scale」の日本語訳です。)
本記事では、AXAブラジルが IBM webMethods Hybrid Integration を採用し、インテグレーション基盤の標準化と Integration COE(Center of Excellence) の確立によって、パートナー向けAPI公開を大規模に実現した取り組みを紹介します。
Open Insurance(OPIN)への対応やロードサービス(Roadside assistance)のリアルタイム連携など、ビジネス要件が高度化する中で、AXAブラジルが「スピード」「信頼性」「ガバナンス」を強化していった背景が重要なポイントです。
運用課題からスケーラブルな基盤へ
パリに本社を置くAXAグループは、約150,000人の従業員を擁し、約60カ国で事業を展開する世界最大級の保険会社です。南米最大の人口を抱えるブラジルでは、AXAブラジルが事業を担っています。
同社のポートフォリオは、携帯電話や消費財向けのマイクロ保険から、商業保険やフリート保険などの複雑な商品まで多岐にわたり、B2B・B2C双方のビジネスモデルで幅広いリスクをカバーしています。
リアルタイム支援を必要とする顧客体験の実現や、新たに求められる金融規制への対応のため、AXAブラジルはインテグレーション基盤の変革に着手しました。
開発が分散していた従来の体制を見直し、専任の COE(Center of Excellence)を設立しました。さらに IBM webMethods Hybrid Integration を標準基盤として採用することで、パートナーや販売チャネル向けのAPIを 安全かつ大規模に公開 できる体制を整えました。
このプラットフォームは外部・内部の双方で成長を上げています。
外部向けには数千万件規模のトランザクションを処理し、99.99%に近い水準に到達しました。内部的には、開発・運用体制の強化により障害対応が減少し、インテグレーションチームの従業員満足度も向上しました。
IBMの支援によって構築されたこのCOE体制により、AXAブラジルの事業部門、パートナーエコシステム、開発チーム間の接続はより迅速かつ容易になりました。

3つのユースケース
AXAブラジルは、保険サービスの「オープン化」と「リアルタイム化」が進む市場で事業を展開しています。
ブラジルのOpen Insurance(OPIN)の取り組みにより、保険会社は顧客の同意に基づいた安全なAPIを公開し、ほぼリアルタイムで見積もりを提供することが求められています。
保険会社は安全で同意ベースのAPI公開を求められ、ほぼリアルタイムで見積もりを提示する必要があります。加えて、ロードサービスのような高付加価値サービスも、複数のパートナー企業を通じて即座に提供されることが求められています。
こうした背景から、スピード、信頼性、ガバナンスはITの問題ではなく、製品そのものの重要な要素となっています。
1. Open Insurance
2021年に開始されたブラジルのOPIN制度により、データの主導権が保険契約者へと移りました。契約者は自らの判断で、保険会社や金融機関間でのデータ共有を許可できるようになりました。これにより、より迅速で競争力のある見積もりが可能になりました。
しかしこの変化は、AXAブラジルのような金融機関に大きな技術的要求をもたらしました。
具体的には、適切なガバナンスのもとでのAPI公開、規制当局やパートナー企業との密接なシステム連携、そして秒単位での応答が求められました。
OPINは、顧客の保険契約情報、請求情報、リスクデータを、安全かつ本人の同意に基づき、API経由で共有する仕組みを標準化します。
その目的は、イノベーションの促進、競争率のあるエコシステムの構築、そして高度にパーソナライズされた保険商品の提供です。
具体的には以下の要件が求められます。
- 規制機関や競合他社が利用できるAPIを公開すること
- 他の保険会社から取得した外部データを収集・標準化すること
- 比較サイトやマーケットプレイスで競争力を保てるよう、見積り要求に十分高速に応答すること
この環境ではインフラの速度が極めて重要です。
見積もり提示が競合よりも数十秒遅れるだけで、商機を失ってしまう可能性があります。
2. ロードサービス支援
AXAブラジルは規制対応や見積もりの高速化だけでなく、重要なユースケースとして「路上でトラブルが発生した際のリアルタイム支援」にも注力しました。
典型的な顧客体験は以下の流れです。
- ドライバーが事故や故障で路肩に停車する
- チャット・電話・メッセージなどを通してAXAブラジルへ連絡する
- AXAのシステムが、中央の保険契約データベースを参照し、契約内容・補償範囲・利用資格を確認する
- 補償対象ならAPI経由で複数の処理を連携して実行する
- レッカー手配
- 支援事業者の手配
- 配車サービス(例:Uberなど)のバウチャー発行
- 顧客・業者・社内オペレーション部門への通知や情報連携を行う
顧客にとっては、「1つの問い合わせによって車の回収と帰宅手段の手配が完了するという、シームレスな体験」になります。
一方で内部では、契約情報の検索、利用資格の確認、パートナー企業の選定、バウチャー発行など、複数システムや企業を跨ぐ複雑な連携が発生します。
3. シームレス性と大規模処理におけるスピード
このような複雑な顧客体験を、B2Bのフリート保険商品、B2Cのマイクロ保険商品、さらにはOpen Insuranceの比較サイトなどを含めた大規模環境で実現するために、AXAは以下を必要としていました。
- 社内システム、パートナー企業、および規制プラットフォームを連携する高速で信頼性の高いAPI
- 各チームが個別に構築したサイロ型連携ではなく、一貫性のある統合アーキテクチャ
- Open InsuranceおよびOpen Finance標準に準拠した強力なガバナンスとセキュリティ
- 多くの顧客対応が緊急性と時間制約の下でも成立する、高い可用性と低遅延を実現する運用体制
- トランザクション増加に対してもコストが比例的に増大しない、スケーラブルでコスト効率の高い仕組み
技術アーキテクチャ:APIファーストでハイブリッドおよびマルチクラウド対応
チームは新しいインテグレーション基盤に向けて、以下の設計原則に合意しました。
- 業界標準のRESTやファイル連携パターンを活用したAPIファーストのインテグレーション
- 複数の事業領域やチャネルからの大量のトランザクションに耐えれる高い堅牢性と拡張性
- プロジェクトごとに後付けするのではなく、設計段階から組み込まれたセキュリティとガバナンス
- 分散したチーム単位の実装を廃し、COEによる統合的なインテグレーション専門体制の確立
プラットフォーム構成
アーキテクチャの中核となるのは、IBM webMethods Hybrid Integrationです。APIの公開およびガバナンスを実現するためのインテグレーション機能とAPI管理能力を提供します。
IBM webMethods Hybrid Integrationは、API アプリケーション、B2B連携、ファイル連携など、多様なインテグレーションパターンを統合的に管理するための共通コントロールプレーンを提供し、ハイブリッドおよびマルチクラウド環境をサポートするように設計されています。

AXAブラジルは、セキュリティとガバナンスを確保しつつ、イノベーションを促進できる、一貫性・信頼性・コスト効率を備えたAPI管理基盤を必要としていました。
AXAのハイレベルアーキテクチャ図では、左側にデータ利用側のシステム、右側にデータソースが配置されています。
流通チャネル(Distribution channels)は、AXA自社ポータルだけでなく、外部のパートナー企業のサービスまで含む広範な構造です。
インテグレーション層およびAPI層で使われている主要なコンポーネントは以下です。
基幹システムには、契約管理システム・請求管理システム・保険金支払い(クレーム)システム・顧客情報管理システムが含まれます。それに加えて、保険契約や補償内容の確認における「唯一の正しい情報源(Single Source of Truth)」として機能する統合データ層が存在します。
さらに、運用およびガバナンス層には以下が含まれます。
- 堅牢なオンプレミス環境上に構築された、開発・テスト・本番の各環境を分離したマルチ環境構成
- 数千万件のトランザクションにおいて99.99%に近い可用性を維持するための監視および障害管理体制
- リリース調整やインテグレーション不具合の削減を目的としたガバナンスツール(例:作業管理やコードレビューのプロセス)
オンプレミス展開とコストモデル
現在、インテグレーションおよびAPI管理基盤はオンプレミス環境で稼働しています。これは以下の戦略的理由によるものです。
- 社内インフラおよび自社運用チームによる管理により、SLAや応答時間を厳密にコントロールできる。
- トランザクション単位の課金ではなく、サーバーやプロセッサ容量に基づく予測可能なコスト構造を採用。これによりトランザクション量が増加してもライセンス費用が比例して増加することを防ぐ。
同時にAXAブラジルは日常的にSaaSコンポーネントとも連携しており、プラットフォームがマイクロサービス化およびコンテナベースの構成へ進化する中で、IBMが提供する業界をリードするクラウドベースのハイブリッドwebMethods製品の評価も進めています。
Integration COE(Center of Excellence)
本プロジェクトの成功の多くは技術面だけでなく、組織や文化の変革によるものでした。
インテグレーション作業を各チームに分散させたままにするのではなく、IBM webMethods基盤を活用してAXAブラジルは明確な責任範囲と中央集約型の管理体制を持つ正式なCOEを設立しました。
以前は、サイロ化、一貫性のない開発手法、限定的なガバナンスによりインテグレーション開発は分断されていました。アーキテクトや開発者は各チームに分散し、標準や長期的なプラットフォーム方針についての共通認識も十分ではありませんでした。
COEはこれらの役割を統合されたリーダーシップのもとに集約し、新しいアーキテクチャ能力と既存の開発者を組み合わせました。また、インテグレーション設計、品質、およびプラットフォーム進化に対する共通の責任体制を確立しました。
COEはAPI設計、セキュリティ、ログ取得に関する統一標準を導入し、軽量ながら定期的なガバナンスプロセスによって運用を支えました。
週次・月次レビュー、共通コード標準、再利用パターンの定義により、開発チームの負担を増やすことなく予測可能性を向上させました。
ツールによって作業の調整と可視化が進み、マネジメント層は不要なプロセスを増やすのではなく、開発者を支援できるようになりました。
この体制は統制よりも支援を重視しています。
専門知識を集約し、共通の知見や設計パターンを再利用することで、チーム全体が共に学び改善できる環境が生まれました。
約3年間で、インテグレーション基盤の成熟度はAXAの内部評価でレベル1(初期段階)からレベル3へ向上しました(レベル5が最適化状態)。
また、正式なガバナンス体制と文書化されたプロセスが整備され、チーム間で共有されています。
COEはすでに、障害件数の減少・運用効率の向上などの成果を上げています。また、サポートチケットの継続的な減少傾向は2025年まで続く見込みです。
高可用性とコスト削減の効果
インテグレーション基盤の近代化により、AXAブラジルは以下の具体的な成果を達成しました。
- 高可用性:近年、AXAブラジルは4,000万件以上のトランザクションを処理し、可用性は99.99%に近い水準を達成。
また、2025年1〜5月だけでも、プラットフォームは2,200万件のトランザクションを処理し、99.99%の信頼性と平均4時間の障害復旧時間を実現した。
- 低レスポンスタイム:Open Insuranceにおけるリアルタイム見積りやリアルタイム顧客支援を支えられる高速なAPI応答を実現。
- エンジニアリング成熟度向上:共通コンポーネントの再利用により新規パートナー接続の期間を短縮しました。
- コスト効率の改善:サーバー容量に基づくオンプレミスのライセンスモデルにより、AXAブラジルはパフォーマンスを最適化しつつ、トランザクション単位課金によるコスト増加を回避できています。
エンドユーザーへのメリット
- エンドユーザーおよび保険代理店にとって、これらの技術的な取り組みは具体的な価値に直結します。
Open Insuranceの見積り:標準化データを低遅延で取り込み、より迅速で競争力のある提案を実現
- ロードサービス:保険請求、レッカー手配、配車サービスを単一のワークフローで連携し、事故時の顧客のストレスを軽減
- オムニチャネル体験:ポータル、マーケットプレイス、パートナーチャネルに対して同一のAPI基盤を利用
このAPI中心の運用モデルは、Open Insuranceの目標である、より高い透明性・顧客によるデータ管理の強化・よりパーソナライズされた保険商品を実現する重要な基盤となっています。
運用課題からスケーラブルな基盤へ
AXAブラジルは運用上の課題を、インテグレーション基盤を標準化し技術基盤を強化する機会へと転換しました。
専任のCOEにインテグレーションを集約し、IBM webMethods Hybrid Integrationを採用することで、高可用性かつ低遅延のプラットフォームを実現しました。
このプラットフォームは数千万件のトランザクションを支え、複数パートナーにまたがる複雑な顧客体験を実現しています。
オンプレミスによるSLA/コスト管理、APIファースト設計、強力なガバナンス、統合されたインテグレーションチームといったアーキテクチャの選択により、このプラットフォームはハイパーオートメーションへの進化に対応できる基盤となっています。
IBMのインテグレーションおよびAPI管理基盤を土台とすることで、AXAブラジルは新しい商品、パートナー、自動化シナリオへとプラットフォームを拡張できるようになりました。コアを作り直すことなく新しい顧客体験に追従し、重要な場面ではより高い信頼性とリアルタイム性を提供できる体制が整っています。
まとめ
本事例が示すのは、Open Insuranceやマルチパートナー連携が当たり前になるほど、求められるのは「APIを作ること」ではなく、APIを安全に・速く・止めずに運用し続けることだという点です。
IBM webMethodsは、API公開・管理(ガバナンス)と、複数システム/パートナーを跨ぐ連携を一体として設計できるため、顧客体験のシームレスさを支える土台になり得ます。
さらにCOEによる標準化・再利用を進めることで、開発のばらつきや属人化を抑え、スケールしても品質とコスト効率を保ちやすい点が価値だと感じました。